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急速に広がっている不妊の現状とその原因について。知ってましたか?もはや他人事では済まされない深刻さ

不妊判定の基準となる1年間

不妊症とは健康な男女が一定期間(約1年)避妊をせずに性交しているにもかかわらず、妊娠に至らない状態のことをいいます。

一般的に排卵日付近に避妊せず性交をして妊娠する確率は約20%で、理論上は3か月で約50%、6か月で約70%、1年以内には約90%の人が妊娠に至ります。男女共に年齢が上がるにつれて妊娠する・させる力が低下し、女性では35歳を過ぎると妊娠率が大きく低下しますが、30歳代の人でも多くの場合1年以内に妊娠します。

そのため一般的に1年以内に妊娠に至らなければ不妊症が疑われ、女性側または男性側、あるいは両方に何らかの原因が隠れている可能性があります。

男性側の原因と女性側の原因

世界保健機構(WHO)によると男女別の不妊原因は、女性のみの場合が41%、男性のみの場合が24%、男女両方の場合が24%、原因不明の場合が11%となっています。つまり不妊の原因はどちらも考えられ、約半数は男性側にも原因があります。

男性側の原因

男性側の原因としてもっとも多いのが、精巣内で精子をつくる機能が低下する造精機能障害です。造精機能が低下する原因の多くは不明ですが、精索静脈瘤せいさくじょうみゃくりゅう、染色体異常、内分泌異常などが原因になることがあります。

また精路通過障害、前立腺炎精巣上体炎勃起障害、射精障害なども男性不妊の原因に挙げられます。

女性側の原因

妊娠が成立するうえで、子宮や子宮頸管しきゅうけいかん、卵管、卵巣、などの妊娠に関わる器官が正常であることと、視床下部―脳下垂体、甲状腺などのホルモン分泌が正常で排卵が行われることが必要であり、これらに障害が起こると妊娠しにくくなります。

考えられるものとしては、子宮内膜症子宮筋腫しきゅうきんしゅ、子宮内膜ポリープ、子宮内膜の増殖不全、クラミジア感染などによる卵管炎、卵管の狭窄きょうさく・閉塞へいそく、黄体機能不全、卵巣機能低下、高プロラクチン血症多嚢胞性卵巣症候群たのうほうせいらんそうしょうこうぐん(PCOS)、甲状腺機能の異常、抗精子抗体などが挙げられます。

女性・男性別にみた不妊の原因

このように不妊症は男女両方に原因がありますが、具体的に女性の不妊には以下のような原因が考えられます。

  • 卵子の老化

  • 卵管の異常(クラミジア感染症子宮内膜症、骨盤内感染症などによる卵管閉塞らんかんへいそく、卵管狭窄らんかんきょうさく、卵管留水腫)

  • 排卵障害

  • 子宮の異常(子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腺筋症、子宮奇形、子宮内癒着、子宮内膜菲薄化など)

  • 子宮頸管粘液の異常

  • 免疫の異常(抗精子抗体)

一方、男性の不妊原因には、

  • 造精機能障害

  • 性機能障害

  • 精路閉塞障害

などがあります。

男性の不妊原因

男性不妊の原因は、

  • 造精機能障害

  • 性機能障害

  • 精路閉塞障害

の3つに大別されます。また、加齢によって精液所見が低くなることや、喫煙による精巣へのダメージも男性不妊に影響していると考えられています。以下では、この3つの原因を詳しく解説します。

造精機能障害

精子は精巣(睾丸こうがん)の中で造られ、精巣上体という部分を経ることで、最終的に活発な運動ができる状態になります。しかし、精巣内での精子形成やその後の過程に異常が発生すると、精子数の減少や精子運動率の低下、奇形精子の増加につながることがあります。異常が生じる原因としてもっとも多いものは、精索静脈瘤せいさくじょうみゃくりゅう*です。

*精索静脈瘤…精巣から心臓に戻っていく静脈内の血液が逆流し、精巣周辺に静脈の瘤(こぶ)が発生する病気。

また、精子を造るために必要なホルモン分泌に異常がある場合や、おたふく風邪により耳下腺炎性精巣炎*を併発することで精液所見(精液検査の結果)が低くなることもあります。

*耳下腺炎性精巣炎…おたふく風邪の原因ウイルスが精巣に感染し炎症を起こす病気。

そのほかには、生まれつき精巣が陰嚢に降りてきていない停留精巣であったり、染色体異常の一種であるクラインフェルター症候群(47,XXY)であったりする場合や、精子がわずかしか造られない、あるいはまったく造られない無精子症が原因となることがあります。

まれではありますが、精巣瘍せいそうのうようの存在により、精液所見が低下することもあります。

性機能障害

精神的なストレスや血管の障害等により勃起障害(ED)となり性交渉がうまくできない場合や、性交渉はできるものの腟内射精が困難な腟内射精障害などがあります。また、不妊治療のため、タイミングを計ることがプレッシャーとなり、これらの障害を発症してしまうケースもあります。

そのほかには、糖尿病によるEDや、糖尿病が重症になると逆行性射精(精液が膀胱内に射出される)や無精液症となる場合もあります。

男性の不妊原因としては、以上のものが挙げられます。しかし、実際には精液所見が低い理由として、原因不明(特発性)とされるケースがもっとも多くなっています。

精路閉塞障害

精子は精巣内でしっかりと造られているのに、その後の通路が閉塞していることによって、射精された精液中に精子が存在しない場合、閉塞性無精子症となります。

その原因としては、生まれつき精管が形成されていない先天性両側精管欠損症や精巣上体炎後の閉塞、鼠径そけいヘルニアの手術によるもの、精管結紮せいかんけっさつ術(パイプカット)後などがあります。

精巣上体炎、精巣炎、前立腺炎などの感染症により、精液所見が低下することがあります。

加齢に伴う男性不妊の原因は?

年齢に伴い、妊娠しづらい体になっていくのは女性だけではありません。

精液量は年齢が上がるごとに減少していきます。そして、30歳代半ばから、精子の運動率が低下していることが分かっています。また、男性の年齢が上昇するにつれて、精子の中のDNAが壊れやすくなるといった研究結果も発表されています。

女性ほどではないものの、男性も加齢に伴い受精能が低下します。加齢に伴う男性不妊の原因としては、

  • 精液所見の低下

  • 加齢に伴う精子DNAのダメージ

などが挙げられます。

女性の不妊原因――卵子の老化

加齢に伴い卵子の数が減少するだけではなく、質も低下していきます。これはごく自然な現象のため不妊の病的原因には入れない、という考えもあります。しかし、30歳代後半以降、特に40歳代の方が妊娠しにくいもっとも大きな原因が卵子の老化なのです。

卵子の質が低下するという点では、年齢が上がるとともに、卵子の染色体異常の割合が上昇することが分かっています。

女性の生涯不妊率は30歳代半ば以降に急上昇――加齢に伴い妊娠しづらくなる 

近年、不妊に対する認知度が高まっているとはいえ、日本では「閉経するまでは妊娠可能」と誤解されている方が依然として多く、30代半ば以降の生涯不妊率を知らない方のほうが圧倒的に多くなっています。

その理由は、日本では加齢と妊娠の関係について、一切教育をしてこなかったからです。

少々古いデータにはなりますが、1986年に『Science』に掲載された論文によると、30歳代半ばまでに結婚された方の生涯不妊率は1割台ですが、30歳代後半で結婚した女性の生涯不妊率は3割、40歳代では6割にまでのぼります。

また、国際調査で30歳代後半以降の女性の生涯不妊に関する質問を行ったところ、日本人女性で30歳代半ば以降に妊娠しづらくなると知っている方はわずか30%弱でした。これは、カナダやイギリスなどの他の先進国よりも圧倒的に低い数字です。

女性不妊の最大の原因は加齢とともに進む卵子の質の低下

実は、卵子は出生時にすでにでき上がっており、その後、新しく作られることはありません。そして、女性は排卵ごとにその卵子を排出します。出生前をピークとし、出生後、卵子の数は減少しますが、それと並行して卵子の質も低下します。そして、卵子の質が低下すると、妊娠成立が難しくなっていきます。

卵子の老化のメカニズムの詳細はまだ完全には解明されていませんが、卵子のミトコンドリアの機能が低下し、減数分裂において染色体不分離が生じ、染色体異常が起こることが大きな原因の1つと考えられています。

卵子の染色体異常と年齢の関係

下のグラフは、体外受精を行い、受精しなかった卵子染色体の異数性の頻度を調べたものです。卵子の染色体異常は、30歳代半ばから上昇を始め、特に40歳以降急上昇することが分かります。

老化による胚の染色体異常には治療法がない

卵子の老化によって生じる胚の染色体異常については、現段階では治療法がありません。しかし、全ての卵子が染色体異常を起こすということではないため、高年齢の方々は、さらに加齢が進んで妊娠・分娩できる確率がいっそう低下してしまう前に、卵巣内の残り少ない正常な染色体の卵子を確保することが重要となります。

卵子の数について

先にご説明したとおり、女性が持つ卵子の総数は出生前が最大であり、出生後徐々に減少していきます。通常毎月1つの卵子が卵巣から排卵されることは一般的にも知られています。

しかし、卵子は単純に年間12個減っていくのではありません。排卵に至らないまま死んでしまう卵子も、月に数百~千個程度存在します。男性の精子は思春期以降次々と作られていきますが、卵子は女性が生まれて以降新たに造られることはありません。胎児期、母体にいたころが卵子の数のピークということです。

卵子の数が低下する原因

卵巣内にある卵子の数には非常に個人差があります。なかには、年齢に対して平均的な卵子の数を下回る方もいらっしゃいます。卵子の数が減少する原因は、多くの場合不明です。しかし、確実に分かっている原因として、喫煙、卵巣の手術があります。

女性の不妊原因――卵管の異常

卵管は卵子を取り込み、精子との受精の場となり、受精卵を子宮に運ぶというはたらきをします。しかし、卵管が何らかの原因により閉塞すると、卵子と精子が出会えないため受精することができません。

また、卵管周囲の癒着などにより、卵子を取り込めないと(ピックアップ障害)、精子が卵管膨大部に届いていたとしても卵子と受精することはできません。

卵管の閉塞や癒着などによるピックアップ障害のほとんどは、後天的なものです。原因としては、クラミジアを筆頭とする感染症や、過去の腹腔内の手術(虫垂切除術など)、過去の腹膜炎子宮内膜症によるものが多くを占めています。

クラミジア感染症

卵管の異常は、女性の不妊原因の中でも上位の原因です。そして、卵管に異常を起こす原因としてもっとも多いものがクラミジア感染症です。クラミジア感染症とは、クラミジアトラコマティスと呼ばれる病原体に感染することで発症します。また、その他の性感染症(STD)でも、卵管性不妊の原因となることがあります。

子宮内膜症

子宮内膜症とは、子宮内膜が子宮内腔に発生せず、卵巣や骨盤の腹膜などに入り込んでいる病気です。子宮内膜症による癒着や炎症による卵子のピックアップ障害、腹腔内の炎症性細胞の増加などが不妊の原因となることがあります。

女性の不妊原因――排卵障害

排卵障害とは、排卵がなかったり(無排卵)、排卵が遅延したり、まれにしか排卵がなかったりすることです。排卵が遅れる、まれにしか起きない場合は、月経不順となります。

月経不順の原因は、視床下部や脳下垂体からのホルモン分泌の異常、卵巣機能低下が関係しています。ホルモン分泌の異常で頻度の高いものに多嚢胞性卵巣症候群PCOS)*があります。そのほかには、急激な体重増加や減少、精神的ストレスなども関係しています。また、卵巣機能低下は、早発卵巣不全**が関係している場合があります。

*多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):両側卵巣が腫大・多嚢胞化・表層は肥厚し、排卵障害、月経異常、不妊、多毛などを伴う症候群。

**早発卵巣不全:40歳未満で卵巣機能が低下し、無月経となった状態。内分泌的にはFSHが高値、エストロゲン低値となる。


女性の不妊原因――子宮の異常 

子宮筋腫

子宮筋腫とは子宮の筋肉から発生する良性の腫瘍しゅようです。不妊の原因として、粘膜下子宮筋腫により胚の子宮内膜への着床が妨げられることがあります。筋層内子宮筋腫でも、子宮内腔が変形するような場合などでは、着床障害の原因となり得ます。また、精子の移動や卵子のピックアップに障害が出る子宮筋腫もあります。

子宮内膜の異常

子宮内膜の異常により、着床が妨げられる可能性がある代表的な疾患として、子宮内膜から子宮内腔に向かって腫瘍ができる子宮内膜ポリープがあります。他には、子宮内膜増殖症*や、子宮内腔が癒着するアッシャーマン症候群、子宮内膜が薄い場合も着床障害の原因となるケースがあります。

*子宮内膜増殖症:子宮内膜が過剰に増殖し、異常なほど厚くなってしまう病気。

子宮奇形

先天的に子宮の形が正常でなく、妊娠しにくい方もいらっしゃいます。

女性の不妊原因――その他

子宮頸管粘液の異常

排卵期に子宮の入り口付近から分泌される子宮頸管粘液の量が少なく、妊娠しにくい場合があります。初期の子宮頸がんで子宮の入り口の部分を切除(円錐切除術)している場合にも、頸管粘液の分泌が不良となり、排卵期に精子が子宮に入りにくくなることがあります。

免疫の異常(抗精子抗体)

不妊原因の免疫因子として、精子の運動を止めてしまう精子不動化抗体がある場合は、受精を妨げる原因となります。

卵巣の手術

卵巣の手術を行った場合に、卵子の数が低下することがあります。そのため、近年は、患者さんが妊娠を希望する場合、妊娠能力を極力低下させない治療法が推奨されています。たとえば以前は、卵巣嚢腫の手術の場合、腫瘍を卵巣ごと全て摘出するという方法も普通に行われていました。そのため、卵子の量が減少し、不妊に悩む患者さんもいらっしゃいました。しかし近年は、術後に妊娠を希望されている方については、腫瘍のみを摘出し、なるべく卵巣の正常部分を温存する術式が多く採用されています。

また、良性腫瘍であれば、先に妊娠・出産をしていただき、後ほど様子をみながら手術を行う方法や、手術の前に卵子を採卵し、受精卵にしたものを凍結しておくということも行われています。






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