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文化の狭間で「演劇のことば」を見つけなおす【PR】
こんにちは。おちらしさんスタッフの水口です。
今日は面白いプロジェクト/映像作品に出会ったのでご紹介します。
KAAT神奈川芸術劇場で行われた「視覚言語でつくる演劇のことば『夢の男』」です。
ろう者と聴者の双方が企画段階からかかわって制作するプロジェクトと映像作品です。ろう者は、視覚言語である手話を第一言語として育っている人が多く、音声言語としての日本語と異なる文化・発想のもと創作がなされています。聴者とろう者、異なる文化をバックボーンに持つアーティストたちが協働することで、今まで体験したことのない演劇の映像作品となりました。同時に、異なる文化がかかわった時に「演劇」とはどんなものなのかを改めて発見し直せる作品でもあると感じました。
普段、舞台で「音」をどのくらい意識する?
わたしは、音に関しては結構敏感な方だと思います。
開演前の音楽に始まって、役者さんのセリフの発し方、劇場での観劇なら、他の来場者のすすり泣く音や笑い声、拍手、空調や換気機構の音、外から聞こえる電車/自動車の音など、色々な音と共に観劇しているなぁと思っています。
『夢の男』を鑑賞した際にまず感じた事が、「音のなさ」でした。
動画で視聴開始し、十数秒観たとき、違和感を感じました。先に挙げたような音が一切ないのです。最初は、イヤホンやデバイスの不調と誤解してしまいましたが、徐々に意図的に音声を入れていないのだと分かります。今回出演している俳優の今井彰人さんはろう者、大石将弘さんは聴者で、セリフは手話で行われます。大石さんのセリフなど一部では音声が追加されているものの、音楽や歩く音や装置を動かす音など、基本的には音声がありません。
シンプルな空間で俳優とテキストが浮かび上がる
また、『夢の男』では、音に限らず、様々な要素がかなりシンプルになっています。
衣裳は今井彰人さん・大石将弘さんともに白いバンドカラーシャツを身に纏い、装置も白い紗のカーテンが円形に内側と外側に設置されているのみ、照明もその周りは照らさず、やや青みがかっている程度の薄暗い空間となっています。
作品全体として、色彩とそれに伴う情報も極力加えずにつくられています。
聴者にとっても、ろう者にとっても、付帯情報になるような要素をなるべく排し、俳優と俳優が行う手話や動作に自然に注目して鑑賞できるようにもなっています。
(『夢の男』というタイトルとある通り抽象的な空間にしているとも取れますね)
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類似する作品に、太田省吾の代表作でセリフが一切ない「沈黙劇」、『水の駅』を思いつきましたが、この作品では、幕開けから最後まで絶えず水の流れており「音」があり続けるほか、俳優が身に付けている衣裳や荷物などから様々な想像が出来てしまうものなので、『夢の男』の特異性とはやはり違うな、と思いました。
昔、学生の頃に、演劇学の授業の際に聞いた話ですが、空間があり、一人の人間が何かしらの動作を行い、それを観る人がいる――、それだけで「演劇」は成立する。そのことを、改めて痛感する作品でした。
わたしは聴者で手話もほとんど分からないのですが、俳優同士で行われるやり取りや、ショットの移り変わりで、何が行われているのかが徐々に理解していけました。また、ろう者の方はこの作品を観た際、どのように感じるのか知りたいです。
ちなみに、「視覚言語でつくる演劇のことば」のプロジェクトはKAAT神奈川芸術劇場で2021年に始まったばかりのもの。現段階では、映像作品が2作となっていますが、個人的には今後、劇場での公演もあったら良いなと感じています。観客も聴者・ろう者がともに集って観劇したら、どんな舞台になるのか、とても興味が湧きます。
劇場公演が行われる前に、まずは、様々な人に観ていただきたい!!
無料でご覧いただけるので、是非、観てみてください。
視覚言語でつくる演劇のことば『夢の男』
プロジェクトの詳細はこちら
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