
知的障害少年の死 両親が問う「逸失利益」とは?
2019年3月22日
注目の判決が言い渡されました。
重度の知的障害がある
少年が死亡した事故をめぐる裁判。
争点となったのは
「逸失利益」
=生きていたら将来的に
得るはずだった収入です。
「命の価値」を示すとも
言われています。
知的障害のある少年の
「逸失利益」について
裁判所はどう判断したのでしょうか。
(NEWS23 2019年3月22日放送)
松澤正美さん、妻の敬子さん。
息子と一緒に訪れた散歩道を
3人で歩くことは
もうできません。
2人の息子・和真さんは
2015年に
15歳の時に死亡しました。
●父・松澤正美さん
「この川の流れを見ると
息子が遺体で発見された場所も
同じような沢だったので・・・」
和真さんは、
知的障害を伴う自閉症で、
東京・八王子市にある
「藤倉学園」が
運営する施設に
入所していました。
しかし、和真さんは、
忽然と姿を消し、
2か月後、
高尾山麓の沢で
変わり果てた姿で
見つかりました。
黄色い電車が
大好きだったという
和真さん。
●母・松澤敬子さん
「将来は新幹線にも
乗せてあげたいなと
思ったんですけど」
「障害がある子供を育てる
親御さんは大変だと思います」
「やはり
大変でも幸せだと思います」
「私たちは失って
それが幸せだったと
今更ながら気がつきました」
その後、
事故の原因を調べると、
和真さんは
鍵がかかっているはずの扉から
外に出ていたことが
分かったのです。
施設側は、
行方不明となった責任を認め
慰謝料2000万円を
支払う姿勢を見せましたが
和真さんが将来、
働いて得るはずの収入
=「逸失利益」に対する
賠償はゼロとしました。
●母・敬子さん
「障害者だと
社会の損失とは
見ていないんだ 世間は」
「そういうところを肌で感じました」
「どうしても
『稼ぐ 稼がない』で
命の価値が違うように感じてしまう」
両親は
男性の平均賃金をもとに
逸失利益
約7400万円を含む
損害賠償
1億1400万円あまりを
施設側に求める
訴えを起こしました。
●施設側の裁判での主張
「逸失利益を算定するには
和真さんが具体的に
働くことができるのか、
考慮されるべきだ」
裁判でも両者の言い分は
真っ向から対立しました。
そして、22日の判決・・・
●田中秀幸裁判長
「障害者雇用施策は大きな
転換期を迎えようとしている。
知的障害者の
一般企業における就労を
否定するのは相当ではない」
東京地裁は、
逸失利益の支払いを認め、
施設側に対し、
逸失利益
約2200万円を含む、
あわせて5200万円の
損害賠償を支払うよう
命じました。
一方で、
「障害者と障害者でない者との
あいだにある就労格差や
賃金格差を無視するのも
相当ではない」として、
逸失利益の額は、
健常者と同じ水準には
なりませんでした。
●松澤正美さん
「主張したことを全て
裁判官は細かく
汲み取って頂いて
全て認めた上で
判断されました」
判決をうけ施設の運営側は
「ただただ、松澤和真さんの
ご冥福をお祈りするばかりです」
とコメント。
1人の障害がある少年の
“命の価値”に示された判決。
両親側は、22日の判決を
受け入れる方針です。
●雨宮キャスター
障害があっても生きていれば
働いて利益を得られたわけですから
今回の判決はまっとうだと思うのですが、
この判断は今後も定着するのでしょうか?
●星キャスター
今回の判決文には
象徴的な表現があります。
「障害者雇用施策は大きな転換期」にある
と述べているんですね。
障害者雇用が増えてきたことを
受けたものですが、
障害者の逸失利益を認定したのは
大きな意味があると思います。
しかし、金額は健常者と差があるんですね。
障害者と健常者の賃金格差が
これから小さくなってくれば、
障害者の逸失利益も増えていくことになる。
やはり賃金格差を縮めていく努力が
必要になってくると思いますね。