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防衛費増額、なぜ?各党の主張は?

※この記事は2022年7月6日に公開されたものです。

今週末に迫り、各党・各候補の活動が佳境を迎えている参議院選挙。今回は「参議院選挙のそもそも」シリーズの第8弾として、大きな争点となっている「防衛費」について解説します。

日本の防衛費、今までは?

 日本には、防衛費をGDP(国内総生産)の1%以内の額にしようという決まりがあります。この決まりは自衛隊の発足以来防衛費が無制限に膨らむことが懸念されてきたことから1976年に閣議決定され、防衛にどれだけお金を使うかの目安として現在まで守られてきました。
 しかし、今年4月に自民党が防衛費増額を求める提言を政府に提言するなど、最近増額に向けた動きが活発化しています。  前回の2021年衆議院選挙では、自民党と日本維新の会がGDP比2%を念頭に置いた防衛費の増額を公約に掲げましたが、他の党は防衛費についてあまり言及しませんでした。一方、今回の参議院選挙ではすべての主要政党が言及し、防衛費は新たな争点となっていると言えます。
 では、この参議院選挙で各党はどのような政策を掲げているのでしょうか。各党の公約集から抜粋して紹介します。

GDP比2%への増額を掲げる政党の公約

自民党

 NATO(北大西洋条約機構)加盟国がGDPの2%以上を目標にしていることも念頭に、来年度から5年以内に防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す。

日本維新の会

 防衛費のGDP比1%枠を撤廃し、まずはGDP 比2%を一つの目安として増額することを目指す。

NHK党

 防衛費をGDP比2%程度に引き上げる。

額は定めないが増額を目指す政党の公約

公明党

 専守防衛の下、防衛力を着実に整備・強化する。予算額ありきではなく、具体的に何が必要なのか、個別具体的に検討し、真に必要な予算の確保を図る。

立憲民主党

 専守防衛との整合性など多角的な観点から検討を行い、着実な防衛力整備を行う。総額ありきではなく、メリハリのある防衛予算で防衛力の質的向上を図る。

国民民主党

 防衛技術の進歩、サイバー、宇宙、電磁波など新たな領域に対処できるよう、専守防衛に徹しつつ、必要な防衛費を増額する。

増額に反対する政党の公約

日本共産党

 平和と暮らしを壊す軍事費2倍化を許さない。

社会民主党

 ウクライナ危機に便乗した防衛力大幅増強の動きに反対する。

なぜGDP比2%まで増額?

 防衛費増額が争点になっている理由には、日本を取り巻く安全保障環境が厳しくなっていることが挙げられます。中国が軍事力を拡大させ、北朝鮮がミサイル発射を繰り返している中、周辺地域の有事に備える必要があります。また、ロシアのウクライナ侵攻で国民の不安が高まったことも背景です。
 また、宇宙・サイバー・電磁波など、技術の進歩によって生まれた新たな領域に対応する必要があることも理由の一つです。防衛費を増額して最新の装備を導入することで、戦い方の変化に対応できます。
 ロシアによるウクライナ侵攻で、欧米のNATO加盟国が次々と軍事費増額を表明したことも日本で防衛費増額が注目されている理由の一つです。ドイツは最近まで、平和主義的な世論を背景に軍事費を抑制してきましたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、2022年度予算から軍事費をGDP比2%にまで大幅に引き上げると表明しました。NATOは、軍事費をGDP比2%とするよう加盟国に要求しています。日本はNATOに加盟しているわけではありませんが、日本も同様にしないと、NATO加盟国から冷ややかな目で見られるとの意見もあります。

GDP比2%への増額に対する批判

 防衛費の総額を決めた後に防衛力強化を図ると、不必要な支出につながり、予算に無駄が生じるという批判があります。総額ありきではなく、日本の状況を考えて本当に必要な部分を強化するべきだと言われています。
 日本が防衛力強化に乗り出せば、中国などの周辺国との間に軍事的緊張をもたらす可能性があります。そうなれば、東アジアが、自国が軍事力を増強すると相手国も増強するという軍拡の悪循環に陥るかもしれません。
 また、GDP比2%への増額は子育て支援予算に相当する4.3兆円が必要とされますが、各政党はその財源を明言していません。財政規律を考えずに増額を実行すれば、国の財政は悪化します。増額のために国債を発行すれば、国は将来にわたって借金を抱えることになってしまいます。

参考資料
公明党参院選政策集」2022年7月5日参照
自民党令和4年政策パンフレット」2022年7月5日参照
立憲民主党参院選2022特設サイト「着実な安全保障」2022年7月5日参照
国民民主党政策2022」2022年7月5日参照
日本共産党2022年参議院選挙政策」2022年7月5日参照
ウクライナ危機を受けた、安全保障の抜本強化とリアリズム外交 日本維新の会参議院議員選挙2022」2022年7月5日参照
NHK参議院選挙2022各党の公約「外交・安全保障」2022年6月16日
日本経済新聞「日本の防衛費、増額目指す理由は?」2022年4月7日
自民党2021衆院選公約」2022年7月5日参照
東洋経済オンライン「日本の防衛費は『対GDP比2%』へ倍増できるのか」2022年4月25日
NHK「各党の公約 政策別 経済政策 衆議院選挙2021」2022年7月5日参照
ロイター通信「ドイツ、国防費をGDO比2%超に大幅引き上げへ」2022年2月28日
日本経済新聞「防衛費の『GDP1%枠』、なぜ焦点に?」2021年5月20日
社会民主党参院選2022選挙公約」2022年7月5日参照
NHK「防衛相"防衛力強化へ予算積み上げを"防衛費増額の提言受け」2022年4月27日
時事ドットコム「防衛費総額、識者の見方は 財源、使途『議論深めて』」2022年7月3日

【この記事を書いたライターの意見】
日本の安全保障環境が悪化する中で、防衛力を強化する必要はあるものの、社会保障費や経済対策費を削ってまで防衛費を大幅に増額することについては注意深く検討しなくてはいけないと思います。防衛費を増額するかどうか、どれくらい増額するのかは、その財源をどうするのかということも含めて私たち国民一人ひとりが考えるべきだと思います。

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