【番外編】『丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇“チラシ”の話』「おちらしさんアワード2023」の前に「ミイ子さんコレクション2023」大放出!
みなさん、おはようございます。「冬はつとめて」(by清少納言)とはよく言ったもので、澄んだ冷気に鼻先がきりりと冷える朝が私も好きだったりします。今年も残すところあと数日、皆さんにとって楽しい年の瀬とお正月になりますように!
と、のっけから締めくくりみたいになっちゃいましたが、夏にスタートした本連載も年内最終号。実はこの連載、当初よりずっと「こんな媒体にしたい」と密かに心で掲げている“モデル”があります。なんだと思います?
……(脳内でドラムロール鳴らしてください)……それはズバリ……「チラシ束」!
観たことある・ないを問わず、毛色やジャンルも横断して、様々なカンパニーや作品の世界がギュッと詰まった一つの束。「これ観てみようかな」と新たなきっかけが生まれることもあれば、「これ観たかったんだ!」とリマインド的役割を果たすこともありますよね。そんなチラシ束をめくる時みたいに、あっちゃこっちゃ彷徨いながら演劇のお話をすることで、「今日より明日劇場へ行く人が少しでも増えたらいいな」と願いつつ、筆を執って参りました!
そして…過去記事からすでにお気づきの方がいらっしゃったら大変嬉しいのですが、本連載の写真はほとんどが自宅撮影。つまり、チラシは「スタイリスト私物」ならぬ「ライター私物」。かくいう私も昔から演劇のチラシを眺めるのが大好きな一人なのでございます!
「コレクションだもの、やっぱり素敵に撮りたい」。そんな思いから毎月自宅という名のスタジオで、あらゆるチラシを被写体にせっせと作品撮りに励む日々でございました(笑)。
そんなこんなで!今年最後を飾る今月号は、「チラシの魅力」をテーマにお届けします!
毎年恒例「おちらしさんアワード2023」のグランプリ発表も近づいて参りましたが、こちらも負けじと、「ミイ子さんコレクション2023」を大放出!(笑)。今月だけは、連載名を『丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇“チラシ”のお話』と題して、文字よりもお写真多めで、うーんと「チラシ束」らしくいきますよ〜!
① 2023年、私の愛した演劇(とそのチラシ)たち
まずは、2023年に観た/観たかった作品のお気に入りのチラシたちをピックアップ。4つの部門に分けて、一言コメントとともにご紹介します!
―写真/スタイリングにグッときた部門―
*画餅『Holiday』
アパレルブランドコレクション顔負けのお洒落さ。ヘア&メイク・スタイリング・プロップス…全てにこだわりが光る、2023A/W COLLECTION!
*優しい劇団
ロマンティック感とダイナマイト感とムーブメント感の全てがドバドバ伝わる熱い1枚。名古屋からの“優しき”殴り込み、「優しい劇団」ここに参上っ!
*アガリスクエンターテイメント『令和5年の廃刀令』
抜群のロケーションと朝の光、そしてなんと言っても物語の世界観を凝縮したベストショット!俳優の技もキラリと光る1枚です。
*ムシラセ『つやつやのやつ/ファンファンファンファーレ!』
12人の“つやつや”な笑顔たち! 観終わった後、その笑顔の奥に浮かぶ様々な風景に思わず涙が出てきてしまいました。
*ロ字ック『剥愛』
モノクローム×赤字で、ロックでシックなビジュアルに。剥がれた愛にも、剥き出しの愛にも見えた、俳優陣の渇きと憂いの混ざった表情に改めて喝采を!
*連跣『ネットスーパーの女』
ススキ畑に赤が映える、フォトジェニックな親子の姿。伊丹十三リスペクトを存分に忍ばせた全労働者、全市民への愛の讃歌でした。
*劇壇ガルバ『砂の国の遠い声』
7人の監視員が砂漠を舞台に贈る、さらさらとざらざらが混ざった会話劇。心なしか、チラシからもさらさら、ざらざらと砂の手触りがしたような気がしました。
*『指揮者が出てきたら拍手をしてください』
真っ赤な客席に点在するのは、19人の「かつてバレエをやっていた」人々。ダンサーの倉田翠さんと公募で募った出演者によるユニークな公演が話題を呼びました。
*阿佐ヶ谷スパイダース『ジャイアンツ』
懐かしくて、愛おしい、在りし日の古い写真にふと、自分の記憶を重ねてしまった。父と子を中心に巡るある家族の一つきりの物語。
―デザイン/イラストにグッときた部門―
*幻灯劇場『DADA』
「幽霊は眠る。」という一言に見張られる様にして寄り添う二人の子ども。二人で一人であるようにも見えるけど、その目は本当に閉じている?
*大川企画『笑う』
4人の俳優があの名画に?!あまりのインパクトに思わず“笑”ってしまったけれど、その全貌は、想像ぶった斬る超絶ディスコミュニケーション技巧でした!
*カハタレ『気遣いの幽霊』
花札のような「和」なムードに、ネオン文字のギャップがオツ!第一回公演にして、カンパニー名を地で貫くような意欲作。幽霊なのは果たして誰?
*明後日プロデュース『ピエタ』
モノクロームのイラストにピンクを添えて。港にも船上にも見えるその場所から、少女にも大人にも見えるあの女性たちは、今頃どんな景色を見ているだろう。
―これはもはや一つのアート作品部門―
ゆうめい『ハートランド』/design by りょこさん
赤い毛糸で繋がれているアルファベットと黒い猫。被写体を撮るのではなく、被写体を作るところから始まるチラシ創作。ああ、なんて果てしなきこだわり!物語の重要なキーワードとなる猫がこちらをじっと見ています。同じく正方形シリーズの『姿』も個人的にお気に入り。ついでにこれも見せちゃおう、ロビーで一目惚れして買った、公演オリジナルグッズの上映マナーキャッツ!
*明日のアーの新喜劇『親切な寿司屋が信じた「3000万あるんですけど会ってもらえますか?」』/design by よシまるシンさん
“新喜劇”という趣向をフルに活かした、観る前からもう楽しいコミカルPOPなデザイン。座長・八木光太郎さんが全キャストに扮する様は何回見ても笑っちゃう。さらにこの公演では劇中の「プレスリーそっくりさん大会」のお知らせもチラシ束に入れるという粋な計らいがありました。他の公演でもちょっとやそっと見ないデザインで驚かせるのがアーの技!個人的には『カニカマの自己喪失』の“裂けるチラシ”と最新公演『アーの9』の当日パンフレットのパッケージも印象的。
―観られなくたって保存版部門―
*小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『松井周と私たち』
公演タイトルをガチ再現?!この種類のインパクトは初体験でした。このカンパニーには何度も驚かされてきたけれど、きっとこの先もそうなのだと思います。
*かるがも団地『静流、白むまで行け』
文字から伝わる言葉の温度、写真から伝わる物語の湿度。タイトルと写真、そしてその組み合わせにグッと心を惹かれた1枚です。開いた時に表情が変わるデザインもまた素敵。
*コラボノハナ2023『一貫性ガン無視ガール』
まるでファッション誌の1ページ。キッチュで個性的なスタイリングやへアイメイクはどうしたってガン無視不可能!超カワイイ、行けなかったのは超クヤシイ!
*劇想からまわりえっちゃん『もう一度、僕を孕んで』
文字だってデザインの一つ! フォントのうねりと言葉のゆがみが絶妙に手を取り合った、シンプルながらも存在感のある1枚。ピンクの濃淡が渦巻く背景と楕円の影が胎内を想起させます。
*凛×天歩企画『キキ』
夜の風景に蛍光イエローで落書きをあしらったようなデザイン、こちらを見下ろすセーラー服姿の二人。その1枚は警告なカラーリングも相まってどことなく「危機」を感じさせます。それもそのはず、だってその名が『キキ』なのだもの。
*あまい洋々『かみさまを殺すための旅』
タイトルの衝撃と、その言葉に反して“あまい”イラスト&フォントのマッチングが目を引きます。背景に歪んだ写真が敷かれていたり、ビースやパールらしき異素材が混ざっていたりと豊かなデザイン。次は物語まで会いに行けますように!
*コココーララボ『コココーラ』
行間こそが時に饒舌なように、余白にこそ浮かび上がる何かがある。チラシを見てそんなことを思いながら裏をめくると、「なんにも起きないけど大事なおはなし」とありました。デザインが伝えることの豊かさを痛感した1枚。
② 一目でどのカンパニーか分かる、名刺代わりのチラシたち
ここでは、文字や情報を追わずともその絵や写真を見ただけで「あの劇団のチラシだ!」と分かちゃう、素敵なシリーズチラシをご紹介。チラシ束の中に見つけると、「また会えたね」とつい嬉しくなってしまうのです。初見の皆さんも是非今後のお目印に活用くださいね。
*南河内万歳一座
長谷川義史さんといえば南河内万歳一座、南河内万歳一座といえば長谷川義史さん。と言っても過言ではないくらいのロングロングタッグです。色彩と表情豊かな絵の世界に想像力を駆り立てられます。
*情熱のフラミンゴ
現在は活動は休止していますが、大好きなカンパニー。新作公演の情報がアップされるたびに、その全貌とともにカナイフユキさんの新たなイラストのお披露目を心待ちにしていました。チラシだけでなく、グッズも素敵!
*城山羊の会
コーロキキョーコさんのイラストに俳優らのモノクローム写真がコラージュされたデザインが目印の城山羊の会。「次はどんな動物や植物が描かれるのかしら」と毎回密かに楽しみにしています。個人的お気に入りは『温暖化の秋』の鶴!
*劇団普通
劇団普通のイラストを担当しているのは、関根美有さん。絵本の1ページのようなイラストは、劇団普通が紡ぐ演劇世界同様に静かにしかし確かに何かを伝えるようで、観劇前はもちろん観劇後もつい眺めてしまいます。
*ドラマティックゆうや
CMディレクターの泉田岳さんが作・演出を手がけ、そのユニット名の通り、俳優・田中佑弥さんが縦横無尽に舞台を駆け巡る!公演チラシやパンフレットも田中さんを被写体にした様々なシーンの作品撮りが魅力です。
*あんよはじょうず
毎回アバンギャルドなビジュアルとアートワークで視線を奪うのが、あんよはじょうず。のチラシたち。塚田史香さんの切り撮る、魅力あふれる俳優さんたちの表情には毎回ドキッとさせられます。新作公演『なるべく強く踏みつけて、』は12月17日まで新宿村LIVEで上演中!
③ 観劇納め&観劇初めカタログ
―中身がわからなくても、ジャケ買いしたらいいじゃない?―
最後にこれから上演の気になるカンパニーと公演をご紹介。ちなみに、ここでピックアップする8作品は、私が気になりつつもまだ観たことのないカンパニーや作品ばかり。チラシのムードやデザインが作品の第一印象としてはたらくこと、「観たことないもの」を「観たい」と思う一つのきっかけ、それが特別な出会いへと繋がることもあります。だから、観劇納めや観劇初めを機にちょっぴり勇気を出して、「ジャケ買いしてもいいんじゃない?」
*20歳の国『長い正月』(作・演出:石崎竜史)
12/29〜1/8@こまばアゴラ劇場
20歳の国6年ぶりとなる劇場公演は…チラシが長い!でも、家族の歴史はもっと長い? 年をまたいで贈る、とある家族のささやかな大河劇。
*劇団身体ゲンゴロウ『最初の二十面相』(脚本・演出:菅井啓汰)
12/21〜12/24@北千住BUoY ※残念ながら全公演延期となりました。
江戸川乱歩を原案に立ち上げる、劇団身体ゲンゴロウ的二十面相。鋭い視線が捉えるその先には、“最初の”先には、一体何が?
*UNIca『菓』(振付・演出:坂田有妃子)
12/28〜12/30@絵空箱
緑と紫、叢に一つの漢字と二つの身体、ユニークな発想に思わず手を止めた。唯一で、奇妙で、とっておきの何かが始まる予感。
*ポスト舞踏派『魔笛』(振付・演出・構成:笠井叡)
1/8@KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
柄に次ぐ柄のインパクトったら! 1ステージ限り、6人のダンサーによる珠玉のモーツァルト歌劇を目撃せよ!
*名村辰ソロユニットnamu旗揚げ公演『地獄は四角い』(作・演出:名村辰)
1/12〜1/14@下北沢OFF・OFFシアター
地獄は四角い、チラシも四角い。「小劇場系の演劇チラシは…」から始まる裏面の文章も決め手の一つになりました。
*多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科2023年度卒業公演『音楽』
(原作:大橋裕之 作・演出:西崎達磨)
1/13〜1/14@東京芸術劇場 シアターイースト
在りし日の“初期衝動”が詰まったあの名作漫画を卒業公演として上演?それだけでもう胸がドキドキしてしまう!
*シリコン『アイニク』(作・演出:松尾英太郎)
1/16〜1/21@下北沢OFF・OFFシアター
チラシを光に透かしてもその顔はわからなかった。それは、私や隣人の記憶がいつかはこうなるかもしれないことを物語っているようでした。
*食む派『ファミリーレストランの肖像』(作・演出:はぎわら水雨子)
1/24〜1/28@こまばアゴラ劇場
レストランのメニューみたいに表も裏も隅々まで楽しい1枚。家族の肖像にも表と裏はあるかしら?答えは劇場で!
以上、どどーんと「ミイ子さんコレクション2023」をお送りいたしました!いつにも増して「チラシ」の魅力にフューチャーしてお送りした今月号、いかがでしたか?
「私もこれ観たわ」と観劇の思い出を振り返ったり、「今度はこれを観ようかな」と年末年始の観劇の参考にしていただいたり、よしなにご活用いただけたら嬉しいです。
パラパラとチラシ束をめくる中で、ふとその手を止めてしまう時。その瞬間から新たな劇体験は始まっているのかもしれません。来年も、これからも、みなさまにとって心高まる演劇との出会いが多く訪れますように。それでは、どうか来年もHave a nice theater!! よいお年を!
▽「おちらしさんアワード2023」▽
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丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』『リンネル』『Lala begin』などの雑誌で主にカルチャーページを担当。出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動、育児との両立を鑑みながら『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』などで執筆。近年は小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)などがある。2022年5月より1年間、『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>で劇評を更新。CoRich舞台芸術まつり!2023春審査員。
Twitter:https://twitter.com/miikixnecomi
note: https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627
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