元「4大財閥」大宇の元会長死去に思うこと
かつて韓国「4大財閥」の一角を占めた金宇中・大宇グループ元会長が12月9日に死去した。
韓国の経済を支える主要財閥をゼロから立ち上げた「財閥一世」としては最後まで残っていた人だったが、1997年の金融危機を契機に解体され、海外逃亡、そして刑事被告人となり、巨額の追徴金を死ぬまで払い続けるなど、文字どおり波乱の生涯だった。この人については個人的に格別な思いがある。
日本でバブルが崩壊した後の「氷河期」と言われた時代に就職活動をした私は、韓国留学帰りでもあり、軽い気持ちで韓国系商社をいくつか受験した。ただ、本気で行く気はあまりなかったので「滑り止め」的な感覚だった。今も名の通った企業は日程のバッティングなどで受験できず、最終面接まで通ったのが大宇の日本法人だった。
会社の規模は大きくなかったが、こまめに面接や筆記試験に呼ばれ、面倒見の良さを感じた。歓談もたびたびあって、若手社員が登場し「入社して浅いのに、こんな仕事を任せてくれるなんて、なかなかないチャンスですよね」と言われ、雰囲気は良さそうだと思った。日本人の幹部が「自社ビルの購入を考えている」と説明していたので、業績は順調に感じられた。作文の試験では、韓国にいたときに当時の世界戦略をニュースなどで見聞きして知っていたので、大宇がヨーロッパで自動車の販売に乗り出していることなどを書いたら受けが良かったようだ。
5月、最終面接に呼ばれた。今まで出てこなかった韓国人の年配の人物が数人登場した。日本語はあまりうまくなく、自分の前にスピーチした日本人学生の話をあまり理解していなかったようだったので、アピールしようとして韓国語で喋ったら、「何言ってるんだこいつ」みたいなことを言って鼻で笑われた。
やがて、その中の一人が言った。
「君たち、ここで就職活動を終わらせると宣言してくれたら、今ここで内定をあげよう」
その場にいた10人ほどの男子学生は、誰もが黙りこくった。無理もない。当時はまだ、5月は就職活動としては序盤の時期だった。今でこそサムスンやLGはグローバル企業として多くの人が知る名前だが、その当時は「何？」という人も多かった。第一志望の学生は誰もいなかっただろう。
重い沈黙が流れた後、一人が口火を切った。
「申し訳ありません。私はぜひ、御社に入りたいと思っていますが、家庭の事情で故郷の長野県での就職も捨てておりません。そちらの返事を待たせてください」
やがて私を含め、他の人々も、申し訳ありません、と口々に断りを入れ始めた。「ここで就職活動終えます」と言った人は一人もいなかった。
去り際、ふとオフィスを振り返ると、同じ大学の知り合いの先輩の顔が見えた。その人が勤めていたのか。挨拶していこうかと思ったが、内定を蹴った（？）気まずい状況だったので、そのまま退出した。以後、その会社からは連絡が来ることもなく、私は運良く第一志望の業界の会社から内定を得て、社会人になった。
社会人になった年、韓国は金融危機に見舞われ、大手企業といえど容赦なくリストラの嵐が吹き荒れた。仕事で訪れた12月の韓国は、あれほど景気のいい話が舞い踊っていたのがうそのように沈滞し、いつも以上に寒風が身にしみた。
多くの企業が倒産していく中で、大宇は巨額の不良債権と粉飾決算が問題化し、グループ解体という、もっとも悲惨な末路をたどることになった。
そんなある日、新聞をめくっていた私は、経済面の隅っこに、「大宇が日本法人を清算へ」という小さな記事を偶然見つけた。
就職活動で会った人たちはどうしただろう。大学の先輩はどうしただろう。もし自分が、あの会社に入社していたら、社会人生活も序盤で会社がなくなり、無職になっていただろう。そうなっていたら、どんな人生だっただろう。いや、今の人生だって果たして幸せなんだろうか。今でも思うことがある。
巨額の粉飾決算の責任を問われた大宇の会長は、責任を逃れて海外に逃亡し、2005年にベトナムから帰国するまで行方をくらませていた。大宇救済のために投入された公的資金の一部は、刑事裁判で本人に追徴金として課せられたが、1％も払うことなくその人生を終えた。一度も会うことのなかった大物だが、もしかして自分の人生に大きな影響を与えていたかもしれない人物の死に、改めて万感の思いにとらわれる。
韓国語学習の教材としてご好評頂いておりますPodcast「ニュースde韓国語」、すべてボランティアで運営しております。ご支援頂けますと幸いですm(_ _)m