見出し画像

ANYCUBIC I3 MEGA-Sをダイレクトエクストルーダーに改造して造形品質を上げる

UPDATE

2019/11/30
 * ステッピングモーターの品切れ対策を追加
 * 別体プリント冷却ダクトバージョンを追加(未テスト)
 * 形状を更新し左側の造形不能エリアを解消(20mmモーター)
 * 印刷設定についての記載を追加

2020/07/08
*モータードライバーの調整について追記
*派生したRemixについて追記
*その他ちょこちょこと追記/修正

2020/10/22
"Remix(moyashiさん作)を追記

ANYCUBICのI3MEGA-Sはボーデンタイプのエクストルーダーを持つ3Dプリンターなので、ノズルから樹脂が出るまでの俊敏性が低くなりがちで、リトラクション量が多めに必要です。
またTPUの印刷もボーデンタイプだと綺麗に出すのは難易度が上がります。もちろんボーデン式はノズル周辺が軽く作れるので、メリットも多いのですが.......

Thingiverseを見るといろいろなダイレクト化するMODがあるのですが、どうも納得いかないので自分で設計をしてみました。
↓こんな感じで↓

デメリットを最小限に

ダイレクトエクストルーダーのデメリットはステッピングモーターの大きく、重くなるという1点に尽きます。
X軸の脱調や印刷速度を大きくすると印刷品質が低下するわけですね。

そこでXモーターは軽量薄型のこちらを使います。
今回は通常のサイズのステッピングモーターを使うと印刷エリアの左側使えなくなってしましますので、その対策と軽量化のためです。
17HS08-1004Sは厚みが20ミリと薄く、トルクは大きくありませんがMEGA-SのTitanタイプのような倍力装置のついたエクストルーダーを用いる場合はトルクは足ります。ただ、表面積が小さいので発熱により故障(トルクが低下)する可能性がありますが、それは別途対策します。

Fusion360で設計しました

いろいろ設計中に方針の変更もあったのですが、最終的にこんな感じになりました。

画像1

設計する際の注意事項なのですが、まずは周辺部品をモデリングしましょう。今回の場合はステッピングモーターやファン、リニアブッシュのLM8UU、ノズルアセンブリなどです。
今回、TitanエクストルーダーについてはE3Dのオリジナル形状をGrabCADから拝借のうえ、ANYCUBICのTitanエクストルーダーの寸法に変更しています。
ANYCUBICのMEGA-SのTitanは厚みが4mm厚く、エクストルーダーの固定位置もその分4mmずれています。

3Dプリンタで作ることを意識したかなり攻めた設計です。
もともとのスチールやアルミ製の外装はすべて廃棄し軽量化され、ステッピングモーターの重量を相殺します。
GT2ベルトの固定具、リニアブッシュの固定具なども一体化した為、ネジやナットの大半も使用していません。ネジを5本流用するのみです。
体積は約64ccでFDMで3Dプリントした場合はPLAやPETGなら60g程度、比重が1に近いABSなら50g程度になるでしょう。

造形品質をアップするためにステッピングモータを横に向けてXシャフトに近づけてます。

ヒートシンクとモーターの冷却

ヒートシンクとステッピングモーターの冷却についてはかなり気を使っています。特にステッピングモーターについてはあまり前例がないのではないでしょうか?
ステッピングモーターのブラケットも3Dプリントした樹脂製となるので、そのままだと熱の逃げ場が少ないためモーターの磁力低下やモーターシャフトからのフィラメントに熱が伝わる事によって押し出し不良が発生する可能性が出てきます。
そこでヒートシンク及びステッピングモーターの冷却はもとのヒートシンク冷却ファンで行います。
ヒートシンクへしっかりと導風したうえで、ヒートシンク下部を冷やした温かい空気はそのまま後方(リニアブッシュ側)のスリットから排気します。

画像3

画像2

画像5

まだ冷たい空気はヒートシンクの左側に誘導して、上のステッピングモーターに向かいます。
これによってモーターの表面温度を樹脂のガラス遷移温度以下にするという狙いです。

画像4

印刷物冷却ダクト

こちらも導風を工夫しています。
ノズルやヒーターブロックへ風が当たってしまうと計測温度と実際のノズル温度が乖離してしまいますし、温度が不安定になります。
そこでダクトで導風をしつつ風よけ形状を作っています。
遠心機ブロアは出口の位置によって風量がかなり違うので、できるだけ均一に印刷物が冷却できるように3方向に分岐させる方法にしました。
ただ、この冷却ダクトは印刷に失敗してモジャモジャ様を召喚してしまうと溶けてしまう諸刃の剣なので、別体タイプを使用した方が良いかもしれません。(後半参照)

画像6

画像7

組み込みについての注意事項

いくつか.....
・ステッピングモーターの配線はリード線がそのままなので、コネクタをはんだ付けする必要があります。
PHコネクタのポスト側(メス)をはんだ付けしてください。
また、必要に応じて配線の延長が必要かもしれません。

・純正リニアブッシュの固定具は、一見すると取り外せないように見えるのですが、ペンチなどで掴んで無理やりひねるように取り外すと、X軸のシャフトの直径(8mm)まで口が広がるので簡単に取り外せます。

・テフロンチューブをノズルアセンブリに差し込むのを忘れずに。
長さは、黒いカバーをぎゅっと押すとちょうど収まるぐらいです。
チューブを切るときはハサミではなくカッターナイフなどで切りましょう。切り口をつぶさないように注意!

画像9

画像10

・Titanエクストルーダーの固定ネジの1本は長さが不足します。
またヒートシンクの裏側部に位置するネジは取り付けできません。
たぶん問題ないので残りのネジでステッピングモータとTitanを固定してください。
不安な場合は適当な長さのネジで固定してください。

ステッピングモーターについて

17HS08-1004Sが入手困難な場合(2019/11/30現在在庫切れ)は下記のステッピングモーターが使用できる可能性があります。未検証です

17HM08-1204S  (21mm thickness 400steps)
1mmほど厚く、1回転当たりのステップ数が400stepとなっています。
ファームウェアのE軸のStep/mmを倍にする必要があります。

17HS10-0704S (25mm thickness)
こちらのモーターも未検証ですが動くと思います。
ただ厚みが5mm厚いのでスペーサーを印刷して固定してください。
スペーサーが取り付けられるように2019/11/29に改良をしてあります。
あるいは適当にテープなどを張り付けてX軸のリミットスイッチがきちんと動作するようにしてください。
ただし造形エリアの左側5mmほどが造形に使えなくなります。

組み立て完了

画像8

画像11

印刷設定について

PLAやPETG、ABS等硬めの樹脂の印刷ではリトラクション距離は0.8mm程度に減らしてください。
軽量に作ってありますが、モーターが追加された分が完全に相殺されたわけではありません。そこでJerkは6~8mm/s、Accelerationは800~1200mm^2/s程度に調整してみてください。
ファームウェアでの上限を変更しても良いでしょうし、スライサで設定しても良いと思います。
ファームウェア上で設定しておくと誤設定による脱調は防ぎやすいかもしれません。その場合は印刷予測時間が不正確になりやすいですので気に留めておいてください。

モータードライバーのVref調整(電流量調整)

特にE軸ですが、モーターが小さくなりますが、発熱量は減りません。
放熱する表面積は減るのでモーターがオーバーヒートなる場合があります。
冷却風を当ててアクティブに冷却するようになってはいますが、出荷状態で高い電流値が流れている個体は危ないかもしれません。

モータードライバーの一時的なオーバーヒートは電流が流れなくなり脱調するだけなのですが、モーターそのものがオーバーヒートによってモーター内部のコイルの被覆が溶けてしまうとモーターを交換するしかなくなります。
特に冬はOKでも夏の気温だと放熱が足りなくなる、エンクロージャーを追加すると放熱が足りなくなる場合もあります。
(私は夏になってやらかしました。)
というわけで10分ほど動かしてみてモーターが火傷しそうなほど熱い場合はモーターに流す電流量をVrefを調整することで減らしてください。
(モーターの仕様によりますが、表面温度80℃を超えない方が良いようです)
TITANタイプのエクストルーダーでギアで倍力されているため、多少電流を減らしても問題はありません。
純正がVref0.9程度なので、0.8~0.85ぐらいが適切かと思われます。

ヘッドが重くなるので逆にX軸モーターとモータードライバの放熱に余裕があるなら、X軸のVrefはほんの少し高めでもいいかもしれません。

バリエーション

・I3MEGA-S流用(スタンダード)
・パーツ冷却ダクト別体仕様 (おすすめ)
・E3D純正Titan仕様(テストしてない)

リミックス

ありがたい事に数人の方が自分の仕様に合わせてリミックスした3Dデータを公開してくれたので、それを使うのも良いでしょう。
設計データを公開しておいてよかった.....

Yanさんのリミックス
BLTouch(接触式センサー)のブラケットが一体化され、
コネクタ保持ブラケットが追加されている。
コネクタ保持ブラケットだけでも印刷して付けると良いと思います。

POPOJIさんのリミックス
5015サイズのブロアファンがつけられるようになっている。
ファンが後ろに来るので、ノズル先が見やすくていいかも。

POPOJIさんのリミックス その2
BondtechのエクストルーダーとE3DのV6ノズル、ピエゾセンサーでのZプロービングを備えた意欲作。

moyashiさんのリミックス
ベルトテンショナーとBLTouchステーが統合されています。
いろんな人の良い設計が取り入れられていて素晴らしい。

Caesorさんのリミックス
Vスロット方式の"MEGA-X"に取り付けるためにリミックスしてくれました。

最後に

もしサポートが必要なら、ぜひ本記事のサポートもお願いします。
なおご購入いただくとこの記事の更新が届きます。(更新があれば)

ここから先は

15字

¥ 500

記事をサポートしていただくと、一層のやる気と遊び心を発揮して新しい記事をすぐに書いたり、3Dプリントを購入してレビューしたりしちゃうかもしれません。