「今、ここは居心地が悪いな」と感じている人へ|舞台『ノンセクシュアル』加藤ひろたかさん稽古場インタビュー
2月7日(金)~12日(水)に、横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールにて上演される、舞台『ノンセクシュアル』。サイコスリラー小説を原作に、セクシュアリティが異なる5人のキャラクターの想いが交錯するヒリヒリとした物語です。おちらしさん12月号では、チラシもお届けいたしました!
1月中旬、キャストの皆さんが揃う稽古場に潜入! Wキャストで主人公・藤木瑛司を演じられる加藤ひろたかさんのインタビューをお届けします。
バイセクシュアルを演じる
加藤ひろたかさん(柿喰う客)に聞く!
舞台『ノンセクシュアル』
この日稽古が行われていたのは、物語中盤の場面。『ノンセクシュアル』は5名のキャラクターの複雑とも言える人間関係が面白さのひとつですが、彼らがそれぞれに疑念を抱え始めるきっかけとなるような15分ほどの流れを拝見しました。加藤さんに座組の皆さんとの稽古について伺います!
◇キャスト同士でのバランスや、Wキャストでのコントラスト
――稽古スタートから2週間弱ですが、いかがですか?
加藤 皆さん初めましてですが、すごくやりやすいです! 鯨井さんの雰囲気づくりが本当に上手で、稽古初日から何日かは全員1つずつエピソードトークを持ち寄りました。お互いの人柄が分かったり、そこで笑いが起きたことによって芝居にも入りやすくなったり……。演出方法も、僕らがチャレンジできる環境を作ってくれています。例えば変なことをやっても笑ってくれるし、良いところをピックアップしてくれるので、俳優として非常にやりやすいですね。
――稽古を拝見して、まさか作品のダークな世界観とは真逆の明るさに溢れているとは驚きました! 『ノンセクシュアル』という作品への印象は、稽古の始まる前と始まった後で変化がありましたか?
加藤 稽古前に2020年のリーディング版の台本をいただいて初めて読んだときは、結末までのストロークが意外にもあっさりしていて、淡々と進んでいくように感じました。その分、どんなふうに稽古して舞台としてできあがっていくのか気になって読んでいたんです。瑛司と秀樹のシーンから物語が始まるんですが、稽古場に来てみたら僕のイメージしていた秀樹のキャラクターと、神里優希くんの演じる秀樹が真逆のアプローチで……。
――神里さんの秀樹は、どんなところが意外だったんでしょう?!
加藤 二人は恋人なんですが、バランスで言うと、秀樹というよりも瑛司に対して周りを振り回す”悪い男”のようなイメージを持っていたんです。ところが神里くんの秀樹はとても男性的だったので、そのヒントのおかげで反対にちょっと受けに回るような、今作っている瑛司のキャラクターのベースができました。一人で台本を読むときと違って、共演者の影響は本当に大きいなと思いましたね。
――瑛司に関してはどんな人物だと捉えていますか?
加藤 「うわ、こういう人が周りにいたら友達になれないかも」と、最初はまったく好きになれませんでした(笑)。奢られるのが上手い人っているじゃないですか。瑛司はお酒を奢られるのが上手いタイプだと思うんです。すっと人の懐に入ってくる上手さだとか、瑛司が持つ色気でもあるでしょうし、彼の会話、雰囲気、そのあたりをどうにか出せないかなと思っています。僕はお酒を奢られるんじゃなくて、気分が良くなって「いいよ」とか言ってお金を払っちゃうタイプなので。
――稽古のなかで、ご自身と瑛司が似ている部分も見つかりましたか?
加藤 瑛司が侑李といるときのふざけている感じは、すごく自分の素に近いです。ボケられたらツッコむし、ボケちゃうしみたいな雰囲気は、作品全体を通しても瑛司の軸になっています。実は瑛司以外で演じるなら、100パーセント侑李をやりたいんですよ! あれだけ縦横無尽に喋って遊んでいる感じは良いなあと思います。今は侑李を演じる(小柳)心さんの自由奔放さをどうやって受け流したり、応えたりしていくのか一緒に探っているような感じです。
――侑李や秀樹と同じく、シングルキャストで塔子を演じられる立道梨緒奈さんとのお芝居はいかがですか?
加藤 立道さんの塔子ですごいなと思ったのは、自立した格好良い女性の表現と、さらにその中に人間の可笑しみまで見えてくる演技です。初めて観たとき、感動しました。シングルキャストのお三方はベースを守りつつ、Wキャストでの違いにも反応してくれる。例えば瑛司を演じる僕と星元さんでは、セリフの言葉尻をちょっと変えているんですが、そういったノイズのような部分を受けつつ、的確に返してくれる三人の懐の広さにはすごく安心感があります。
――二人の瑛司は、役作りだけでなくセリフにも違いがあるんですね……!
加藤 僕の瑛司の場合、荒い言葉のセリフが続くと、秀樹の前で出しているフェミニンな雰囲気に合わないところがあるんです。その箇所をこっそりバレないように変えて……。星元さんは逆に力強いアプローチで男性を演じているから、逆を行ったらバラエティーが出るかなとか。もう一役、Wキャストとなる蒼佑にも狂気の違いがあって、そのコントラストにも感銘を受けました。同じチームのノスケくん(松村龍之介さん)は高学歴でモラハラ気質な感じ、星元さんと同じチームの新井將くんは純粋ゆえに不穏な感じ。それぞれの作り方が面白いです!
◇疾走感のなか、愛やセクシュアリティのグラデーションを描く
―—加藤さんの目線を通して、座組の皆さんの魅力が伝わってきました! 『ノンセクシュアル』という作品の面白さはどんなところに感じていますか?
加藤 いろいろなセクシュアリティのキャラクターが出てくるのでもちろんその違いや、それぞれに抱えてるものはあるんですけど、愛情や執着など、悩んでいる根幹にあるものは僕たちと同じなんです。同じところに根っこがあって、出方が違う。多角的に見られるところが面白い作品だと思います。今日稽古を見ていただいたシーンのように、シリアスとコメディの緩急もポイントなんじゃないでしょうか。
―—ひとつの物語でありながら、いろいろな顔を見せてくれる作品ですよね。
加藤 今回の舞台では視覚的にもいろいろな角度から観ていただけるんです! あまりそういった作品をやったこともないし、客席で観たこともないので、まだ現時点ではどんなふうになるんだろうと思っています。想像力を働せるようなわざと見えない箇所、隠れた箇所も舞台美術にはあって、作り甲斐があるというか、鯨井さんもすごく楽しみながら演出をつけてくれていますね。特徴的なセットで生まれる物理的な距離感をセリフにも反映しながら、他のキャラクターと対峙しています。
―—先ほど舞台美術の模型を拝見して、思わずおおっと声が出ました! 反対に稽古のなかで難しいと感じている点はありますか?
加藤 難しいのは核心となる、蒼佑との関わり方です。彼の執着に対して瑛司が何をどう思って、自分の求める愛や彼が求める愛に何を見つけていくのか、どういう結論に至るのかというのは、鯨井さんの頭の中にあるものと僕の頭の中にあるものをこれからすり合わせていく段階にあります。ここが作品のテーマにもなると思うので、かなり難しいところだと感じますね。クライマックスに向かっての疾走感も、ある種ホラー映画やサイコスリラーの映画を観ているような感覚があって、そういった作品のファンとしても演じられるのが楽しいです。どうやって座組全体でラストシーンに着地していくのか、これからもっとみんなで作っていかなきゃなと思っています。
―—ラストにかけてのスピード感は、とても楽しみなポイントのひとつですね。最後になりますが、ずばりどんな方に観て欲しいですか?
加藤 「今、ここは居心地が悪いな」と感じている人でしょうか。『ノンセクシュアル』のキャッチコピーにもなっている愛と執着の違いもそうですし、セクシュアリティも愛も簡単にラベリングできないグラデーションがあると思うんです。これが愛で、これが夫婦、これが恋人で、これが友人という、区別はきっと厳密にはない。じゃあどこが自分の居場所なんだろうとか、今自分は好きな人とどういう関係でいるんだろうとか、そういったことを考えている方が観てくれたら、近しいキャラクターを見つけて、新たな視点がひとつ生まれたりするのかな。そうなったらいいなと希望を持っています。僕自身が今どんなところで演じ、遊んでいるのかも、楽しんでもらえたら嬉しいです。
―—ここから本番までさらにどんな作品になっていくのか期待しています。本日はありがとうございました!
インタビュー・文/清水美里(おちらしさんスタッフ)
ヘッダー・加藤さんプロフィール写真撮影/NORI
公演情報 舞台『ノンセクシュアル』
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▽チャーミングな星元裕月さんにもお話を伺いました!▽
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