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丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】⑬ 舞台衣裳コレクション2024!(丘田調べ)衣裳が印象的だった演劇作品を語らせて!
みなさん、こんにちは!もう流石に秋真っ盛りと言っていい気候になってきましたね。秋といえば、食欲の、スポーツの、そして、芸術の秋。しかし、それだけではございません。毎年このシーズンに開催されるのがズバリ、パリコレことパリ・コレクションでございます。つまり、パリは9月後半から10月にかけて、錚々たるブランドが春夏コレクションを続々と発表する“ファッションウィーク”に突入するんですね。かくいう私はパリコレはおろか、パリにも行ったことがないのですが、おしゃれは年柄年中一生大好きっ!
ということで、今号はちょこっと趣向を変えまして、そんな“ファッション”を一つのとっかかりに、衣装やスタイリングが印象的だった舞台作品について語っていきたいと思います。
記事というよりもカタログのような心持ちで、素敵な舞台写真をドドンと多めでお届けします♡ カンパニーの皆様のご協力も賜り、その数ズバリ30越え!もう、これは「舞台衣裳コレクション2024」と呼んでいいでしょう!カンパニーの次回公演の情報も併せてチェックの上、お楽しみ下さいませ〜!
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まずは私が舞台衣裳の意義に深く興味を持つようになったきっかけになったカンパニーとその作品からご紹介させてください。そのカンパニーはズバリ、快快。『ルイ・ルイ』のチラシを一目見た時の高鳴る胸のときめきは今でも忘れ得ません。
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作品はもちろん、チラシのキービジュアルから舞台衣裳に至るまで毎回その個性の輝きに心を揺さぶられているのですが、中でも忘れられない観劇となったのが2022年の夏にKAATで上演された『コーリングユー』(原作:鈴木志郎康 脚本:北川陽子+快快 演出:快快)という作品。振動や波動が声になって、呼んだり呼ばれたりして、声にはなっていないもの、これから声になるかもしれないものをもが振るえながら音楽のように身体に入ってきて、重なっていくその「コーリング」の中で、私は私の中に私が生まれていくのを感じました。
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水紋みたいに、脈拍みたいに伝わってくるなにか。予感のような、それでいて確信のようななにか。愚直なまでの切実と身に迫るような誠実で誰かを呼ぶこと。小さい時、糸電話の線をいたずらで切られた時、それでも向こうの声がここから聞こえる、私の声が向こうのそこに届いている気がしてならなかったこと。 そして、「切れてるし聞こえないよ」と言われて断線したのは、糸じゃなくて、声だったこと。あの時の声が取り戻されたような、また繋がったような気がしました。からだが遠くにあっても、小さな子どもを育てていても、誰かと何かをこんなにも切実に誠実に生み出すことができるという素晴らしさ、それをこうして劇場で目撃できる有り難さ。快快というカンパニーの在り方は、そういった人と時間や距離を結ぶ喜びをも私に教えてくれるのです。空間と手を繋ぎ合った藤谷香子さんの衣裳も素晴らしく、冒頭のセリフ同様「キャー!!!!」と思わず叫びたくなった作品でした。
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さてさて、ここからはランダムに今年観た衣裳が印象的だった作品について、その感想や最新情報も交えつつどしどし語っていきたいと思います〜!
滋企画『OTHELLO』
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青年団の俳優・佐藤滋さんが2022年に始動させた滋企画。その第二弾が、シェイクスピアの四大悲劇の一つである『OTHELLO』です。演出はニシサトシさん。冒頭、何といっても驚いた演出こそが、この真っ赤なジャージの衣裳。ジャージ×口語劇で日常と同じ視線の高さから始まるシェイクスピアはとても新鮮で、シェイクスピアに詳しくないからこそ観られてよかったと思う作品でした。
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ジャージの赤、シャツやパンツやジャケットのボルドー。衣裳の赤色が深みを増しながら点在する効果も印象的でした。人間が持ち得る限りの感情を、躰に流れる汗や涙や血液を揮発させる様な俳優の凄味も素晴らしく、全く新しいシェイクスピア体験となった観劇。古の作品を今、この時代に立ち上げる意義にとことん向き合った上演に心を動かされました。滋企画は来年3月に第三弾『ガラスの動物園』をすみだパークシアター倉で上演予定。演出はヌトミックの額田大志さんということで、ここでもまた新たなテネシー・ウィリアムズ作品に触れられそうで楽しみです。
2025年3月。あと一年。
— 滋企画 (@shigeru_kikaku) March 18, 2024
もうすぐです#滋企画#ガラスの動物園#テネシーウィリアムズ#額田大志#西田夏奈子#原田つむぎ#大石将弘#すみだパークシアター倉#佐藤滋 pic.twitter.com/0auPANNgNJ
不条理コントユニットMELT『スネーク・オイル』
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1998年生まれの映画監督・平田純哉さんと作家の宇城悠人さんが2022年に設立し、メンバーの渋木耀太さん、さとうゆうきさんとともに活動するMELT。コントユニットですが私は本作を一本の演劇、前世と今世を巡る人類史の物語ととらえました。舞台は、魂の存在が科学的に証明され、前世の履歴さえも鑑定可能になった世界。形あるものとないもの、目に見えるものと見えないもの、そのあわいで揺らぐ人々が描かれ、コミカルながらもテクノロジーには証明できない生と愛への肯定に心を動かされました。
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設定は近未来ですが、宇城さんの手がけた台本には「小栗判官と照手姫」や「イザナミとイザナギ」「お岩さんと伊右衛門」などの伝説や神話や古典から得る愛憎の手触りを再解釈/再構築するようなチャレンジグな試みもあり、バッグボーンを想像したり、平田さんの演出を読み解きながら観劇するのもとても楽しかった!質感に工夫を凝らした近未来的な衣裳で、俳優さんのそれぞれの着こなしも抜群に素晴らしく、劇の世界観を眩しく彩っていました。本作はなんと早くも先日、1日限りの映画館上映までを実現。今後の活躍にも目が離せない若手カンパニーです!
PANCETTA LAB 2024 SUMMER『“Gouche”』
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宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』を原作に1週目は公募で集まった子どもたちと創作するKIDS LAB、2週目は俳優と音楽家たちによる公演として取り組まれたPANCETTA Special Performance "Gouche"(脚本・構成・演出:一宮周平)。味あるキャラクターに、さらにさらにといのちの躍動を灯す様なお芝居、ゴーシュの心象風景と観客の想像力に寄り添う豊かな演奏も素晴らしく、夏休みに親子で観るぴったりの作品でした。PANCETTAのトレードマークでもある「つなぎ」を様々な形にアレンジした衣裳も魅力的!
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ゴーシュと父の在りし日の忘れえぬ触れ合いが、セロとの対話やともに奏でる音楽にシームレスに繋がっていく様子、個性あふれる動物たちとの出会いによって、自身の表現や心を磨いていく様子、シーンが重なっていく度にゴーシュの心が成長していくようでもありました。劇場に入ると、音符と花が一つになったような小道具が観客へ配られ、そして最後には、それを観客からステージへと手渡していく。その温かな循環にもグッとくるものがありました。PANCETTAは10/10より、下北沢のザ・スズナリを皮切りに北の地を巡るツアー公演『“声”』がスタート。是非お見逃しなく!
ザジ・ズー『MY NAME IS I LOVE YOU』
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多摩美術大学美術学部演劇舞踊デザイン学科出身のメンバーを中心に結成されたザジ・ズー。舞台のどこに目をやってもその最高温度&最大風速に呆気にとられる、攻めに攻めた上演スタイルが魅力的。そんなザジ・ズーが3月に佐藤佐吉演劇祭で上演したのが、前述した快快の『MY NAME IS I LOVE YOU』(脚本・演出:アガリクスティ・パイソン)。原作にリスペクトを込めつつ、舞台の隅々までをザジ・ズーらしいポップでパワフルなエネルギーで彩った意欲作でした。
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その劇世界は一言で言うと、カオス。潔いまでの混沌を手を変え品を変え魅せ続けることのできる力に心を掴まれました。それぞれ異なる俳優の身体性と、頭ではなく心に向かって放たれる言葉の力。それらをエンジンに、劇世界を最後までドライブし続けていくタフさ。爆発的な遊び心とスパイスの効いた衣裳も見どころの一つです。そんなザジ・ズーは11月〜12月に東京・横浜を横断した全6会場でツアー公演『ザジ・ズー オブ ザ ナイト 〜𝓚𝓘𝓢𝓢降る夜に星を見ろ!〜』を上演。お好みの会場でぜひ目撃して下さい!
劇団野らぼう『内側の時間』
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ここは野外?と見せかけて、実はせんがわ劇場!?と驚く世界観の構築にまずびっくり!長野県松本市を主な拠点に活動する劇団野らぼうは2023年に『ロレンスの雲』でせんがわ演劇コンクール、作品賞・脚本家賞・演出家賞をトリプル受賞。そのグランプリ受賞公演として5月に上演されたのが『内側の時間』(構成・演出:前田斜め)です。太陽光で蓄えた電力を持ち込んでの地産都消のゼロカーボン演劇、素晴らしい試みでした。キッチュで愛らしい衣裳のディティールはメンバー皆さんで意見を出し合ってプランをしているそう。
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地球のエネルギーも人間のエネルギー同様に有限。この世界と、今という時間と手をしっかり繋ぎながら描かれていく叙情詩/叙景詩の連作たち。キャストから技術スタッフさんへの「(残りの電力は)あと何%?」という問いかけすら演劇の"内側"に繋がる輝きが眩しくて、尊くて…。開けた窓から入る風と光で煌めきながらパラパラと詩集がめくれてくような時間でした。この演劇ばかりは語れば語るほど、本当に語りたいことが指の隙間からすり抜けていくものがある感覚に。それは多分、目に見えぬ、心に直接触れるエナジー。そんな本作がなんと『新装版 内側の時間』として10/13に東京公演、11/3に浜松公演を上演。カンパニー念願のテント芝居をぜひ見届けて下さい!
南極ゴジラ『バード・バーダー・バーデスト』
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演劇をポップカルチャーに押し上げるべく旗揚げされた、平均年齢26歳の“ゆかいな劇団” 南極ゴジラ。ハード面・ソフト面ともに工夫に抜かりのない圧倒的なデザイン力の高さに毎回驚かされる劇団です。9月に上演された『バード・バーダー・バーデスト』(作・演出:こんにち博士)はまさにそんなカンパニーの飛躍がグッと詰まった一作。登場人物、いや登場恐竜たちが通う高校の制服は劇団員みんなで考えたそう。肉食と草食とでデザインが異なっていたり、着こなし方に個性が宿ったりと装いのこだわりにも余念なし!
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青春の終焉と世界の終末が互いを乱反射する様に立ち上がっていって、その狭間から溢れる光は眩しく、"想像の翼"なんて言葉があるけれど、これこそまさに、という滑走をからだが、浮遊をこころが感じていました。誰も彼もが自分の空を飛ぼうとしていることに胸を打たれた。そのことを互いに信じることができたら私たちはきっと鳥に、もっと鳥に。そんな『バード・バーダー・バーデスト』は現在映像が配信中。観終わった後にここまでタイトルが刺さる、刺さっていつまでも抜けない作品も珍しいです!是非チェックしてみて下さいね。
TeXi’s『Oh so shake it!』
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劇場に入るや否や驚いたことに、スタッフさんが全員喪服。『Oh so shake it!』(作・演出:テヅカアヤノ)はなるほど、「お葬式」とかかっていたのかと膝を打ちました。「擬似的葬儀」をモチーフに3人の登場人物の生きる社会やその暗部や苦しみを掬い上げた演劇で、俳優の身体の躍動や心の騒めきを表象するかのようなプレイフルな衣裳も印象的。ダンスやファッションショーなどの要素を演劇に取り入れ、ジャンルレスな創作を続けるTeXi’sならではのアプローチを感じました。
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「生きる」という行為そのものが無化ないしは形骸化していくリアルに穴をあけ、wifiという光の中でギリギリ繋がる人たち。錯綜する情報の中にも、駅前の雑踏の中にも、誰かといるのに孤独な部屋の中にも、"わたし"はいるし、"あなた"もいる。だからこれはきっと、わたしやあなたを枠にはめたり、まとめようとする物や者との決別の為の葬列で、もう一度生まれる為のセレモニーなのだろう。だから、色とりどり着飾って、光る靴で装備して、shake it=手を振り/揺さぶるのだ。仮装と現実の狭間で、私はそう受け取りました。TeXi’sは12月に「男女二元論が生み出してしまっている加害性」について考える通年プロジェクト「ファジー」の最終作『yours』を上演予定。
やみ・あがりシアター『フィクショナル香港IBM』
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やみ・あがりシアターの笠浦静花さんが作・演出を仕掛ける、ネタバレ上等な仮想世界を存分に楽しめる一作!ありそうでない、なさそうである?!架空のSF映画『フィクショナル香港IBM』の世界を舞台に幾重にも広がっていく風景、新たなタイムループの手法で過去と未来を繋ぐ物語。これから初デートで観る映画の盛大なネタバレを言ってしまう男性、そのことに怒った女性。果たして二人は…というところから物語が始まるのですが、この演劇そのものが「結末を知っていても果たして楽しめるか」というチャレンジに果敢に挑む試みもあり、とっても刺激的な演劇でした(なんとチケット割引に観劇回数によって割引率が半額になるネタバレ割があるのです!)
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「これからのことをすべて知っていても、もう一度選んでくれますか?」
その言葉は、仮想の映画を飛び越えて、まるで目の前の演劇を、そして現実の人生をもを眼差しているよう。仮想世界を彩る舞台空間と誰にも負けない個性を持つユニークなキャラクターたち。ヒロインを務めた加藤睦望さんが着こなした真っ赤なドレスをはじめ、一人ひとりの唯一無二の存在感を劇中に彫刻するような美術や衣裳にさらに没入感が高まりました。やみ・あがりシアターは来年5月と10月に本公演を予定とのことです。必見!
カリンカ『エアスイミング』
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俳優・橘花梨さんが企画・プロデュースを行うソロプロジェクト、カリンカ。3月には初の海外戯曲で二人芝居となるシャーロット・ジョーンズの『エアスイミング』(演出:堀越涼)を小口ふみかさんと上演。CoRich舞台芸術まつり!2024春では最多クチコミ賞と演技賞も受賞しました。「触法精神障害者」として不当に収監された女性二人はバスルームの掃除の時だけ、拘束を解かれて言葉を交わすことができる。痛々しいほどに明るい二人のやりとりがやがてえも言われぬ緊迫や狂気へと繋がり、クライマックスでは二人の言葉と身体の力によって独特の磁場が生み出されていました。
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演出家と俳優でともに考え、選んだという衣裳。二人の身を包む真っ白なワンピースは彼女たちが動くたびに美しく翻るけれど、それもこのバスルームの中だけなのでしょう。その後拘束着に形が変わることを思うと、裾が踊るたびにぎゅっと胸が苦しくなりました。色のない透明の椅子や水槽の中の魚も登場人物たちの心象風景のようで、カーテンを使用した演出ではその透け感が現実と虚構のあわいを表しているようでもありました。ミニマルなシーンに充満する壮大な心のたたかいを繊細に見せる俳優の技量と舞台空間の可能性を眼差した演出。総合芸術である舞台の魅力を痛感する作品でした。今後の展開も楽しみ!
文学座『アラビアンナイト』
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5月に文学座アトリエにて上演された『アラビアンナイト』(原作:ドミニク・クック 演出:五戸真理枝)。ファミリーver上演回は未就学児無料、桟敷席&家族割アリというGWにうってつけの企画で、私も親子で観劇しました。愛する妻の裏切りをきっかけに心を病み、残虐な心を持ってしまった王様と、物語の名語り手である大臣の娘・シャハラザードが結婚し、千夜にものぼる物語で王の心を溶かしていく。そんな物語の抑揚を結末まで盛り立て続ける演出の工夫と俳優の技が素晴らしい作品でした。
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こちらまで楽しくなってしまうような衣裳や小道具、子どもの心を奪う演出が細部にわたっていくつも仕掛けられているだけでなく、大人が思わずうっとりするような演劇の魔法にも同時にかけられていく。そして、それはきっと、私たち観客のイマジネーションとの共作でもありました。「物語の力」だけじゃない、「物語を信じる力」によって一夜は千夜になったのだと。そして、それは演劇の魔法を信じることにも繋がっている気がする。そんなことを感じる景色の数々でした。文学座は10/28より本公演『摂』が紀伊國屋ホールで開幕。11月には尼崎ピッコロシアター大ホールでも上演されるので気になる方は是非チェックしてみて下さい!
範宙遊泳『心の声など聞こえるか』
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7月に上演された『心の声など聞こえるか』(作・演出:山本卓卓)は、本作をもって作家業へ専念を発表した山本さんが範宙遊泳で演出を手がける最後の作品でした。俳優の身体と声が水面に落とされた最初の雨のように波及し、やがて、見渡す風景を変えていく。それは私たちに向かって落とされているものでもあり、熱と水を十分に持っている自分の身体、その在処を改めて確かめるような時間でした。「この演劇信じられる」と思うことも「この作家や俳優信じられる」と思うこともあるけれど、「この演劇に、作家に、俳優に、観客じゃなく人間としての自分が信じられている」と思う経験は多くない。そんな演劇。
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劇中で登場人物がとびきりのおめかしをして選挙へ行く、というシーンがあります。そこを発端に繰り広げられていく祈りと切実のラスト。翼にも似た特別な一着を身に纏った妻の最後の表情をもうずっと忘れられずにいます。隣の人が信じていることを自分はどれだけ剥き身で受け取れるだろう。その声のままを受け取ることができるだろうか。それはとてもむずかしい。でも、信じたいし受け取りたい。喜びも哀しみも抱えたいくつもの風景を多分この先もずっと思い出す。信じる力が小さくなるたびにこの演劇に、この演劇を心の底から信じた自分に、その心の声の在処に何度も触れるのだと思います。山本卓卓さんは来年2月〜3月にKAATで上演予定の『愛と正義』で新作戯曲を発表、演出の益山貴司さんとのタッグにも期待が高まります!
ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』
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3月に上演された『船を待つ』(作・演出:矢内原美邦)。終わりを待っているようにも、始まりを待っているようにも見える人々を前に「待つ」という言葉、行為が含むあらゆることに思いを馳せる作品でした。岸辺から水辺を臨むように配置された客席と舞台も新しく、舞台の「長さ」がそのまま物語における時の「永さ」に接続しているような不思議な感覚に導かれ、目に見えぬ時空を掘り下げ、扱う戯曲ならではの演劇の魔法に感嘆。黒で統一された衣裳の布の重なりは、人々が背負い、抱えている何かの集積のようでもあり、布が揺れるたびにその行く先を追う様な気持ちで見つめていました。
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死んだ後と生まれる前、その二つはこんな風に船着き場のようになっているのかもしれない。対岸にいる人々を見つめ、自分もまた相手にとっては対岸であること、そこからこちらはどんな風にも見えているのだろうかと。そんな風にふと魂の行方についても考えを巡らせました。生と死のあわいにも夢と現の瀬戸際にも思える船着き場で、巡りあったり、あえなかったり、重なったり、重ならなかったり。おそらくは人の実体はない魂のような、精神のようなものが水辺で交錯してゆく様を3名の俳優の身体が豊かに伝えていました。
―番外編―
さて、ここからはさらに番外編をお届け!劇団を横断した企画や、魅惑のキービジュアル、こだわりを詰め込んだ動画配信など、上演だけじゃない、演劇に見る“ファッション”の魅力をご紹介します。
見るだけで高まる、画餅のキービジュアル
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毎回解禁が待ち遠しくて仕方ないのが、神谷圭介さんによるユニット画餅のキービジュアルです。クレジットをご覧いただいたら分かるように、まさにその道のプロ集結のブランドシーズンコレクション顔負けの作り込みっぷり!タイトルから立ち上げるカラフルポップな世界観と俳優さんの新たな魅力に毎回ドキッとしてしまいます。
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そんな画餅は9月に特別公演『ホテル・アムール』を上演したばかり。ナカゴーの演劇と鎌田順也さんの劇作にリスペクトを込めながら、画餅ならではの世界観でトリビュートした公演が好評を博しました。10/20からは本作のシアターシネマ(配信)もスタート。劇場で観逃した方はもちろん、一度観た方も新たに楽しめるこだわりの映像をぜひお楽しみ下さい!
注目の新プロジェクト、アーのシットコム
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大北栄人さん率いるアー(明日のアー)が新たに仕掛けているのがYouTubeでの動画配信「アーのシットコム」(不定期月曜配信)。2015年より演劇を通じて追い求めてきたシチュエーションコメディの本質を映像でも追求しようとスタートした肝入り企画です。衣裳はアーの公演でもお馴染みの7Aさんが中心となりアイデアを出しつつ、金井球さんをはじめとする俳優の皆さんも素敵な私服で応戦!ロケーションが固定されていることから、ぬいぐるみの色を合わせて作ったり、カラフルな色の服を散りばめたりと色彩にもこだわった映像に。思わずクスッと、ドカッと笑ってしまうコメディが気軽に楽しめるシリーズなので、お昼休憩や移動時間などにも是非覗いていただけたら!アー(明日のアー)は、10/24より本公演vol.10『整理と整頓と』が開幕します!お楽しみに!
“小劇場のファッションウィーク”に3つの注目カンパニーが集結!
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8月に上演されたMrs.fictionsが主催の『ミセスフィクションズのファッションウィーク』。「とびきりのオシャレをして、劇場に出かけよう」をキャッチコピーに、“ファッション”をテーマとした作品をMrs.fictions、日本のラジオ、なかないで、毒きのこちゃんのタイプの異なる3団体が1本ずつ上演した、言うなれば、ファッションショーケース演劇です。ちょっとこれも見てください、チケットにまでこんな粋な計らいが!
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明日のデートに着ていくお洋服を巡って様々な心が脳内会議を繰り広げるかわいらしいコメディで劇場内のモードをグッと温めた、なかないで、毒きのこちゃんの『ハオちゃんはデートです。』(作・演出:鳥皮ささみ)。ヒヤッとしたり、クスッとしたり、ホラーサスペンスともブラックコメディとも言える作風で舞台上に独特の湿度と磁場を生み出した日本のラジオの『浴室にて改』(作・演出:屋代秀樹)。そして、特撮好きの恋人とそんな彼に影響を受ける女性の物語を通じて、今と昔、変わりゆく時代と変わらないもの、その狭間で起きる心の葛藤や信念の行方を炙り出したMrs.fictionsの『およそ一兆度の恋人たちへ』(作・演出:中嶋康太)。1作40分強という短尺なのに、見応えが濃密で各々の劇作の力を堪能。グッズのイカしたオリジナルTシャツも購入。毎年開催してほしいくらい、楽しくて贅沢な企画でした!
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舞台衣裳コレクション2024!(丘田調べ)、いかがでしたか?
本連載ではこんな風にいろんな角度から舞台芸術の魅力をボーダレスに楽しく語っていけたらと思います!そして、最後になりましたが、実は私丘田もファッション誌でのキャリアスタートを活かして、昨年よりこんなお洋服貸し出しを個人的に細々とやっています。
演劇(や映画)関係の(知人や知人の知人くらいの)方へ〜🎀
— 丘田ミイ子 (@miikixnecomi) October 16, 2023
前々からやりたかった事の一つなのですが、衣裳やビジュアル撮影で派手なお洋服を探してる時、お貸ししますので是非お声がけ下さい🥺
私、演劇の事を書いてるライターではあるのですが、ファッション誌のリースがキャリアスタートだったり、 pic.twitter.com/LxbzJAF1N7
今年は映画やバンドのMVやヒミツミというカンパニーさんの『熊野/班女』という舞台作品にもお貸し出しをさせていただきました。愛するお洋服たちに日の目を浴びさせてあげることができ、とっても嬉しい!返却時の郵送料以外は無料ですので、派手なお洋服が必要な際にはお気軽にご相談下さいませ。それでは、今日も明日も秋も冬も大好きな服に袖を通して、めいいっぱいおしゃれしてHave a nice theater!!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』、『リンネル』、『Lala begin』などのファッション誌で主にカルチャーページを担当した後、出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動。近年は『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>の更新を機に劇評も執筆。主な寄稿媒体は各劇団HPをはじめ、『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』、演劇批評誌『紙背』など。また、小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、エッセイ『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)などがある。2023年、2024年とCoRich舞台芸術!まつり審査員を務める。
X(Twitter):https://twitter.com/miikixnecomi
note:https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627
連載「丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇のお話」
▼▽過去記事はこちらから▼▽
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