【永久保存版】サカナクション山口一郎×NEWS23小川彩佳「本当に正しいことは、最初はいつも少数」
「本当に正しいことって、最初はいつも少数」
「でも本当に正しければ
いつかそれがマジョリティーになる」
新生NEWS23に
オープニングテーマ曲を寄せてくれた
サカナクションの山口一郎さんから
飛び出る言葉の数々。
音楽好きでもある
NEWS23小川彩佳キャスターとの特別対談。
未放送分を含めてたっぷりご紹介します。
(NEWS23 2019年6月5日放送)
小川:
まずは今回、NEWS23に楽曲提供いただき本当にありがとうございます。
「ワンダーランド」という曲はNEWS23のオープニングの映像部分だけを切り取って聞くと、とても明るかったり希望があったり、ちょっと切ない感じもあります。一方、フルで聞くと、また様相が変わるように思います。
山口:
僕らは音楽を作る時、作為性を持つ場合、すごく分かりやすく円グラフを作ることがあります。20%フォークソング、30%ロック、5%郷愁とか、そういう風にグラフを書いて音楽の制作をしていくんですね。
▲NEWS23タイトルコールの収録時の様子 その配分は・・・?
小川:
へえ、そんな風に作ってらっしゃるんですか。
山口:
今回の「ワンダーランド」は、えーっとね、50%がダンスミュージックで、残りの50%がシューゲーザーというノイズのロックです。ダンスミュージックとシューゲーザーを交ぜようというコンセプトで作った曲です。
サカナクションの作品に共通するテーマとして
「良い違和感」があげられる。
山口さんが例えたのは、
アメリカの企業が開発した
4足歩行ロボットでした。
山口:
ボストンダイナミクスだったかな?
googleに買収された4足歩行ロボットがちょっと前にあったじゃないですか。ボディーは機械だけど、足が動物のように動く。
(34秒から該当シーン)
研究者がその性能を確かめる為に、そのロボットをバンッと蹴飛ばしてたんですよ。ロボットは蹴飛ばされて倒れないように踏ん張って、踏ん張りながらまた前に戻って歩いていくという映像を見たときに、
「かわいそう」と「すごい」っていう感情が同時に起きたんですよ。
「かわいそう」と「すごい」って、今まで同時に起きたことがなかったから、新しい感情だなぁって思ったんですよね。
新しい感情を発明するには、混ざり合わないものを混ぜ合わせた「良い違和感」がないと、人にひっかからないと思うんですよ。
僕はそういった感情と感情の交ざり方みたいなものを音楽で作れたらいいなと思っています。喜怒哀楽以外の新しい感情を発明するのがテーマです。
小川:
私はサカナクションを聴いていて、たまにある感覚があるんです。品川駅で電車を降りて、駅の構内でタコライスを買って、ビニール袋に入れて家に帰ろうと雑踏の中を歩いていたんですけど、ちょうど人混みをかき分けながら帰ろうとするときに、イヤホンからコーラスの部分が響いて来て、ふわっと泣きそうになったんです。一瞬。その感覚が自分でも、どういう生理現象だったのか分からなくて、でも深く刻まれているものがあって。ふいに、音楽を聴きながら胸の中でふわっとわき上がってくる感覚が出現するんですけれど、あれって一体何なんでしょうね。
山口:
その感情をいまだに持たれているのってすごく羨ましいです。僕は25歳くらいでなくなりました。僕ね、25歳くらいまでは泣こうと思えば簡単に泣けたんですよ(笑)でも急にそれが出来なくなったんですよね。
小川:
どうしてですか?
山口:
多分、作為性を知ったからだと思う。
小川:
どういうことですか?
山口:
映画でも、”ここで泣かせに来てる”とか、”ここで編集カットが入った”とか、音楽でも、"そんなこと、この作者は思ってないだろう"とか。技術を知ったことで泣けなくなったのかもしれません。
小川:
仕事になったから?
山口:
でも音楽を仕事と思ったこと一回もないですけどね。NEWS23も(笑)
小川:
報道番組とサカナクションの音楽が掛け合わされたときの"良い違和感"ってどういうものを想像されてますか?
山口:
今の時代、ミュージシャンって、なかなか政治的なことであったり、社会的なことを歌うのが難しい時代になってきていると思うんですね。
昔はそういうことを歌う意味が音楽にもあったんですけど、全ての人が批評されるというか、メディアになる時代になると、なかなかメジャーでオーバーグラウンドで音楽を発信しているミュージシャンは、それを伝えにくくなってきているので、なかなか社会に結びつくチャンスがないんですよ。
でもNEWS23という番組の中で、自分たちの音楽を使ってもらえるということは、そういったところとの何かの接点になると思ったし、音楽と社会の新しい結びつき方の可能性を僕は感じたので、すごくうれしかったですね。
僕らは音楽のことばかり毎日考えているから、もっと表現したいんですね。そういう場所を探すこともミュージシャンの一つの使命と思っているから、日常生活でも音を作れる場所を探してしまうんです。冷蔵庫を開けっ放していると、ピピピピって音がするじゃないですか?あの音がダサくて、もっとああいう一つの音をデザインできるなと思った。音楽が大好きなので(笑)
サカナクションが
人々の支持を獲得しているのは
「違和感」だけではありません。
メジャーシーンに身を置きながら
山口さんが向いているのは、
マジョリティ=多数派だけではありません。
小川:
僭越ながら私の勝手な感覚ですが、サカナクションの音楽って、文豪でいうと太宰治のような気がしていて、内省的でありながら、ユーモアもあり、泣き笑いみたいな切なさもあり、ニッチでありながら、ちゃんと多くの方々の心に響いているっていう、その感覚ってどこから来ているんでしょうか?
山口:
美しいものって、なんか難しいものが多いじゃないですか?理解するには知識が必要だったり、ぐっと踏み込まないと理解できないことが多い気がするんですよ。美しくて難しいものを自分が音楽でどう通訳するか。そこが自分たちのコンセプトとして、あるのかもしれないなと思います。
だから、マジョリティでいることってすごく大変だけど、マジョリティの中のマイノリティでいることっていうのは、できるんじゃないかなっていう。
小川:
マジョリティの中のマイノリティでいること?
山口:
クラスの中の20人にイイネと言われるものを作るのは、ちょっと自分にはできないけれど、クラスの中の1人か2人に深く刺さる音楽を作ることはできそうというかんじです。でもそれが全国になれば、マジョリティになるじゃないですか。
小川:
私も高校生・大学生の時に、筑紫哲也さんのNEWS23を見ていて、多事争論の中で「少数派であることを恐れない」という言葉を発していらして、他局のアナウンサーではありましたが、同じ伝え手の端くれとして、すごく勇気づけられるものがあったんですね。それに何度も背中を押されたんですけれど、先ほど山口さんが仰った「マイノリティとマジョリティの間の通訳者」と重なるものがあるのではないかなと思いました。
山口:
僕、個人的な意見ですけど、何か本当に正しいことって、最初はいつも少数なような気がするんですよ。でもそれが本当に正しければ、いつかそれはマジョリティになると。それは諦めないようにはしたいなと思っていて。
僕はミュージシャンなので、音楽の中で、本当に美しいものを作ろうとすると理解されないものになっていく。はるか遠くのものというか、人が手を伸ばそうともしない遠いものになってしまうけれど、それが本当に美しかったら、いつか手を伸ばしてもらえると思うんですよ。
ただその、手を伸ばしてもらうために、手が届く距離の一歩先のこと、横並びじゃなくて、手が届く先の一歩先のことをやらないと、その先にまた進んでもらえないなという気がしていて。
そうすることで通訳者にもなれるし、一歩先のこと、手を伸ばせば届く一歩先の感覚を表現できるんじゃないかなと思ってますけどね。
やっぱり、いつも美しいものは難しいって思う。
でも、美しいと気づく人を増やすということは、ある種、表現者の重要なところで、特にオーバーグラウンドに立ち続けている限り、それは諦めてはいけないなといつも思っています。
僕は6年間アルバムをリリースしていなかったけれど、その期間で自分の課題と向き合うことの大切さというか、ハードルをクリアしました。そのことで、人がどう思うかは勝手に聞かせてもらえればいいという、すごくピュアな感情を、メジャーという立ち位置にいながら、また取り戻せたというのはよかったなと思いますね。
そんな山口さんの曲作りにおける
絶対的に外せない哲学やこだわりは
文学から来ているという。
山口:
父親の影響で毎日毎日本を読まされていたんですね。ワケもわからず漢字も読めないけれど、読んでいたんですよ。そのうちに、美しい言葉やリズムと意味が絡み合うことに気づいていった。こんなに美しい日本語があるんだと。こんなにひとつの言葉で、こんなに色んな世界を見せてくれるんだって気づいて、どんどんそんな世界に埋没していきました。
小学校の頃、国語の授業で「走れメロス」だったかな?「オツベルと象」だったかな?同級生が朗読させられていたんですよ。
でもヘタクソで、その物語の重要なところで詰まったり、全然意味を理解していなかったりで、全然頭に入ってこなかった。けれども、授業が終わって、休み時間が終わると、その子が光GENJIの曲をアカペラで歌い出したんです。
走れメロスの一文を読むのにあんなに苦労していたのに、歌になった瞬間に覚えて暗記して歌っている。音楽ってズルいなと思って。
僕も美しい言葉を書けたら、歌にして皆に覚えてもらいたいって思ったのが、音楽を始めたきっかけなんです。
だから自分が音楽を作る上で絶対に守りたいのは、言葉の美しさとリズム、それとメロディ。それは自分の中で、0を1にする時に、ハードルを高く持っているところですね。1を100にする作業は世の中に伝える上で、ある種の戦略的なところもあるけれど、0を1にする時のパーソナルな部分はずっと変わらない。その時から変わらないですね。
小川:
山口さんからご覧になって、
今の日本、今の時代、どんな風に見ていますか?
山口:
僕が高校生の時にポケベルが出てきた。オフライン時代とオンライン時代、両方経験しているのが僕らの世代(1980年生まれ)なんですよ。インターネットがなかった頃って、何かを探すのにも、実際そこに足を運ばなければいけなかったり、雑誌を買ってそこで調べたりしなければいけなかったじゃないですか。
「探す遊び」という面が強かった気がするんですよね。でも今の時代って探すことがすごく簡単になったじゃないですか?だから、どちらかというと、「浴びる遊び」の方にシフトしていっているのかなという気がしています。
僕らの「探す遊び」は、"このCDジャケットかっこいいから3000円出して買ってみよう!" 家で聞くと"外れじゃん!" だけど聞かないともったいないから、理解できないけど聞いているうちに段々理解できてくる。
それを何度も経験して、「難しい」というものの中に必ず何かあるはずだと。「難しい」=「美しい」という時代だった気がするんですよ。
今の時代は「難しい」=「いらない」「興味が湧かない」 そうなっているのはもったいないなって気がします。
でも、今の時代の人たち、若者たちは、そういう僕らの世代が持ってない感情、違った形の感情を手に入れていると思うんですよ。
だから、それをお互い共有しながら、交換しながら、何か新しいことを見つけていくというのが、この先の時代のような気はしているんですけどね。