見出し画像

この作品はあと3日で消えますので早めの閲覧をお勧めします。

劇団年一『肌の記録』

初めにお伝えしておきます。本日2020年5月18日。この作品は2020年5月21日24時00分に非公開となります。まだ観ていない方は、今、見ることをお勧めします。
※大真面目な下ネタが何度か登場するので、実家にいる人は安全な場所でご覧ください。

↓ 『肌の記録』YouTubeリンク


尚、以下の文章はこの映像作品を題材に、私たちが今対面している多方面でのオンライン化、外出規制がなされた世の中で起こる変化について、考察していきたいと思います。多少のネタバレを含むかもしれませんので、動画を見た後に読んでいただけると楽しめるかと思います。

作品概要

舞台は2120年日本。2020年以降、外出が禁止され、ほとんどの人間が一生の大部分を家の中で過ごすようになりました。家の外に出るのも許可が必要で、外出はリスク、悪と考えられています。外での仕事のほとんどが機械に取って代わられ人間の多くが仕事をせず、子孫繁栄が生きる目的。友達にも会ったことはない、恋人とも結婚して初めて顔を合わせる。そんな時代。そんな中育っていく賢人、将生、時生、モトキの日常を追いながら、パンデミックによって姿をはっきりと現した問を、静かに、しかし痛烈に投げかけてきます。

画像1


文化は滅びる


これがこの作品の核となる論点です。

「オンラインスタンダード」(作中で使われる、生活の基盤がオンラインになっていることを表す用語)の世の中では演劇やかくれんぼ、野球などの野外でやるスポーツといった文化全般が滅びています。

不要不急の外出を自粛するように言われている今でも、それは当てはまることではないでしょうか。

不要不急にあたるものの多くが文化に関わるものです。コンサートホールでやるオーケストラや劇場での演劇、それらのすべてが「密」であるとして中止されています。この事態に応じて、新日本フィルハーモニー交響楽団などの楽団は、各々が家で録音し曲を作り上げるという活動を始めました。テンポの移り変わりが激しい曲でも合わせることのできる腕前には舌を巻きます。

しかし、やはりホールのあの反響の中でビリビリと体にくる振動は感じられません。あの肌で感じる体感としての音こそが音楽の醍醐味だと私は思っています。

私が危惧することは、生活を家の中で完結させる人が増え、生でこそ感じるその文化の良さを知らない人が増えることです。今回の自粛期間で外に行かなくてもこれだけの作業ができるんだ、と思った人たちが今後も家での生活を続け、生の演奏や講演を観に行こうと思わなくなったり、そもそも生の良さを知らないままで一生を終える、なんてことになってしまうのではないか。そうやって各文化本来の良さを知らない人が増えることで、文化を受け継ぐ人の減少や、ハマる人が少なくなり衰退してしまうのではという不安があります。

確かに、この「肌の記録」という作品自体、スタジオを使わないですべて家で撮影するという新しい表現の方法を、新しい文化の姿を、見せています。しかし新しいオンライン上での文化の在り方を模索しつつも、生で文化を体感できる環境もなくならないで欲しい、と思うのです。


「偶然」が消えていく

「肌の記録」を観て悶々と考えた結果、辿り着いたのがこれです。外に行かなくなって、オンラインで人と関わることが多くなって、偶然何かがあった、というのが減っていませんか。今日偶然道で友達と会って~、といった。人との出会いが少なくなっているように思います。

賢人たちの住む世界では、結婚相手は機械によってレコメンドされた、自分の好みに合った人達の中からオンライン上でお見合いをして選びます。たまたま授業で同じグループになって、とか、たまたま結婚式の二次会で近くの席で、といった偶然の出会いはありません。私も2か月近く家に籠っていて、恋愛や人間関係の発展というものが以前より少ないと感じています。恋とか出会いとか、そういう「偶然」が生み出すものが、オンライン化によってなくなっていくのではないでしょうか。

現代でもインスタグラムが普及したことで共通の友達がすぐわかるようになり、たまたま知り合いだったという驚きがなくなっています。今後はもっとこれまで偶然だったものが必然になり、驚きなどの日々の刺激がなくなっていくように思います。


「偶然」が刺激だった

「偶然」というのは日々の刺激です。

私は地元の飲食店でバイトをしていますが、ゴールデンウイークの忙しい昼間だけシフトに入り、久しぶりに肉体的疲労を味わいました。忙しかったこともありますが、外にいるだけで刺激が強いのだと思いました。

家の中で、どれだけオンライン飲み会をしてもインスタグラムで本投稿するほどではないと思ってしまいます。3月に行ったお花見がなんてことないお花見だったのに鮮明に心に残っているのは、太陽光で写真が映えたことだけが理由ではないと思うんです。たまたまカラスがいっぱいいたこととか、たまたまちびっ子と話したこととか、そういう「偶然」が心に跡を残しているのだと思います。

外に出ることがなぜあんなに刺激が強いのかというと、それはつまり「偶然」が発生するから。


「偶然」というサプライズに満ちていた日々が早く戻ってきて欲しいですね。


画像2



終わり



著 よしかわ



劇団年一
古くから親交のある4人、柄本時生、岡田将生、落合モトキ、賀来賢人で結成された劇団。

↓ 「劇団年一」YouTubeページ















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?