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生成AIをドライバーシートに搭載することを考える

2022年のChatGPT公開以降、AIはブームと言って差し支えない盛り上がりを見せましたが、多くの人の生活にはまだAIが浸透していないように感じます。

やはりChatGPTのようなAIは高い汎用性を持つ反面、自由度が高すぎてユーザーが使い道に困るという課題があるようです。TikTok、Berealなど、一世を風靡するアプリはユーザーに強いる思考負荷や決断負荷が極端に低い点が共通しています。その点今のChatGPTは、「夕飯は何がいい?」「なんでもいい」「なんでもいいが一番困る~!」状態ですね。

しかし、これはあくまで一般ユーザー向けのプロダクトとしてのChatGPTの話です。企業向けのテクノロジーとしてはどうでしょうか。

BMWで、何やら面白そうな生成AI活用例を見つけました。

「生成AIをドライバーシートに搭載」、非常にインパクトのあるタイトルですね。画像生成にせよ、言語生成にせよ、音楽生成にせよ、生成AIを車そのものに搭載して活躍させるアイデアはなかなか浮かびません。せいぜい思いついても「カーナビに搭載」くらいで、ドライバーシートに搭載とは、度肝を抜かれます。

しかし、読み進めると何やらタイトルとズレた感覚があります。この事例の肝は「LLM(ChatGPTなどのこと)を会社の知識と紐づけて、適切な応答をできるようにする」という点のようです。

(前略)かつて、BMWの販売員は、機能の違いやカスタマイズの可否についてマニュアルを参照しながら説明するため、多くの時間がかかっていました。しかし、今ではEKHOを使用することで、販売員はその手間のかかるプロセスを数分で済ませることができるようになりました。

やっぱりか~

要するに、リアルタイム分析と合わせながらカーディーラーをアシストして業務改善するシステムです。確かに実のある実装ではありますが、残念ながら車そのものに生成AIは搭載されていないようです。タイトルから次世代AI搭載モビリティを想像していましたので、若干肩透かしを食らったような気分です。

だったら私たちで、"マジでドライバーシートに生成AI導入するならどんな感じか"を考えようではありませんか。機能を付け足しまくって、次世代モビリティを想像しましょう、言うだけタダですしね。

①カーナビにおしゃべりAI搭載

これはやはり必須でしょう、誰しも最初に思いつきますし、実際かなり面白いと思います。現在の音声対話式AIに技術はかなり目を見張るもので、割り込みの会話もできますし、抑揚も良いです。ただおしゃべりするだけだと「スマホを置いてChatGPTのアプリをオンにすればよくない?」となりそうなので、車そのものと連携して目的地までの案内もしながら、「窓を開けて」などある程度車の操作もできつつ、ガソリンの状況なども把握している有能助手席AIみたいにしましょう。アイアンマンのジャーヴィスみたいなノリです。

懸念点は、コストです。現在の生成AIの多くは、システムにつなげるときはAPIという機能を使う従量課金制です。スマホやPCでChatGPTを使っているときも、スマホやPCは「リモコン」であり「端末」に過ぎず、実際に動いているのは遠くにあるサーバーです。Wii Uのゲームパッドでゲームができるけど、動いているのはWiiみたいな感じですね。switchのようにドックと切り離してプレイすることはできません。

そしてGPT4oという最新鋭のモデルの音声入出力は以下のような料金設定となっております。

The Realtime API uses both text tokens and audio tokens. Text input tokens are priced at $5 per 1M and $20 per 1M output tokens. Audio input is priced at $100 per 1M tokens and output is $200 per 1M tokens. This equates to approximately $0.06 per minute of audio input and $0.24 per minute of audio output. Audio in the Chat Completions API will be the same price.
https://openai.com/index/introducing-the-realtime-api/

これをもとに計算すると、
・1分あたりのオーディオ入力の価格:0.06 USD
・1分あたりのオーディオ出力の価格:0.24 USD
・合計で1分あたりの費用:0.06 USD + 0.24 USD = 0.30 USD
・60分の費用:0.30 USD × 60分 = 18 USD
・1ドル = 約150円で計算:18 USD × 150 = 2,700円

なんと1時間で2,700円です。サラリーマンの平均時給より全然高い、オペレーターを雇った方がはるかに安上がりです。これはあまりにも現実的ではありません。


②大本命、ドライバーシートに生成AIを導入

ここからが大本命、ドライバーシートに生成AIを導入しましょう。ドライバーシートから得られる有意義な情報は「座席の圧力センサーによる姿勢データ」と「運転パターンと動作データ」あたりでしょうか。後者のイメージを詳しく共有すると、ハンドルの操作、アクセルやブレーキの踏み具合、ウインカーの使用頻度、車線変更のタイミングなど、ドライバーの操作に関するデータを考えています。

これらのデータを組み合わせて学習し、それをリアルタイムで活用すれば素敵機能がたくさん実装できそうです。

・リアルタイム姿勢補正とシートアジャスト機能
AIが運転中の姿勢を常時モニタリングし、姿勢が崩れた際にはシートの微調整や背もたれの角度を自動的に最適化。これにより、長時間の運転でも疲労を軽減し、快適な姿勢を維持できます。ドライバーは運転に集中しつつ、姿勢を気にする必要がなくなり、肩や腰への負担も減少します。

・運転スタイルに基づいたカスタム気候制御
ハンドルやペダルの操作データに基づいて、AIが運転の激しさやドライバーの体調を推測し、車内の温度やエアコンの風量を自動で調整します。たとえば、急発進や急ブレーキが頻繁な場合には、ドライバーが緊張していると判断し、涼しい空気を送り込んでリラックスさせます。運転がスムーズであれば快適な温度に保ちます。

・自動ストップ&ゴーのシームレスアシスト
信号待ちや渋滞時のストップ&ゴー操作が多い場合、AIがアクセル操作を促すようにシートを動かし、渋滞時でもスムーズな再発進を可能にします。AIが車両間の距離や速度を計算し、ドライバーが意識せずとも自動的に最適な速度で進行して、渋滞中のストレスを大幅に軽減できます。

・自動ミラーとシートポジションの記憶・最適化
日々の運転データから、シートやミラーのポジションを最適化しましょう。たとえば、異なる靴を履いたときや天候に応じて、ドライバーの身体や環境に最適なシートポジションやミラーの角度を自動で調整し、いつでもベストな視界を提供します。

そしてこれらのシステムを、先ほどのカーアシスタントAIと合わせて音声入出力でマニュアルでの操作やチューニングも可能とします。

かなりわくわくするし夢が広がりますね。このアイデアの素晴らしい点は、ユーザーが積極的に「AIを活用する」ことを考えずに済む点です。パーソナライズされた完璧なアシストAI、万年筆のように使い込むほどなじむモビリティはドライバーを包む生物のようで、ドライバーとモビリティの境界線を曖昧にします。TikTokのザッピングの感覚、スマホをタップする感覚、「病みつき」はいつだって操作感が要でした。車というデバイスを操作するのではなく、自分の移動能力が車によって拡張されます。車が自分の体の一部となるのです。


いささか興が乗ってしまったが、要するにお伝えしたいのは、生成AIにはこれくらいポテンシャルがあると思いますし、「生成AIをドライバーシートに搭載」の文言を見たときに期待したのはこれくらいのインパクトです。これからもっと尖ったプロダクトが社会の利便性を向上させることに期待していますし、私自身がその先鋒に立ちたいと強く願います。

今回は事例そっちのけで妄想を繰り広げましたが、元の事例であるEKHOも今後の生成AI活用のデファクトスタンダードとなるような魅力的なソリューションですので、またの機会にお話ししましょう。。

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