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事業構想は10年以上前から。アメリカや地方で感じた「モビリティ」にまつわる課題を解決するために、newmoを共同創業した理由
newmo株式会社でCBO(Chief Business Officer)を務める宮崎聡です。
シリーズAの追加資金調達の発表や、沖縄・名古屋への新拠点設立など、ニュースが続くnewmoですが、創業してまもなく一年を迎える今、改めて自分自身のnewmo創業の背景や事業・M&Aの思いをまとめておくことにしました。よければぜひご覧ください。
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newmo株式会社Co-Founder/CBO 宮崎聡
2004年3月同志社大学商学部卒業。サイバーエージェントで子会社社長や本体役員、本体取締役を歴任。2018年3月同社退職、2018年11月にコンテンツ関連スタートアップにCo-CEOとして参画。2023年6月同社退職、2024年1月newmoを共同創業。
原体験は2010年頃のアメリカ駐在。Uberが生活を激変させ、新しいモビリティ体験を目の当たりにした瞬間
newmoの事業に対して強い期待を抱いている理由の一つは、アメリカで新しいモビリティサービスの勃興期を自分の目で見ていたことです。
2010年、私はサイバーエージェントのアメリカ進出に携わり、サンフランシスコに長期駐在していました。日本と違って車移動が当たり前の文化なのに、タクシーは呼んでも全然来ないし、流しでいるわけでもない。郊外に行けばなおさら、タクシー配車アプリで呼んでもドライバー都合でキャンセルされ、最終的にタクシーが来るのは配車してから1時間後なんてこともしばしば、といった移動の問題を常に抱える生活でした。
あまりにも不便だったので、「利用者の目線に立ったタクシー配車アプリをやろう!」と社内で新規事業の検討をしていたほどです。
ですが、まさにその検討をした1ヶ月後に、Uberがリリースされたんです。最初に見た時は本当に驚きました。タクシーだけでなく、ハイヤーも一般ドライバーも束ねて、自分たちでプラットフォームを作っていたからです。巨大な資金調達にも成功しており、「この領域での新規事業は勝ち目がなさそう」と思って、社内で検討していた事業もボツにしました。
事業としては諦めましたが、生活者としてはUberのおかげで劇的に暮らしが豊かになりました。どこへ行くにも5分あればすぐにUberで手配した車が来てくれるし、料金や経路説明の複雑さもなく、安心して家まで帰れるという画期的な仕組みのおかげで、それまで広くて移動しにくいと感じて思っていた街が、急に「狭く、身近な存在」に変わり、駐在生活がずっと楽しくなりました。
実はnewmo代表の青柳との出会いも、ちょうどこの新しいモビリティサービスの勃興期に重なります。
彼は、グリーの代表としてサンフランシスコに同じく長期駐在していて、同じIT業界で海外展開にチャレンジするという戦友として、仕事の絡みだけでなく個人的にも親しくしていました。同じようにUberで生活が激変する体験をしたので、「日本にこういう新しいモビリティ乗車体験があったら良いよね」という話を当時もしていました。
お互いにアメリカから帰国し、拠点が日本に移ってからも定期的に話をする関係性でした。
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帰国後に感じた、都心と地方の「移動の負」のギャップと市場の可能性
アメリカでの新しいモビリティサービス体験の衝撃は大きく、日本に帰国してからも、同様の事業を展開できないかとずっと考えていました。しかし、東京にはタクシーがたくさん走っており、不便さも感じなかったため、大規模な事業を展開するイメージは湧きませんでした。
しかし、出張で国内の地方に足を運んだ時、アメリカ当初の暮らしの不便さを思い出すようなことに遭遇しました。地方では、ターミナル駅だとしてもタクシー待ちのお客さんの行列があるのに肝心のタクシーがいなかったり、やっとの思いで「見つけた!」と思った車に乗り込もうとしたら地元常連客のお抱えとして稼働中で乗車できなかったり。訪れたある飲食店では、待てども来ないタクシーにお店が痺れを切らして、店主が自分の車で駅まで送ってくれたこともありました。ありがたい話ではあったのですが、その間飲食店を閉めることになってしまうので、送迎と引き換えに経済的なロスが発生してしまっていたとも言えます。
東京では参入の必要性を感じていなかった事業ですが、「地方では必要かもしれない」と感じた体験でした。
2017年頃、青柳さんがグリーを辞めて、何か事業の準備をしているというのを聞き、「何するんですか?」と聞いたら、「タクシー会社に資本参加して、タクシー事業を基盤にしながらタクシーだけではなく、ハイヤー、ライドシェア、将来的には自動運転タクシーの事業を立ち上げようと思っている。配車アプリを提供して仲間を増やしたい。今度二種免許も取得するよ」と話してくれて。僕は当時、とても興味はあったのですが、所属している会社もあったのでフルコミットはできず、週末メンバーとしてだけ関わっていましたが、お互いにアメリカの新しいモビリティサービスの台頭を実体験として見てきた影響はとても強くあったんだと思います。
青柳さんの当時の起業は、記事やインタビューにもある通り、外的環境やモメンタムが熟していなかったこともあり、外部からの資金調達をストップしメンバーは解散。それ以降も交流は続いていましたが、僕自身もエンターテイメント事業の会社に移って経営やファンド事業を行っており「モビリティ」というテーマからは離れていましたが、M&Aや投資はサイバーエージェント在籍時に社内でリードしていた時期もあり、スタートアップに移ってからもM&A、MBO、出資など様々な案件の資本政策を検討したり、実施する経験を積んでいました。
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最後の意思決定は「新幹線」で。外から応援するのではなく、今回こそ中で一緒にやりたいと思った
2023年は、共同代表を務めていた前職の代表を退任し、ファンド事業を運営しながらも新規投資を終える時期でした。並行して次の事業を模索するなかで、ポストIPOで大きく資金調達した上場会社向けに成長ドライバーとしてM&A支援を行う事業を検討していました。ただ、少し心の整理をする時間が欲しく、家族で10日間ほど自家用車で北海道一周の旅行に出かけました。
ゆっくりニュースを眺めていたところ菅元首相が「(インバウンド対応や過疎地の移動手段として)ライドシェア解禁に意欲的」というニュースが流れていました。また、同時に「帯広のバス会社が大幅に路線廃止、大幅減便」という地域のニュースも流れてきました。聞けば、コロナで減った利用者の戻りが遅く、また、従業員の採用難化と高齢ドライバーの退職が重なり、路線の撤廃や便数の削減をしないと成り立たない経営状況になっているというものでした。東京ではまず聞かない類のニュースに驚き、さらにその地域の人にとっては生活に不可欠な移動のインフラがなくなっていくのは、どれだけ大変なことだろうと思いました。
その時、ふと青柳さんの顔が浮かびました。菅さんの発言を聞いて、どう考えているのだろう、と気になりました。タイミングよく、2週間後に食事の誘いを受け、久しぶりに話すことができました。
食事の場で、newmoの構想を聞き、昔アメリカで共に感じた新しいモビリティ体験が社会を変えていく期待と、2017年当時のチャレンジは実らなかったという悔しさが沸々と蘇ってきました。
最終的に参画を決意したのは、新幹線の車内です。僕が実家の神戸に帰省するタイミングと、青柳さんが関西出張に行くタイミングが重なったので、「じゃあ一緒に新幹線に乗りながら、話しましょう!」となって。新幹線の2人席をくるっと回して、共同創業者CTOの曾川さんも含めた3人で道中の2時間半話しました。僕自身が思い入れや課題意識を持っている領域であり、また自分の強みが発揮できるM&Aがnewmoの成長ドライバーになるとも思っていたので、「外部でM&A仲介としてソーシングで関わるより、newmoの創業メンバーになって一緒にやりたいと思います」と伝え、共同創業者として加わることになりました。
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課題解決型のM&Aを、少数精鋭で進めていくのがnewmo流
newmoのM&A戦略は、いわゆる「バーティカル型ロールアップ戦略」です。
タクシー業界でも株式譲渡、事業譲渡、営業権売買、FC化などはこれまでも行われてきた手法ですが、M&Aの多くは買い手企業の手元資金を活用して「相場と比べて割安だから買う」などと相対的な評価をベースにした検討をされることが多いです。他方、「このエリアのタクシーの営業権を買うのに1台あたりいくらまで許容できる」とか「EBITDAの何倍まで企業価値を許容できる」など自社で明確な判断軸をもって意思決定できるプレイヤーは少ないように感じています。この業界以外でM&Aをしてきた私たちとしては当然のやり方ではありますが、外から来たからこそ、新しいやり方で取り組んでいることが業界内で競争力になっているのを感じます。
コロナ禍で経営環境や人手不足が厳しくなったタクシー会社は多くあります。世の中が平時に戻り、タクシー市場も復調傾向が続いていますが、タクシー業界では2024年からはじまった日本版ライドシェア(NRS)への対応など各社に大きな変化への対応力が求められています。しかし、既存のタクシー会社には単独では投資余力がない、もしくは、投資できたとしても、資金力や人手、デジタル化の知見が不足しており、思うように新しい時代の変化に対応できず、抜本的な経営変革が進まない会社が多いとも感じています。
「移動で地域をカラフルに」というミッション実現のためにも、まずは各地域で存在感を出せるよう、最初の展開地域である大阪と、その隣接地域である京都、兵庫など準特定地域で、上記で挙げたようなタクシー会社への資本参加や業務提携の話を進めています。さらに、新たに事業拠点を設立した愛知、沖縄、長野、その他規制緩和によって新規参入が可能な地域においては新規参入、業務提携、増車などあらゆる手段を通じて一定以上のタクシー台数を所有していきます。基盤となるタクシー事業の上に、newmoの強みであるITを組み合わせ、配車センターの入電元分析に基づく配車業務の一部自動化や、営業所への自動点呼の導入による業務効率化、newmoが開発するタクシー配車アプリを提供することによる業務効率化と収益拡大を推し進め、タクシー業界において垂直統合モデルを構築し、より多くの利用者の皆様に選ばれる「新しい時代のタクシー会社」を目指していきたいですね。
また、画一的なM&Aではなく、事業譲渡や業務提携を含め、業界をより良いものにしていくために、さまざまなパートナーシップの形を今後も模索したいと考えています。
M&Aチームも専門性高いメンバーが集まってきてくれており、今後も少数精鋭でやっていこうという姿勢は変わりません。大事にしたいのは「高い専門性をもって対象会社の経営課題を解決するM&A」を共に目指せるかです。ややもすると、儲かるなら何でも良いという考えもあるかもしれませんが、newmoのM&Aは「対象会社が1社でチャレンジできなかったことを、newmoと伴走したらチャレンジして実現できるようになり、結果として、その地域の皆様の移動をより良くできるか」ということを大切にしています。もちろん事業として利益を出すことは必要ですが、サステナブルな地域交通の提供を目指すことも重要です。これらを両輪で考えるのはとても難しいですが、両方実現できると、対象会社の皆さんもnewmoにグループインして良かったとおっしゃっていただけると思うので、とてもやりがいがあるテーマです。
スタートアップながら資金をこれだけ持って、市場に大きく張り、挑戦をやり切れる環境はなかなかありません。また、現在約1.4兆円程度(コロナ禍前にあたる2019年度当時の推計)の巨大市場ながら、緩やかに衰退する国内タクシー関連市場において100年に一度の変革期で規制緩和トレンドにある今、スタートアップだからこそ、newmoだからこそできるチャレンジがあります。新しい交通やモビリティのサービス提供を通じてより良い世の中づくりに関心がある方は、ぜひnewmoで働くことも考えてみていただければと思います。
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newmoでは、共に社会をより良くしたいメンバーを募集中です
newmoでは、「移動で地域をカラフルに」のミッションに共感し、社会インパクトがある多様な地域交通の実現に向け、協力し、成長しあう創業期のメンバーを募集しています。詳細は以下をご覧ください。
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