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量子と形而上学的な“極性 (Polarity)”の法則

これまでの記事では電子に“スピン”という概念があること、そして “上向き/下向き(または右回り/左回り)”の2値しかとらないスピンが“古典物理の確率論では説明できないこと、そして電子のスピンが“パウリの排他原理に従う”ということを解説してきました(*1,* 2, *3)。

また、その少し前の記事を思い出すと“宇宙には二極の法則がある”、つまり「光を放ち続けるクエーサーも光を吸い込み続けるブラックホールも両極端でありながら本質は同じである」「正反対でありながら調和することができる」「我々に見えている宇宙は半分以下に過ぎない」という、奇妙でありながら普遍的な法則が成り立つことを解説しました(*4)。広大でマクロな宇宙で成り立つこの法則が、今度は素粒子レベルのミクロの世界で成り立つのか確かめていきます。

・形而上学的な極性 (Polarity) の法則とは
“極性の法則”とはヘルメスの原理から来ているこの世界の普遍の法則の一つとされています (*6)。このヘルメスとはヘルメス・トリスメギストス (Hermes Trismegistus *5, Figure 1)という偉大な賢者であり、ギリシャ神話のヘルメス神と同一であるとみなされています。このヘルメスが人々に伝えた法則の一つとしてこの“極性の法則”があります。

このヘルメス文書は紀元2−3世紀頃にアラビア語から訳されたと伝えられていますが (*7)、これらは文書として残された記録なので、実際に伝えられたのは今から数千年前と考えられています。当然ながらこの時期は科学も発達しておらず“ブラックホール”、“素粒子”、“量子力学”など概念としても全くない状況でした。科学のような足掛かりの無い時代から“世界の創造”や“生命や魂など見えないもの”までも扱っていたのが“形而上学 (けいじじょうがく、Metaphysics)”です。この形而上学の原理の一つとして“極性の法則”があります。

・“極性の法則 (The Principle of Polarity)”とは

IV. The principle of polarity
"Everything is dual; everything has poles; everything has its pair of opposites; like and unlike are the same; opposites are identical in nature, but different in degree; extremes meet; all truths are but half-truths; all paradoxes may be reconciled
." (*6)

IV. 極性の法則(訳)
すべては二元的であり、すべてには両極が存在する。すべてには対をなす反対のものが存在する。似たものと似ていないものは同じである。反対のものは本質的に同一だが程度が異なる。両極端は出会う。すべての真実は半分の真実に過ぎない。すべての相反するものは調和できる。

こちらの原則は書いてある通りです。「何が」あるいは「何に対して」という法則ではなく、文字通り「すべて (Everything)」に対して成立する法則です。以前の記事では広大な「宇宙 (Universe)」に対してもこの法則が成立しているように解釈することができました(*4)。今回はミクロの世界、量子 (Quantum)の世界でこれらの法則が適用されるか見ていきます。



・電子 (electron)の「対をなす反対のもの」とは
「対をなす反対のもの」と聞いていろいろ思い浮かぶものはあるかと思います。まず前回の記事あるいはこの最近の記事で扱っている“スピン (spin)”という観点で電子を見てみます。

Figure 2に示すように電子には量子数 (Quantum numbers)というものがあり前回の記事でも紹介したようにその中の一つが“スピン量子数 (s)”で[上向き/下向き(+1/2 or -1/2)]のどちらか1つの値を持っています(*3, *8)。そして異なるスピンを持つ電子同士は「スピンの向きが正反対」です。これらは同じ電子ですが、スピンが反対の場合は一定の磁場に対して正反対の挙動を示します (*1)。

しかしこれらの“スピンが反対向きの電子同士”は正反対の性質でありながら調和することができます。例として原子軌道における電子の配列を見てみます。Figure 3はアルゴン原子 (18Ar)の電子配列ですが、理科や化学で習ったように18個の電子を持っていてK殻に2個、L殻に8個、M殻に8個の電子が存在します。

さらに一歩進んで電子スピンの向きに着目するとFigure 3に示されるように上向きスピンと下向きスピンの数は全く等しいことが分かります (*9)。そして“一つの軌道には必ず上向きのスピンと下向きのスピンが一つずつ入る”ということが分かります。これはこの原子だけに限ったことではなく、地球上あるいは全宇宙の原子構造に当てはまります。

全く正反対でありながら法則に則った調和と均衡が保たれていることが分かります。そしてこれが量子力学的には重要な原理である“パウリの排他原理 (Pauli Exclusion Principle, *10)”と呼ばれる現象になります。このパウリの排他原理を理解することはいずれ示される思考の現実化やあらゆる事象の因果関係を知るために重要になってきます。


・電子の「対をなす反対のもの」(2)
“電子の反対の性質のもの”と聞いて“電子の反物質である陽電子 (positron)”と最初に考えた人もいたかもしれません。それも正しいと言えます。反物質とは“質量が同じで電荷が反対”のものを指します。電子の場合は同じ質量で電荷がプラスである陽電子が反粒子 (antiparticle)という関係になります。

Figure 4が霧箱 (Cloud chamber)の中で撮影された陽電子の軌跡の写真です。もうご存知の人もいるかもしれませんが、陽電子は1930年代にアンダーソン博士 (Carl D Anderson)によって発見されました (*11)。その発見の経緯は過去の記事で取り上げているので陽電子の性質についてよく知りたい方はそちらを読んでみてください (*12)。

そして、この電子と電子の反粒子である陽電子は実は“同時に生成”されます。Figure 5にあるようにある一定のエネルギーの電磁波 (Electromagnetic wave)が原子核の近くを通過すると電子と陽電子がセットで発生します (Figure 5左、*13)。この現象を電子対生成 (Electron pair production)と呼びます。

また、反対に電子と陽電子が衝突すると、互いに消滅してガンマ線(電磁波)になってしまいます。この現象は対消滅 (Pair annihilation, Figure 5右)と呼ばれています。こちらの反応も過去の記事に詳細が解説されていますので未読の人は読んでみてください (*14)。このように一見反対の性質である電子と陽電子は同じように発生し、同じように消滅する“双子のような”関係に近く、“正反対でもあるのに同類でもある”と言えます。

・さらなる電子と「対をなす反対のもの」
“電子の反対の性質のもの”と聞いて“陽子 (proton)”を考えた人もいるのではないでしょうか。これもある意味正解ですね。陽子はマイナス電荷の電子とは反対に、プラスの電荷を持っています。さらに質量は電子の約1800倍以上あり、電荷も重さも“反対の物質”と言うことができます。

しかしご存じのように、電子と陽子は完全と言えるほどによく調和しています。生命が存在できる温度においてはこの原子の構造が普遍的に保たれています。この電荷も質量も反対の電子と陽子が、分離することもなく融合してしまうこともなく安定した原子の構造を保っているのは当たり前の現象なのですが非常に奇跡的なこととも考えられます。

・素粒子の「対をなす反対のもの」はまだある
電子も含めて素粒子には矛盾 (paradox)とも思える奇妙な性質があります。それは“粒子 (particle)”であると同時に“波 (wave)”であるという性質です (Figure 7)。位置が限局していて三次元的な座標を特定できる“粒子”と、広がりを持ち境界が無く干渉する性質を持つ“波”は全く異なる相反する2つの状態です。しかしながら電子を含む素粒子は“粒子でありながら波でもある”という二重性 (Duality)を有しています。そのためある時は“波”としてふるまい、ある時は“粒子”としてふるまうことが知られています。

その代表的な例として有名なものが二重スリット実験や光子の干渉実験というものが挙げられます (*15, *16)。それは電子のように粒子と思われているものでも二重スリットを透過させると波のような干渉の縞(しま)模様が現れたり、同じ条件であるのにスリット透過時を観察しようとすると波のような干渉縞が消えて粒子になったりと、とても奇妙な現象が起こります(Figure 8)。

同じ物質が全く異なる状態をとるということは、“似ているものと似てないものは本質は同じである”、“反対のものは調和することができる”という極性の法則に合致していると言えます。ちなみにこの性質は物理学の領域に人間の意思が関与する証拠を示す重要な領域です。瞑想で現実が変化する現象を裏付ける科学的根拠となるかもしれないので今後も関心が高い研究分野です。


・「熱い」と「冷たい」は量子力学的に同質か
我々は「火は熱い」「氷は冷たい」と感じ、「砂漠の炎天下の気温50℃は猛暑」「南極の気温マイナス50℃は極寒」と感じます。これを量子レベルで見るとどういう現象かと言うと、「冷たいものは原子の運動が少ない」「熱いものは原子の運動が大きい」と言い換えられます。さらに言い換えると、「その物質が振動するエネルギーが小さい(波長が長い)と温度は低く、振動するエネルギーが大きい(波長が短い)と温度は高くなる」ということになります(Figure 9)。

量子力学の先駆者プランクの法則 (*17)では物質から放射されるエネルギーの波長 (λ) とその温度 (T) は一つの方程式で表すことができます (Figure 9右)。このような観点からすると、「熱い」「冷たい」というのは「正反対でありながら、振動エネルギーという本質的に同じものであり、その程度の違いに過ぎない」ということです。これも上記の極性の法則が当てはまっています。

「熱い」も「冷たい」も全て「観測者の主観」という曖昧なものであり絶対的なものではない、つまり「熱いも冷たいも存在しない」、ただ絶対的なものは「物質の振動という一つの本質的なものだけ」ということです。


・「明るい」と「暗い」は反対同士のものなのか
「明るい」「暗い」を素粒子レベルで見ると「光子 (photon)」として量子化することが可能です。そしてその光子の持つエネルギーは周波数、波長で表されます (E = hν = h/λ)。これらを光度 (Luminous intensity, *18)に変換することで明るさを数値化することが可能ですが、これも本質は光子のエネルギーと数によって決まります。

つまり、「明るさを決める独立した素粒子」「暗さを決める独立した素粒子」があるわけではなく、明るさを決める素粒子が多いか少ないかによって「明るい」「暗い」が決定されます。これも“反対のものは本質的に同一だが程度が異なる”という法則に合致しています。


・「過去」「未来」についての考察

もちろん「過去 (past)」と「未来 (future)」は全く正反対のことを表します。しかしこれらも「過去/未来」いずれも「今」を基準とした相対的な評価に過ぎません。そして「未来」はいずれ「過去」になります。しかし実際は「時間軸」という一つの次元に沿って私たちが一つの方向に移動しているだけであって、過去も未来も時空における特定の時点に過ぎません。これも「時間」という同じ本質のものの程度の違いということが言えます。


・「良い」と「悪い」についての考察
これは前提として「良い」と「悪い」に絶対的な指標があるかどうか、ということを先に知る必要があります。そして「良い」と「悪い」は独立して存在できるかどうか、という定義が必要です。また「良い」と「悪い」は比較することが可能かどうかという定義が必要になってきます。「良い」の欠如が「悪い」であるのか「悪い」を無くせば「良い」になるのか、ここも深い考察が必要かと思われます。ただし、形として捉えられない形而上学的な領域なので科学的な証明よりも時間がかかるかもしれません。

今回は「量子力学が発達した現代科学において、数千年前の“極性の法則 (The Principle of Polarity)”成り立つか」という点について解説してきました。総括としては素粒子レベルで見ても極性の法則はよく合致しているように見えました。標準モデルにおける素粒子や反物質という概念など全くない時代からこのような現代科学で初めて分かるような原理を提唱していたことは驚嘆に値します。

ただし、この宇宙がこの法則の通りだとすると“すべての真実は半分の真実に過ぎない”とあるように、“ダークマター”など今なお未知の物質もありますが、もしかしたらまださらに我々の知らない“未知の素粒子/未発見の反粒子”などがあるかもしれません。そしてもしかしたら“我々の生きている時間軸は一つではない”かもしれません。“逆行する時間軸”、“虚数時間の領域”、“別の独立した時間軸”があったとしても不思議ではないかもしれません。私達が知覚している今現在の世界は半分に過ぎないとすると、もう半分を知覚するには現在の知覚を超越する必要があります。自己の限界の超越のために日々の瞑想をおこなっていきましょう。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用:
*1. 量子スピン:「思考の現実化」への鍵https://note.com/newlifemagazine/n/nfa024ca98777
*2. 電子スピンと46枚のコインhttps://note.com/newlifemagazine/n/n71422884a72b 
*3. 電子スピンと“パウリの排他原理”
https://note.com/newlifemagazine/n/n235061eea871 
*4. 二極の宇宙に見る普遍の法則https://note.com/newlifemagazine/n/nbd29cacb109e 
*5. Translation of The Emerald Tablet of Hermes Trismegistus. DeutschenForschungsgemeinschaft.
*6. *16. Three Initiates (1908). The Kybalion: A Study of the Hermetic Philosophy of Ancient Egypt and Greece. Chicago: The Yogi Publication Society.
*7. Hermetica-Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Hermetica 
*8. Orchin, Milton; Macomber, Roger S.; Pinhas, Allan; Wilson, R. Marshall (2005). "1. Atomic Orbital Theory". The Vocabulary and Concepts of Organic Chemistry (2nd ed.). Wiley.
*9. 18Argon. WebElements: THE periodic table on the WWW. https://winter.group.shef.ac.uk/webelements/argon/atoms.html
*10. Pauli, Wolfgang. "Exclusion principle and quantum mechanics." Writings on physics and philosophy. Berlin, Heidelberg: Springer Berlin Heidelberg, 1946. 165-181.
*11. Anderson CD. Cosmic-Ray Positive and Negative Electrons. Phys. Rev. 44, 406-416, 1933.
*12. 有るはずのない物質:“反物質” https://note.com/newlifemagazine/n/n56fb7ec42b46 
*13. Bethe, HA, and Maximon LC. "Theory of bremsstrahlung and pair production. I. Differential cross section." Physical Review 93.4 (1954): 768.
*14. 「無」と「有」の等価性:「0 = 1」を科学的・形而上学的に理解するhttps://note.com/newlifemagazine/n/n96b7b89af9fd 
*15. Carnal O, Mlynek J. (1991). Young’s double-slit experiment with atoms: A simple atom interferometer. Physical review letters, 66(21), 2689.
*16. Dimitrova TL, Weis A. Lecture demonstrations of interference and quantum erasing with single photons. Physica Scripta T135: 014003, 2009
*17. Klein, M. J. (1961). Max Planck and the beginnings of the quantum theory. Archive for History of Exact Sciences, 1, 459-479.
*18. Luminous_intensity-Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Luminous_intensity 
画像引用
*a. https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ファイル:Blausen_0615_Lithium_Atom.png
*b. Image by Darth Kule. https://en.wikipedia.org/wiki/Planck%27s_law#/media/File:Black_body.svg
*c. Image by kbolbik149668. https://www.vecteezy.com/photo/27376449-abstract-purple-energy-sphere-with-flying-glowing-bright-particles-science-futuristic-atom-with-electrons-hi-tech-background

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