3Dプリントの為の3Dモデリングに愛を
突然ながら実は今年、3Dプリント自助具コンテストの審査員を頼まれた。
かなりの物がFFF(FDM)方式の3Dプリンターで作られている。あらゆる場所に存在する工作機械としてFFF方式の3Dプリンターには大きな適性があると日ごろから言っている通りで、非常にうれしい。
というわけで以前から思っていたことを言う頃合いが来たような気がする。
やわらかく言うと事態が改善されなさそうなので、ハッキリ言うが
『応募に添付されている3Dモデルに印刷しずらいデータの比率が高い』
このモデルはどこの誰がプリントするのか?
どんなモデルなら印刷しやすいのか?
どんなモデルなら機能しやすいのか?
ということが頭から抜けているのではないかと思う。
このような視点に欠けたモデルは公開される実用する自助具の3Dモデルとしての要件に達していないと私は思う。
というわけでこの記事で3Dモデルを公開するときに気を付けるべきポイントを書き記しておこうと思う。
今回のコンテストにはFabbleが使用されており、ここから様々な応募作品ルを見ることができる。
今回の自助具コンテストの作品は自助具の為のプラットフォーム
COCRE HUB (コクリハブ)に登録される予定とのこと
自助具が必要な方に限らず、ぜひ一度リンク先を覗いてみて頂きたい。
https://cocrehub.com/dl/767bfd
ThingiverseのFabCareJapanグループにもたくさんの自助具が公開されているので役立ててほしい。
愛のあるモデリングの形
コンテストというのはプライドやミーハー心、競争心を煽るもので、自助具のコンテストというのはもしかしたらこの形式は不向きなのかもしれないとすこし不安の影がよぎる。一方で自助具コンテストに参加するということは幾分か助けたい人が居るんだろうとも思う。そういう高潔な精神を応援したい。
そういう精神の後押しができればと思うし、功名心が透けるような表面的なアイデアやモデリングを評価する気はない。
造形に失敗してイライラというのは出来るだけ減らしたい。時間を無駄にさせたくない。この印刷は反りやすい形状だったりしないだろうか?自助具を印刷する人が器用にサポートを剥がせるだろうか?
この3Dモデルに愛はあるだろうか?
自助具が必要な人やその周りの人に、印刷してもらう必要がある。彼らは自助具が必要で自助具のプロフェッショナルでもないし、3Dプリントの愛好家でもプロフェッショナルでもない。
ただ、みな自分の中にある力を発揮したい。(誰もがそうだが)
だから、可能な限り造形しやすく、サポート材は少なく、いつでも機能する可能性が高い、ロバストなデザインが求められる。
造形しやすい、機能しやすい形に形状を変更するというのは愛だ、自助具コンテストに参加する方の胸にある愛を形にしてほしい。
3Dモデルそのもの品質
3Dデータ(stlファイルが共有される事が多い)の品質が低ければ当然のようにトラブルになる。だが、品質の良い3Dモデルとはいったいどんなものだろう?
以下の項目は実用する3Dモデルとして最低限守るべきことだと私は思う。
ファイル名は半角英数(特殊文字なし)で、長すぎない名前を
しばしばそのようなファイル名はトラブルになるが、理由は様々ある。
・スライサーが2バイト文字をサポートしていない
・3Dプリンターのキャラクタ液晶では文字化けする
・実行時にエラーで止まる
・名前が長すぎて表示しきれない
などなど…..
メッシュが(不適切に)粗すぎる
TinkerCADやAutodesk 123Dを使ってる訳でもないのに手が痛いほどカクカクとしたSTLファイルが公開されているのを見かける。
ファイルサイズを30kbyte以下にしろと言われたわけではないだろうから、もう少しメッシュは細かくても良い。その方がプリンターの動きもスムーズだ。
1Mbyteぐらいは個人的には全然OKだと思う。
ファイルサイズが(不適切に)大きすぎる
メッシュが粗すぎるのも問題だが、逆にファイルサイズが大きすぎるデータも稀にあり、もんだいである。
スキャンデータをブーリアンでくりぬいたりしてこのようなデータをそのままにしたり、エクスポート時の詳細度設定が細かすぎるなどが原因となる。
10Mbyteを超えると非力なパソコンではスライスするのが億劫になることもある。
公開するデータを3Dプリントせずに公開するような読者はいないと思う。スライスするときに『このデータちょっと重いな…..』と感じるはずである。
感じた違和感に素直に従って、データ量を減らそう。
あなたがちょっと感じた違和感は、別のどこかで大きな問題になる。
モデルが(適切な)印刷方向に向いていない
stlファイルを読み込むと3Dモデルが横倒しになっている、微妙に接地していない。なんていうのはザラにある。
『この人、ほんとに印刷して機能することを確認したのかな?』
と疑問が生じるし、必要な人がこれを読み込んでそのまま印刷したらどうなると思う?
公開するモデルをスライスするときに、ついでにスライサーからエクスポートすると方向も間違いないし、もしうまく接地しない3Dモデルになっていたら気づくはずだ。
メッシュが結合されていない/閉じられていない
これは本当に多い。
ちゃんとブーリアン演算で結合していないとか、メッシュが閉じてないSTLファイルにいくつも遭遇した。
スライスできなかったり、印刷に欠陥が出ることも多いのでスライサーでオブジェクトの分解やスマッシュを試してみて、問題ないことを確認してほしい。
そのモデルは印刷しやすいか
これについては別の記事でかなり書いた気がするが、要点をいくつか説明した方が良いだろうと思う。
印刷が難しいモデルが自助具として役に立つことはない。
自助具を印刷する人に、印刷をチャレンジさせないでほしい。彼らがチャレンジするべきことはもう少し先にあるのだから。
役に立てるために印刷が難しい形状になるとしても、良い分割、ちょっとした工夫をすると劇的に印刷難易度が下がることが多い。
ちょっとした工夫をいくつかしてほしい。
反りやすい形状を減らす
実は反りやすい部分の角を丸めるだけで、反りづらくなる。定着のトラブルも減る。
下記のようなハート形形状だと、どこが一番はがれやすいかというと、先端のとんがり部分から剥がれることが多い。
造形が真ん中から剥がれるということはほぼ無い。いつも崩壊は端から起こる。そしてそれは鋭く細く飛び出た部分から起こることが多い。
飛び出た部分が反りやすい理由はいくつもある。冷気に触れる面積が大きい、収縮力が集中する、印刷の開始点になりやすいため定着が不十分になりがち、などなど。
しかし、剥がれるきっかけを与えなければ、反り始めを遅らせることができる。
というわけで、こんな感じに丸めてみよう。
エッジが丸まると手にやわらかく、ケガもし辛い。
後処理を減らす
ブリムの処理を簡単にしたり、エレファントフット(一層目を強くベッドに押し付けることによって発生する広がり)
を抑えるのには0.5mm程度の面取り(チャンファー)をつけるとよい。
※R、フィレットをつけると2層目が難しくなるので面取りが良い。
ちなみに上面にも面取りをすると、断面の変化が小さくなり多少反りが減る場合があり、さらに上面の見栄えも向上する。
本当に必要な形状は?
印刷時間を短縮する最も広範囲に効果のある方法は、印刷する部分を絞り込むことである。
さほど印刷する必要がない、あるいは部分的にでも流用できる既製品がある場合はそれを使った方が良い。
印刷部分が小さければ難易度も下がるし、印刷トラブルがあったとしても再トライしやすい。
『機能は主に表面に宿る』ので思い切ってくり抜いてみるのも手。
製作上の注意書きを書こう
時系列で説明したくなるからなのか、製作上の注意書きが一番下にあったりするものが散見される。
まず必要なのはそれがどういう物かという事と、トラブりやすい箇所の回避方法や注意書きが第一、そのあとでどうやって作ったかを書けばよい。
物が欲しい人が読むのは最初の数行だけ。
一方でモデリングから始めたくなった人は隅から隅まで読むから大丈夫なはず。役に立てる為に重要な事から書いた方が良いでしょう。
最後に
3Dモデルや情報を公開するときに、誰かが造形して喜ぶ最後の姿を想像できるだろうか?その途中に困った顔が浮かぶようなポイントは無いだろうか?
少し考えてみるだけで改善するポイントは見つかると思う。
今からでも全く遅くない。自分が過去にアップロードしたモデルを見直してみるときがiまさに ”今” かもしれない。
ここから先は特に何もないですが、私にコーヒーをおごりたい場合はご購入ください。なおコンテストの結果には一切影響しません。
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記事をサポートしていただくと、一層のやる気と遊び心を発揮して新しい記事をすぐに書いたり、3Dプリントを購入してレビューしたりしちゃうかもしれません。