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わたしに眠る”原風景”を求めて|「ノスタルジア─記憶のなかの景色」上野アーティストプロジェクト2024

11月16日(土)より東京都美術館で開催されている、上野アーティストプロジェクト2024「ノスタルジア─記憶のなかの景色」展。

ギリシャ語で「故郷へと帰りたいがけっして戻れない心の痛み」という言葉に由来する「ノスタルジア(郷愁)」をテーマに、切なさや懐かしさを孕んだ複合的な感情を探っていく企画展です。異なる時代や土地に育ち、人生を歩んできた8名の作家たちから見えてくる「ノスタルジア」とは何なのか? 開幕直前に行われた内覧会にお邪魔し、その魅力をレポートします!!


上野アーティストプロジェクト2024
ノスタルジア─記憶のなかの景色

第1章 街と風景

第1章では「街と風景」をテーマに、2名の作家の作品が紹介されます。

お一人目は、阿部達也さん。阿部さんが描くのは、どこか懐かしく親しみのある日常の風景画です。作者の気持ちを乗せて描く情景画とは異なり、「写真で撮った風景をそのままに描く」というスタイルで活動されています。

阿部達也さんの展示風景

元々は人物画を描いていた阿部さんが風景画を描き始めたのは、2011年の東日本大震災の前後から。元となる写真が撮られたその時間の太陽の傾き、温度、湿度など、さまざまな条件が交差したその瞬間の景色が閉じ込められたかのような描写が印象的です。普段、当たり前に見ている景色の中にも、愛着や寂しさを呼び覚ます郷愁のスイッチが眠っているように感じられます。

阿部達也《手賀沼 東端(千葉県柏市)》(2016)

お二人目は、リトグラフによる版画を制作されている南澤愛美さん。1999年生まれの本展では最年少となる作家です。今回展示されている10点のうち、6点は「釣り堀」の風景が描かれています。大学時代の南澤さんは、老若男女さまざまな人が同じ場所で同じ行動をし、時間を共有している釣り堀の面白さに惹かれたそう。反射する景色を映し出しながらも、ゆるゆると独自の文様を描く水面の描写が見どころです。

南澤愛美《うらうら》(2021)

ところがよく見ると、釣りをしているのは人間ではなく、二足歩行で服を着た動物たち……!? 彼らや水や光、空気が自然に溶け込み合うような作風は本展に向けて直近で制作された、釣り堀以外がモチーフとなる作品でも共通して味わえるポイントです。日常と非日常が混ざり合った風景は、ファンタジックだけれどどこかホッとするような懐かしさを覚えます。

南澤愛美《ひと廻り》(2024)

いつもの景色や、知っている景色にこそ「ノスタルジア」がある。お二人の作品には、そんな切なさも含まれています。

第2章 子ども

第2章は「子ども」をテーマに、2名の作家の作品を見てみましょう。

まずは、芝康弘さん。光に溢れ、霞のかかったようなほわっと柔らかな印象が特徴の作品たちです。リアルな描写ながら陽光の中にいる子どもたちの様子は、どこか夢のなかで見ている光景にも思えてきますよね。

芝康弘《陽だまりの中で》(2022)

絵のモデルとなっているのは、ご自身のお子さんや、訪れた保育園の園児など、2000年代以降に生きる子どもたち。しかし年齢を問わず、自分や身近な誰かの子ども時代を思う、温かく優しい気持ちを不思議と覚えてしまうのではないでしょうか。

芝康弘《彼方》(2005)

もうお一方は、宮いつきさん。芝さんと同様に、宮さんの作品もご自身のお子さんがモデルです。といっても、「子育てをしていると見ているものが子どもたちしかなく、やむを得ず描いていたという感じで……(笑)」とのこと。実際にどこかへ行った際の思い出などから描かれているため、非常に懐かしく、ときには自分自身の子ども時代が重なる部分もあるそうです。

宮いつき《双子座》(1999)

芝さん、宮さんの描く子どもたちからは、時の流れに関わらず、自分や誰かを重ね合わせ感情が呼び覚まされる「ノスタルジア」の一面が強く感じられます。

宮いつきさんの作品展示風景

第3章 道

第3章は「道」をテーマに、4名の作家の作品が展示されています。

まずは、入江一子さん。入江さんは日本統治時代の朝鮮に生まれ、その後も異国の景色を描いた作家です。53歳からはシルクロードを旅しながら制作をされており、中国・嫩江で見た朝焼けと、トルコ・イスタンブールで見た朝焼けを重ね合わせて描いた《イスタンブールの朝焼け》が代表作となりました。

入江一子《イスタンブールの朝焼け》(1975)

次にご紹介するのは、玉虫良次さん。本展で最も大規模なパノラマ作品《epoch》を出展されています。少年時代を過ごした高度経済成長期をモチーフに、幻想の世界が描かれている本作は、展示の企画を行った東京都美術館・学芸員の山村仁志さんにとっても「同世代の懐かしさ」を感じられる作品だそう。時間をかけて横に横にと繋げられてきた本作が、一面パノラマで観られるのは本展が初めてです……!!

玉虫良次《epoch》(部分)(2019-23)
玉虫良次《epoch》(2019-23)

続いては、近藤オリガさん。ベラルーシのご出身で、現在は名古屋を拠点に活動されている画家です。ご自身のお子さんや愛犬のほか、卵、レモン、ひまわり、山岳といった愛着のあるモチーフが乳白色のとろけるような色合いで描かれています。近藤さんのイメージを通して、寒さの厳しいベラルーシの気候や光の差し方など、その土地での「見え方」を追体験しているように味わえる作品です。トリックアートのような構図もじっくりと楽しめます。

近藤オリガ《友》(2018)
近藤オリガ《月下のレモン》(2022)

最後にご紹介するのは、久野和洋さん。長年画家として活動されたのち、48歳のときに、イタリアでローマ以前に栄えたエトルリア文明の古代遺跡がある土地・タルクーイニアと運命的な出会いを果たします。久野さんに懐かしさをもたらしたタルクーイニアの風景は、《地の風景》というタイトルでいくつもの作品として描かれました。

久野和洋《地の風景・刻刻》(2004-05)

故郷の原風景とともに、たとえ初めて出会った土地であっても、「ノスタルジア」を感じられる。作品の制作を通して、自分の求める風景や記憶を掘り起こし、新たに実現していくことも「ノスタルジア」の一部なのではないでしょうか。

第3章が展示されているギャラリーAでは、中央に畳敷きのリラックススペースが用意されています。こちらに座ってくつろぎ、遠くから作品を眺めることで、あなたの奥底に眠っていたキュッと心が動き出す想いも新しく発見できるかもしれません。

久野和洋さんの作品展示風景

コレクション展「懐かしさの系譜─大正から現代まで 東京都コレクションより」

中原實《ノスタルジア》(1924-25)

さらにお隣のギャラリーBでは、東京都が所蔵し、東京都歴史文化財団が管理する豊富なコレクションによる展示「懐かしさの系譜─大正から現代まで 東京都コレクションより」も行われています。江戸時代から大正・昭和前期、戦後、高度経済成長期など、懐かしい東京の風景や文化を辿ることができますよ。なんと《ノスタルジア》と題された、中原實さんの謎めく作品も展示されています。ご自身とリンクする「ノスタルジア」を探してみたい方は、こちらもぜひあわせてご覧ください!

ヘッダー写真/入江一子さん作品展示風景
文/清水美里(おちらしさんスタッフ)

上野アーティストプロジェクト2024
ノスタルジア─記憶のなかの景色


会期:2024年11月16日(土)~2025年1月8日(水)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
主催:東京都美術館
観覧料:当日券 一般 500円 / 65歳以上 300円 / 学生以下無料

※同時期開催の特別展「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」のチケット提示で入場無料となります。

〈関連プログラム〉
●アーティストトーク 作家が語るノスタルジア
①阿部達也・玉虫良次
2024年11月23日(土・祝)14:00〜15:30
②芝康弘・宮いつき
2024年12月1日(日)14:00〜15:30
③南澤愛美・近藤オリガ
2024年12月7日(土)14:00〜15:30

●担当学芸員によるレクチャー「ノスタルジアと作家たち」
2024年12月14日(土)14:00〜15:30
講師:山村仁志(東京都美術館学芸員)

●【事前申込制】ダンス・ウェル
①2024年12月8日(日)14:00~15:30
講師:酒井直之(ダンサー、映像作家、ダンス・ウェル講師)
アシスタント:長澤あゆみ(ダンス・アーティスト、「いまここダンス」共同主宰、ダンス・ウェル講師)、市川まや(振付家、Kyoto Dance Exchange主宰、「いまここダンス」共同主宰)
②2025年1月4日(土)14:00~15:30
講師:東野祥子(振付家、演出家、ダンサー、ANTIBODIES Collective代表、ダンス・ウェル講師)
アシスタント:白神ももこ(振付家、演出家、「モモンガ・コンプレックス」主宰、ダンス・ウェル講師)、長澤あゆみ(ダンス・アーティスト、「いまここダンス」共同主宰、ダンス・ウェル講師)

[同時開催]
コレクション展
「懐かしさの系譜─大正から現代まで 東京都コレクションより」

会期:2024年11月16日(土)~2025年1月8日(水)
会場:東京都美術館 ギャラリーB
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
観覧料:無料

※2024年12月21日(土)~2025年1月3日(金)は、整備休館・年末年始休館ですのでご注意ください。

▽これまでの東京都美術館レポート記事はこちら▽


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