社会全体を俯瞰した上で問題解決を図ろう—日米の生活実態は?「106万円の壁」とは何か?
米国の大統領選挙、日本の衆議院選挙の結果、物価高に対して明確な対策が求められています。
本日の日経新聞1面では、さっそく主婦のパート労働者、学生のアルバイト労働者の賃金を上げると、配偶者の扶養内で働く人が手取り収入の減少を意識して仕事を自制してしまう年収の壁=税金、社会保険料を払う境目の「106万円の壁」の撤廃に動き出しました。
政権与党の自民党はダメ出しを受けてから、国民民主党の選挙公約を受け入れ、真剣にやりましょうということに見えてしまいますね。
「それなら、最初からスパッとやればよかったのに…。」
実は、政権党である自民党は、すでに2019年の参議院選挙の公約に
「130万円の壁・106万円の壁」の見直しを進めると宣言しました。
2023年3月には、当時の岸田政権の所信表明で取り上げて、23年10月から「106万円の壁」の抜本改革の「つなぎ処置」として、従業員101人以上の企業対象に、賃金の15%以上分を従業員に追加支給したら1〜2年目に20万円、3年目も一定要件のもとで10万円と3年間で最大50万円の社会保険料を助成する制度をつくりました。
これでは、自営業者や100人以下の小規模企業に対して不平等感がありますね。
国民の審判は、国民のためにというよりも、中・大企業を助成するため、
さらには年金制度再構築のためと受け止めたことになりますね。
それでは、日米国民の生活実態を調べた上で、就活生の皆さんには身近な問題ともいえる「106万円の壁」について考察してみましょう。
なぜ、米国Z世代は、トランプ支持に動いたのか
米国選挙のトランプ氏勝利の分析では、「経済を何とかしてほしい」と本来、ハリス氏の民主党支持層であった若者層や低所得者層が離反したからです。
「今回の選挙では、4割の有権者が最大の争点に「経済・雇用」を挙げた。「経済が不調だ」と答えた有権者は24%と、前回選挙の14%から増えた。
一般的に景気が良いと認識する人は時の政権の候補に、良くないと認識すれば対立候補に票を投じることが多い。
蓄積した経済への不満がトランプ氏への追い風になったとみられる。
長引くインフレに伴う生活必需品の値上がりで打撃を受けた低所得層でその傾向が目立った。
世帯の所得別に投票行動をみると、ハリス副大統領ら民主党候補が獲得した票は世帯年収10万ドル(約1530万円)未満のすべての層で減少した。
落ち込み幅が最も大きかったのは同2万5000ドル未満の層で、獲得した票の比率は56%から50%に下がった。
民主党は社会保障を重視し、経済的に貧しい層を支持基盤としてきた。
ハリス氏は最低賃金の引き上げなど低所得層対策の公約を打ち出したが、高インフレを長引かせたバイデン政権に対する失望がトランプ氏への期待感を高めた形だ。」(日経新聞2024年11月9日「低所得・若者ほどトランプ氏 不公平感が圧勝の原動力」より)
米国の若者の生活実態はどうなっているのか
「バンク・オブ・アメリカは7月10日、米国のZ世代(18~27歳)1,091人を対象に2024年4月17日~5月3日に実施した、Z世代の財政状況に関する調査結果を発表した。
調査結果によると、全体の半数以上(54%)が、両親や家族などからの経済的援助を受けながら、生活を送っていることがわかった。また、回答者の52%は、自分自身が望む生活を送るのに十分な収入を得ていないと答え、高い生活費を主要な経済的困難の1つとしている。
特に、住居費・家賃が最大の障壁で、半数以上(54%)が自身で住居費を支払える状況にないと回答した。住居費を支払っている46%のうち、64%が月給の30%以上を住居費に充てており、物価高や生活費増大から経済的負担が高まっている。」(JETRO「ビジネス短信」より)
ということで、コロナの影響から労働力が確保できず米国産業のサプライチェーンが機能不全に陥り、さらにはウクライナに対するロシア侵略で食料の高騰を招き、欧州の物流網が混乱して物価高を招くなど、高インフレの経済対策が求められていますね。
日本の生活実態―食費に負担を感じ、特に負担を感じるのは住宅費
経済面で負担と感じている出費は、食費(2586人=38%)、水道光熱費(2569人=38%)、保険料(2379人=35%)が上位を占めました。食費と水道光熱費は近年の値上がりを反映しているとみられますが、近年値下げされた通信費・携帯電話の通話料金も回答者の31%にあたる2089人が、なお負担に感じています。
さらに「最も」経済的に負担と感じる出費を聞いたところ、住宅ローンや家賃などの住宅費(1115人=17%)、老後資金(838人=12%)、食費(804人=12%)が上位となりました。
働く上での不満は給料の低さがトップ
働く上での問題点(困っていること)で最も多かったのは、給料の低さ(3187人=32%)で、2位は人間関係(2409人=24%)、3位は健康への影響(1791人=18%)と続いています。
満足な点は人間関係(3394人=34%)、給料(3061人=31%)、休みの取りやすさ(2965人=30%)がトップ3でした。
給料については、高いという満足派と安いという不満派がほぼ拮抗しています。物価高で実質賃金が伸び悩む中、満足と答えた人が多いのは意外な感じもしますが、前述した中高年を中心とした格差の拡大を反映しているのかもしれません。生活の豊かさを実感していない人には給料が低いという不満が高くなっています。物価高は賃金格差を実感させる方向に働きますから、今後、こうした傾向がさらに進むおそれもあります。
(読売新聞オンライン「2023年10月末に全国の20歳から79歳までの男女1万人を対象にした生活実態調査」より引用)
「106万円の壁」撤廃へ 厚生年金の対象拡大 厚労省が調整 週20時間以上に原則適用
2024/11/9付 日本経済新聞 朝刊
厚生労働省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃する方向で調整に入った。配偶者の扶養内で働く人が手取り収入の減少を意識する「106万円の壁」はなくなる。労働時間要件は残る見通しで、週20時間以上働くと原則として厚生年金に入ることになる。
同省は企業規模要件を2025年の制度改正で撤廃する方針も固めている。賃金要件の月8.8万円は、年収換算で106万円程度となる。実現すると200万人が新たに対象になる試算だ。
25年は5年に1度の年金制度改正の年にあたる。厚労省は近く開く審議会で要件の見直しについて議論して、年末をめどに詳細を詰める。
25年の通常国会で改正法案を提出する考えだ。
賃金要件はこれまで、年金や医療の社会保険料を払うため手取りが減ることから、就業時間を短くするなど労働者の働き控えにつながるとの指摘がされていた。
ただ、社会保険に加入することで、労働者は将来受け取る年金を増やすことができるほか、医療保険の保障として、傷病手当金など手当が手厚くなるメリットがある。
改正の背景には近年の最低賃金の上昇がある。24年度の最低賃金の全国加重平均は1055円で、23年度から51円上昇した。
週20時間働くと月額賃金が8万8000円を上回る地域が増えており、厚労省は将来的に賃金要件が事実上不要になると判断した。
今回の改正で週所定労働時間は維持される見通しだ。
学生除外要件も残す。
企業規模要件と賃金要件はなくなり、さらに5人以上の個人事業所は全ての業種が対象になる方向だ。
現行制度では、配偶者の扶養内で働くパート労働者は、従業員51人以上の企業で週20時間以上、月額賃金8.8万円以上、学生ではないといった要件を満たすと、厚生年金に入る必要がある。
厚生年金に加入することで老後の低年金リスクを軽減できるほか、加入者が増えれば将来世代の年金の受給水準を改善する効果も期待できる。
「年収の壁」いつまで? 働き控え、助成金で解決せず 3Graphics
2023/7/10 5:00 日本経済新聞 電子版
パート主婦が働く時間を増やすと世帯の手取りが減る「年収の壁」問題が注目を集めている。働き控えを生み、人手不足の要因となっているためだ。国は手取りが減らないよう助成金を設ける方針だが、矛盾の解消には社会保障制度の改革が必要だ。3つのグラフィックとともにみていこう。
年収の壁とは、主に会社員の夫に扶養される専業主婦がパートで働くときに直面する問題だ。パート主婦は年収が一定額を超えると、年金や医療の社会保険料を負担しなくてはならなくなる。その境目が従業員101人以上の企業で年収106万円、100人以下で130万円となる。
社会保険料の負担が手取りに与える影響は大きい。106万円の壁の場合、壁を超えると手取りは15万円程度減ってしまう。
税納付から生じる壁もある。住民税は年収100万円、所得税は103万円を超えると納付が始まる。年収が150万円を超えると、夫の税負担を和らげる「配偶者特別控除」も減る。こうした壁を避けるために就業時間を減らすパート女性が多くいる。
実態調査より野村総合研究所集計
政府は壁による手取り減を穴埋めする助成金制度を年内にも設ける。雇用保険料を財源とし、助成額は1人あたり最大50万円となる見通しだ。
助成金は壁そのものをなくすわけではない。従来、自身で社会保険料を負担してきた自営業者の妻らは支援対象にならず、不公平感も強い。
そもそも配偶者の扶養に入ることで社会保険料を負担せずに年金給付を受けられる「第3号被保険者制度」の存在こそ、壁ができてしまう根本の要因だ。政府は今後の年金制度改正で、同制度の見直しも視野に入れる。
企業も壁の当事者だ。従業員の配偶者の年収が一定額を下回るうちは生活補助として家族手当を支給する企業は多い。働き控えを生む給与制度の改革も求められる。