【配信公演観劇しました!】渡辺源四郎商店『ともことサマーキャンプ』
こんにちは、おちらしさんスタッフです。
今回は、渡辺源四郎商店「親と子を考える3作連続上演」の一本、『ともことサマーキャンプ』を配信で鑑賞しました。
青森中央高校の演劇部で初演され、2009年の全国高等学校演劇大会で優秀賞を受賞、その後も繰り返し再演されている作品です。今回の配信公演では初演のメンバーも出演しているとのこと。ベースとなった『親の顔が見たい』は以前に見ていたのですが、こちらは初めての鑑賞でした。
ある高校で起こった生徒の自死。亡くなった「ともこ」の手紙に名を挙げられた生徒たち。高校3年生のサマーキャンプの真っ最中、教師から聴取を受ける子どもたちと、手紙を巡って学校側から"相談"を受けるその保護者たちの様子のみでほぼ全編が進行する、真正面からの会話劇です。
教室の机と椅子のみのシンプルなセット。生徒たちと保護者たちは子/親の二役をひとりの俳優が演じ、シーンのスピーディーな入れ替わりを実現しています。
このひとつの体の表現を通して、事情を問われる当事者・手紙の件を知ったばかりのその親という、別々であるにはあまりに近く、経験を分かち合うにはあまりに遠いふたつの立場が重層的に立ち上がってくる構成です。
初演から十年あまりが経つ作品ですが、問われるものの重みは変わることがありません。
いじめ、そして子どもの自死は、2021年現在もたびたび報道に取り上げられ、いくつかの大きな報道の向こうにはさらに無数の、尊厳の損なわれた個々人/損なってしまった個々人/保護者や教員/かれらすべてが関わる学校現場があります。
動かしがたいあやまち、現に起きてしまった事実を目の前に、正面からそれに向き合える人はどれほどいるか。「ともこ」を死に至らしめたいじめとの関係を問われた各人が発する言葉と反応は、ときに耳をふさぎたくなるほどに腹立たしくまた息苦しいものです。とりわけ保護者のパートでの徹底した否認、なりふりかまわぬ隠滅、この状況をうまく切り抜けるためのあらゆる方法の模索は、いっそ笑えるほどに愚かとすら映ります。
かれらの行動を心の中で断罪して済むならばどんなに気分のよいことかと思いますが、現役として教育現場にいる劇作家である畑澤聖悟はもちろん、そのような安全地帯からの物語の受け取りを決して許してはくれません。
「正しく」あるやり方を知らないわけではもちろんない人々が、子ども、将来、立場、守らねばならない・壊したくないと信じる無数の日常を抱えたとき、あるいは人と人とのパワーバランスに絡めとられたときいつでも取りうる行動が、『ともことサマーキャンプ』には詰まっています。
加害者となった生徒のひとりがラストに発する台詞もまた、残酷だ、冷酷だと述べてしまえば、少なくとも観客である自分の心を守られるでしょう。実際、見ながらそう思いたくなってしまった自分がいます。
けれどその台詞を「同じことをしないでいられるか?」という問いと考えたとき、仕方ない、と開き直るはるか以前にすべきことがどれほど多くあることか、と痛感します。
子どものために、そうして大人のためにも、これからも上演の重ねられてほしい作品です。
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