UFOに吸い込まれるような体験を|モヘ組/中野坂上デーモンズ・松森モヘーさんインタビュー
小劇場界で、唯一無二の混沌世界を舞台上で表現し続け、若手演出家からの支持も厚い松森モヘーさん。今回は、主催するモヘ組の次回作・12月上演『にんじゃすらいむ』について伺うとともに、謎に包まれたモヘ―さんの演劇歴のお話も、お聞かせいただきました!
――モヘーさんと演劇との出会いを教えてください。
高校の行事からです。体育祭と文化祭が一緒になった一大イベントのメインに、1年生から3年生までで1つのチームを作って7団体で競い合うという演劇コンテストがあって。3年生になったときに、僕が作・演出をしたというのがはじまりです。
――いきなり、作・演出からはじまったんですか?
小学生の頃から、絵を描いたり、お話を考えたり、漫画を書いたりということをやっていて、作品をつくるということが好きだったというのはあります。雑誌『小学〇年生』の「みんなで考えた夢の給食を投稿しよう!」みたいな投稿コーナーにも自分のアイデアを送って、たまに選ばれていました。
――それはすごい。
ところが、当時大流行したとあるテレビドラマの影響でグロテスクなものやアングラなものを好むようになり、小学校4年生の頃には『地獄の給食事件』を起こしてしまい、そういった創作活動から一度離れてしまうのですが……。
――地獄の給食事件?!!
投稿ハガキに「地獄の給食」というタイトルでグロテスクな血みどろの給食を描いて机の上に置いていたら、親が見つけてしまったんです。父と母が別々に僕のところに来て、怒るわけではなく「最近どうなんだ?」という話をされるという出来事がありました。
両親にそういう心配をさせてしまったことで、「こういうのってやっちゃダメなんだ」「考えちゃダメだし、やっぱり良くないことなんだ」「グロテスクな表現やアングラなことからは離れないといけない。爽やかな方向に行かないといけない」という気持ちになり、中学、高校では陸上部に入って運動していました。
――モヘーさんに影響を与えたドラマのことを教えていただけますか?
ドラマ版『金田一少年の事件簿』です。怪人だったり、殺人事件だったりが出てきて。堤幸彦監督の初期の頃の独特な撮影方法や演出や音楽のセンスが、全部かっこよく見えていました。堤監督つながりで『池袋ウエストゲートパーク』にもハマり、宮藤官九郎さんって方がいるんだ、大人計画に所属されているんだ、演劇ってすごいらしいぞ、と興味が湧いた流れだったような気がします。
――ありがとうございます。高校での演劇コンテストは、小学校以来の創作活動だったのですね。そのあとに演劇活動を?
いえ。沖縄になんとなく行ってみたかったのと、当時、沖縄がブームだったこともあって、沖縄の大学に進学してレゲエをしていました。音楽をメインにみんなで遊んだ期間だったのですが、大学2年生のクリスマスイブに頭がパンクしてしまい。それ以降、音楽をやったり、クラブでみんなと遊んだりすることができなくなってしまいまして……。
そのときから少しずつ、本を読んだり映画を観たりということを再開しました。本や映画から、小学校時代のグロテスクなものが大好きだった自分がよみがえってきて、アングラカルチャーに気持ちが戻っていきました。
また文化祭の話になるのですが、大学4年生の文化祭で何かやりたいなと思ったときに「演劇だったら昔やったことがあるし、自分で脚本書いて人を集めたらできるな」と思い立ち、勝手に本書いて、普段だったら絶対演劇をやらなさそうなちょっとクセのある人たちを集めて、公演をやりました。ものすごくバタバタだったのですが、それも含めてとても楽しかったんです。それで卒業したら就職せずに東京で演劇をやろうと思って、「ENBUゼミナール」という演劇の専門学校に入りました。
――いよいよ本格的に演劇活動がはじまりました。
ENBUゼミナールでは、「劇団はえぎわ」主宰のノゾエ征爾さんのクラスに入って、卒業公演ではノゾエさんに監修していただきながら作・演出もしました。その後、劇団でもしばらくお手伝いをさせていただきました。演劇のつくりかたを、ノゾエ征爾さんから身をもって教えていただいたことは、私にとって大きな演劇の転機だと思っています。
――その頃のモヘ―さんは、どんな作風だったのですか?
暗くてかっこいいことをやっている人たちが売れているのかなと感じていたので、自分の作風としても、えぐいことをやらないといけないと思いながら作品をつくっていました。自分は出るときは裸になったり、ギャーって叫んでみたり、ずっと暴れていました。そういう時代が結構長く続いたかなと思います。
――そこから、今の作風への変遷を教えてください。
ENBUゼミナールに通っているときに、講師の方から「本当に面白い作品がある」と『月光のつゝしみ』という戯曲を教えていただいて、そこで初めて劇作家であり、演出家である岩松了さんを知ることになります。
この作品を知りながらも、基本的にはやっぱりえげつないことをやりたくて続けていたのですが、だんだんとそういう表現に対して、自分自身で違うなと思い始め、世間的にもやるべきではないとなってきたときに、興味の方向が一気に岩松さんの考えている芝居の面白さに向いて。「演劇ってなんだろう」「演劇ってどういうことだろう」「演劇って何が面白いのだろう」という方向に頭の中がシフトしていったような気がします。
大きな転機となるできごとがあったわけではないのですが、じわじわと「演劇とは?」という疑問を考える時間の方が増えていった感じです。2023年からは、彩の国さいたま芸術劇場の劇作家養成プログラム「岩松了劇作塾」に通って、岩松さんから直接学ぶこともできました。
――岩松了さんの作品に、どのような面白さを感じられていたのでしょうか?
戯曲としての完成度が高く、読み物として成立していることもすごいと思っているのですが、上演された作品を観たときに「こんなもの観たことない」という気持ちになったんです。
現代劇なのに現代劇っぽくもないし、人間と人間がしゃべっているだけなのに信じられないぐらいスリリング。戯曲から立体にしたときに、言葉と言葉の間にある「書かれていない部分」がくっきりと立ち上がってくる。それまでは戯曲に書かれたものを立ち上げるような舞台や、セリフが自分に飛んでくるようなものを追いかけていたような気がするのですが、岩松さんの舞台は書かれてないものの存在感を面白く感じたり怖く感じたりしたんです。その衝撃がすごかった。
――モヘ―さんには、「中野坂上デーモンズ」と「モヘ組」というふたつの活動名がありますよね。それぞれの活動での方向性がありましたら、教えてください。
自分の中で面白いと思う演劇を、真逆にふたつ持っていたいと思っています。
中野坂上デーモンズでは、作劇の集大成として、岩松了さんから教えていただいたことをより自分のものにしていく。今、自分が考える一番おもしろい演劇の形である、人間と人間を描く芝居を作っていきたい。そのために、しっかり時間をかけて準備をして緻密に作り上げていきます。
一方で、モヘ組ではその対極にあるものを作っていきたい。「こっちの方が絶対面白いよね、今面白いものってこれだよね」という作品を考えたい。場当たり的とまでは言わないのですが、差し迫った中で、みんなでああだこうだやりながらできる面白いものは絶対にあると思うので。つくりかたの段階から「演劇ってなんだろう」と考えていきます。
――SNSの使い方や、ビジュアル面でも、かなりおもしろいことをされていると思っています。チラシなど宣伝美術をはじめ、宣伝・広報についての考え方もぜひ教えてください。
宣伝美術のビジュアルと、劇場で観劇したときの落差が生まれないようにしようと考えている気がします。オシャレすぎないようにするとか。たとえばキレイな海が写っている映画のチラシを見て、映画館で観たときにも撮影場所がキレイな海だったら腑に落ちる気がするのですが、演劇の場合、オシャレなチラシを見て劇場に来てみたら、ブラックボックスでの上演ということも多いですよね。
だから自分としては、チラシに「いいダサさ」みたいな要素を残すようにしています。卑下するわけではなく、演劇のかっこ悪い部分やダサい部分を残しながらチラシをつくったり情報を出したりする。でも、ダサすぎても良くない。あくまで「これは演劇なんだよ、手作りなんだよ」という感覚をなるべく残すようにしています。
――12月に上演されるモヘ組の最新作『にんじゃすらいむ』は、どのような作品になりそうでしょうか?
いくつかのキーワードがあります。
まずは「カオスからの脱却」。カオスなものから自分がどう脱却させられるんだろうということに挑戦しています。今、世の中がすごいカオスじゃないですか。自分の作風として、カオスなものを作るのは得意としてきたという自負はあるので、どうしたらこのカオスをおさめられるのだろうと考えていて。
次に、「モヘーの半生を振り返る、自伝的オルタナティブ回顧録」。最近、人が自分の人生のことを話しているのは面白いなと思うことが多いので、自分のこれまでの半生を書くことにチャレンジしてみたいです。
そして「狂った絵本」。今回、千歳烏山にある小さなスタジオで公演をするんです。30人も入れば満席というような、すごく狭いけど、清潔感のあるガランとした、なんでもできそうな雰囲気の空間。そこに、大劇場でも公演ができるような技術スタッフの方々をフルメンバー揃えて乗り込みます。狭いのにバキバキなものをやりたい。音と光がお客さんを包みこんでUFOに吸い込まれるような、観るというより体験するような作品にしたいと思っています。
――最後に、このインタビューを読んでくれた方へメッセージをお願いします。
これまでの中野坂上デーモンズのぐちゃぐちゃを好きだった人にはきっと楽しんでもらえると思うし、最近、僕のことを知ってくれた人にも、そういうぐちゃぐちゃっとしたものを楽しんでもらえるようにしようと思います。今のところ、来年は中野坂上デーモンズ・モヘ組名義での公演は予定していないので、ぜひ『にんじゃすらいむ』を観に来てください。お待ちしています!
インタビュー・文:成島秀和、清水美里
取材日:11月21日
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