演劇ユニットせのび のこと|作・演出 村田青葉さんインタビュー
岩手県盛岡を拠点に活動する演劇ユニットせのび。
作・演出の村田青葉さんが、『かながわ短編演劇アワード2021 戯曲コンペティション』でグランプリを受賞。2023年には同時期に行われていた『若手演出家コンクール』『かながわ短編演劇アワード 演劇コンペティション』『せんがわ劇場演劇コンクール』の3つのコンテストに出場し、話題を集めた。
演劇ユニットせのびとは、一体どのような団体なのか。横浜にて『夏に冬は思い出せない』公演(2024年7月12日初日)を控える村田青葉さんに、お話を伺った。
村田青葉さんのこと
――村田さんは、いつから演劇を始めたんですか?
村田 演劇は大学に入学した2013年から始めました。体を動かすことも好きだったので、なにかスポーツでもやろうかなと思っていたんですけど、サークル紹介の日、演劇サークルの先輩たちが来たときに、「演劇か、あ、そういえば自分、演劇あるな」と。
――すでに村田さんの中に、演劇があった??
村田 母親の影響で映画や小説をよく見たり読んだりしていて、その中に、ヨーロッパ企画さんの舞台が原作の映画『サマータイムマシン・ブルース』があって、それにハマりまして。高校生になった頃、「これ、原作が舞台だったんだよな。あ、じゃあ、なんか原作の舞台見てみたいかも」と思って、オンライン通販でヨーロッパ企画さんのDVDを買いました。そのあとはコレクター癖も手伝って、買い集めて。なので高校の時は、演劇のDVDをたくさん持っているけど演劇はしていないみたいな、ちょっと謎な人でした。
そのことはすっかり忘れていたのですが、大学でサークルの紹介を見た時に、「演劇やれる場所あるじゃん!」と思って、演劇を始めました。
――大学ではどのように過ごされたのでしょうか?
村田 演劇を中心に考えていて、熱量はすごく高かったと思います。大学1年の冬には、演劇をやっている高校の大先輩のお手伝いで、東京に滞在する機会があったのですが、ただ行くだけではもったいないから、たくさんお芝居を見ようと思って。
最初は何を見たらいいのかわからなかったので、それこそヨーロッパ企画さんの劇団員さんが客演で出ているお芝居を見たり、ヨーロッパ企画さんのラジオで名前を聞いた劇団を見たりしているうちに、折り込みチラシでいろんな劇団さんのことも知って。その期間中に衝撃を受ける2つの舞台に出会いました。
――気になります。なんという作品だったのでしょうか?
村田 1つはスズナリで観た、流山児★事務所さんの『田園に死す』(演出:天野天街/2014年2~3月)です。熱量がとにかくすごくて圧倒されました。
もう1つは本多劇場で観た、M&Oplaysプロデュース『サニーサイドアップ』(作・演出:ノゾエ征爾/2014年2~3月)という作品で、これは今の演劇観にかなり影響があります。正直、観劇中は訳がわからないところも多かったんですけど、電車に乗って反芻したり、SNSでの感想を追ったりしていたら、突然、点と点だったシーンがピタっと繋がって、作品の膨らみを感じた時に鳥肌がたったんです。観劇中だけじゃなくて、観劇を反芻して感動するというか、日常に残るみたいなのはすごいことだな。これを自分も生み出したいなっていう風に思えたんです。僕にとって大きな2つの作品でした。
演劇ユニットせのびのこと
――何がきっかけで、演劇ユニットせのびを旗揚げされたのですか?
村田 サークルが3年生で引退するシステムだったのですが、まだ演劇続けたいなと思って、一緒にやっていた大学の同期や後輩を誘って団体を立ち上げました。2016年、僕が大学4年生の時です。
団体名の由来はその頃流行っていた「ありのまま」よりも、もっと常に上を目指したい、今の自分ができる1番高い位置まで伸ばしたいということで「せのび」です。あと、劇団じゃなくて演劇ユニットとしたのは、そこにいる人たちが自分のやりたいことを自由にやれる場にしたいなと思ったから。忘れてしまっている部分もあって、後付け的なところもあると思うのですが、そんな感じです。
――団体の方向性を決めるような作品があったら、教えてください。
村田 外部演出の作品になってしまうのですが、大きな転換点と言えるような作品があります。Cyg art galleryという、盛岡のギャラリーのプロデュース公演に演出として誘っていただき、小説家・歌人のくどうれいんさん、青年団の中村真生さん、ジャグラーの山村佑理さんなど、錚々たるメンバーの方々と一緒に作品を作るという機会があったのですが、そのとき、僕がほとんどパンクしかける状況になってしまったんです。
――何があったんですか?
村田 旗揚げのとき、トップダウンにならないようにしたいから演劇ユニットって言っていたのにも関わらず、結局これまでは脚本家がいて演出家がいて役者がいてっていう芝居の作り方しか知らず、いざ皆さんと作品を創るとなった時にどう作ったらいいのか、やり方がわからなくなってしまったんです。
――どう対応されたんでしょうか?
村田 出演されていた方々に、一緒に作るということを教えていただきました。「青葉くん今どんな感じ? じゃあこれでさ、シーン作っていってみようよ」「じゃあこれ、俺やれるよ」というようなことなんですが。
そのときに、誰かと一緒に作品を作っていくことの面白さ、自分だけじゃなくみんなのクリエイティビティがあって、ひとつの作品になっていくという作り方を体感して、創作の仕方を変えていくことができました。
――それが、今の作り方につながっている。
村田 そのとき感じた面白さと、今は違ってきているかもしれないのですが……。今感じている「みんなで作る面白さ」としては、記憶を題材にする際に、みんなにエピソードを出してもらったり、「こんな時、みなさんはどう感じますか」ということを問いかけたり、しています。役者さんだけじゃなくてスタッフさんも一緒に世界を広げて、それが1つになっていくという形に、面白みを感じています。
演劇ユニットせのびが、県外で作品を上演する理由
――せのびさんは、県外でも多く、作品を上演されていますね。
村田 「僕らが盛岡でやってる理由はなんだろう」と自問したときに、最終的には、盛岡に公演を見に来てもらえるような劇団になることだと思ったんです。わざわざ盛岡に見に来てもらうためには、まず知ってもらう必要がある。だから、もっと県外のフェスやコンクールとかにも出て、名前を知ってもらう必要があると判断しました。
――2023年は、若手演出家コンクール、かながわ短編演劇アワード、せんがわ劇場演劇コンクールと、関東圏での知名度もぐっと上がりました。
村田 何かしら通ればいいなと思って出したコンクールたちだったのですが、ありがたいことにすべて通過させていただきまして。
――結果、ものすごいスケジュールになっていましたね。
村田 大変でした。若手演出家コンクール(3月前半)とかながわ短編演劇アワード(3月後半)の期間が近すぎたので、最初は、若手演出家コンクールで使っていた部分を組み替えながら40分にして、かながわに持っていこうとしていたんです。だけど、勝てなかった作品のリクリエーションということでは、関わってくれる人たちのモチベーションも上がらないし、自分も、一から作り直さなきゃダメだと思って、3週間しか創作期間がなかったんですけど、脚本も一から作り直すことにしました。
――脚本からですか?!
村田 創作期間があまりにも短かったことと、強力な客演陣もいたということ、みんなで作っていかなきゃ間に合わないというのもあって、ばーっとみんなで素材出して、みんなで、これ面白い! やろう! あ、ここでこう繋がる、これでいい!! というような作り方をしました。
村田 そのあと、せんがわ劇場演劇コンクール(5月)までは一ヶ月半あったので、かながわでやった作り方で、時間をかけてやってみようと。せのびのメンバーみんなで素材、エピソードを出すところから作っていくことを真剣に取り組むことができました。仙川という町の土地の感じとか、せんがわ劇場演劇コンクールのコンセプトにも共感していたので、気合いを入れて作りました。
夏に冬は思い出せないのこと
――今回の作品のことを教えてください。
村田 友人と会話をしている中で、「冬のことを思い出せない」ということが発覚するのですが、その「冬を忘れてしまう症状」が蔓延していく世界のお話という導入を設けています。
村田 (せのびプロデューサーの)藤原慶さんが住んでる北上市で、市民劇の演出をやっているのですが、創作期間中は藤原さんの家に泊まり込むんです。家のあるところは豪雪地帯なので、例年、朝起きるとすごい雪、窓の外の高いところまであるのですが、今年ぱっと見たら雪が低い位置でびっくりしたんです。藤原さんには2人のお子さんがいるので、その2人が雪を見ているのを眺めた時に、この子たちが大人になる頃はどうなるのかなと思って。
村田 震災のことにフォーカスしたいという思いもありました。東日本大震災だけでなく、能登半島地震も、阪神淡路大震災なども含んでいます。
今年、雪が少なかったことから、もしこのまま雪の量が少なくなっていったら、とても寒かった雪、あの冬のことも忘れていってしまうかもしれないなと思った時に、上演する時期にはもう冬の寒さを感じられない、それは記憶というテーマにつながるし、『夏に冬のことは思い出せない』というところからは、『上演する時期には、3月にあったことを思い出せない』と、自然に流せていけるなと。
村田 記憶をテーマに作品を作り続けているんです。それは、小さい頃に感じた『忘れられたくない』という思いみたいなものが僕の根底にあって、震災とかがこう風化していくとか、大きなことだけではなくて、些細な出来事も忘れられてしまったらなくなってしまうということへの抵抗という感じで演劇をしているなと思っています。人がそこに生きていたということをデータや記録じゃなく、記憶で残していきたい。
――盛岡公演での反応はいかがでしたか?
村田 ラストで客席の重心が前に傾くような瞬間があったと、客席で観ていたスタッフの方に教えていただきました。舞台上でも、客席から感じる圧が強まってきているなっていうのは感じられて。思い描いているラストになるよう試行錯誤を繰り返してきたので安心しましたし、そのラストの集中力の高まりみたいなのは、自分の作った作品の中でも一番狙えているのかなと思っています。
――ありがとうございました。最後に、演劇ユニットせのびとはどんな団体か、言葉にしていただけないでしょうか。
村田 僕たちは、お客さんがほっとできること、お客さんに寄り添うということを大切にしています。見た後に、誰かに会いたくなるとか、誰かと話をしたくなるような作品を提供できる団体です。
見ていて、「ああよかった」って、その「作品がよかった」というよりは、なんか「生きてて」というか、自分の人生を肯定できるような、安心感をお渡ししたい。とくに盛岡では、演劇と関わりはないけど公演を見に来てくれる友人やお客さんが多いので、その方に良かったって思ってもらえるように。それが、できれば僕が「演劇って面白いな」とハマったのと同じように、「演劇という表現が面白い」ということも込みで。そんなことができればいいなと思っています。
インタビュー・文:成島秀和
公演情報
演劇ユニットせのび第12回公演『夏に冬は思い出せない』
作・演出 村田青葉
出演 石橋奈那子、大和田優羽、佐々木玲奈、髙橋響子、新沼温斗、村田青葉
盛岡、横浜の2都市ツアー!
<盛岡> 盛岡劇場タウンホール
6/22(土) 14:00 / 19:00
6/23(日) 11:00 / 15:00
<横浜> @神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI
7/12(金) 14:00 / 19:30
7/13(土) 11:00 / 15:00 / 19:30
7/14(日) 11:00 / 15:00
7/15(月) 11:00
※受付・開場は開演30分前
※上演予定時間約90分
チケット
一般 3,000円 / 25歳以下 1,500円 / 高校生以下 500円
オンライン配信 1,500円
※一般、25歳以下の当日料金は+500円
予約 https://lit.link/engekisenobi
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