千鳥橋漂着記

千鳥橋に引っ越してきてから1年半が経つ。

大学を卒業してから3年の間、私は実家で暮らしていた。
そこでは衰え続ける父親、全員がやる気のないバイト先とすべてがゆっくりとネガティブな方向に傾き続けていた。
そこに生来の怠け癖が加わり、私というものがどうしようもなくなったとき実家から逃げることを決めた。

大学時代の友達に助けを求めて最初に千鳥橋の町に来たのは冬だったように思う。真っ青なマウンテンパーカーを着ていたはず。
案内されるがまま町を歩くと、片方しか靴を履いていないおじいさんや家の前でタバコを吸うやる気のなさそうなカップル(さぼてん堂の2人だった気がする)に出会い「これが大阪か…」とひそかに驚いた。
その後家と仕事を紹介してもらい、とんとん拍子に千鳥橋での生活がスタートした。

千鳥橋は変な町だった。
誘ってもらった現さぼてん堂での七夕パーティーでは離婚会見とマジ喧嘩が勃発し、猫とイタチが我が物顔で通りを歩き、唐揚げ弁当屋が乱立している。入り放題につられて銭湯で掃除をしていたらいつのまにか番台に座っているし、いろんな雑用を引き受けていたらベトナムに友達ができていた。

1年半が経ち今では私も立派な千鳥橋人間だ。近所の人に挨拶をして、寝間着で自転車に乗り民泊を掃除し、夜は遅くまで友達と話す。普通に起きて普通に笑い普通に寝る。

私が私として普通に生きることを受け入れてくれる。
それが千鳥橋の美しさだと思う。

柴原直哉

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