![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/149340349/rectangle_large_type_2_acc682c1278268b6923b6e92d55d6548.jpeg?width=1200)
自然の存在を思い出す心地よいひとときを――東京都美術館「大地に耳をすます 気配と手ざわり」
土を触る、野生の虫や動物を追いかける、草をじっくり見てみる……。子どものころの夏休みを振り返ってみると、きっと今よりも身近だったはずの自然との触れ合い。最近はいかがですか?
7月20日より東京都美術館にて行われている、「大地に耳をすます 気配と手ざわり」展。こちらでは、自然と深く関わり作品制作を続けている5名の作家が紹介されています。上野の美術館に居ながら、地球に欠かせない雄大な自然を感じ取り、改めてその存在を思い出させてくれるような企画展です。
![](https://assets.st-note.com/img/1722833317651-r5m60abezA.jpg?width=1200)
彼らはどんな環境に身を置き、大地の声を聴き続けているのか。5名それぞれの制作スタイルを通して生まれてくる自然の気配、そして手触りをたっぷりと感じられる本展の魅力をご紹介します!
川村喜一:知床への移住・生命の循環
まず最初に出迎えてくれるのは、川村喜一さんのインスタレーションです。川村さんは東京で生まれ育ち、2017年より「自然と表現、生命と生活」を学び直すため、北海道・知床半島へ移住されました。山に暮らす「生活者」としての視点で、アイヌ犬・ウパシやご家族との日常、知床の自然を映し出す作品を発表されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1722569437238-gr17Bj3DhP.jpg?width=1200)
生態系の一員として、ヒグマやシャチも生息する世界有数の豊かな自然環境で生きることの厳しさ。季節を経ていく風景や動植物とともに過ごす、命の温かさ。
![](https://assets.st-note.com/img/1722571205425-i8Xg1Gx6dx.jpg?width=1200)
布や折りたたみできる木製の額縁、キャンプ用のロープなどを組み合わせつくられた作品の中を辿る時間は、どんなことも包み込んでくれる知床の大地に身を委ねているようです。写真と写真を重ねて映し出される、美しい景色をぜひじっくりと体感してみてください。
![](https://assets.st-note.com/img/1722571334186-Gj5ubnUPJE.jpg?width=1200)
ふるさかはるか:自然とともに作る木版画
続いては木版画をメインに活動されている、ふるさかはるかさんの展示です。フィンランドやノルウェーで出会った北欧の先住民・サーミの人々の生き方に感銘を受け、自然と協調する制作スタイルを築いてきました。
![](https://assets.st-note.com/img/1722572843753-jT4yiTzkZc.jpg?width=1200)
写真奥:ふるさかはるか《泉と傷》(2024)
自然由来の素材を使うだけでなく、土や漆の樹液の採取、藍の栽培から始める絵の具作り、木目や傷を生かした版木作りなど、素材と向き合いと対話するひとつひとつの手しごとを大切にされています。
![](https://assets.st-note.com/img/1722573029592-OAuIq2HHo6.jpg?width=1200)
土や植物が本来持ち合わせている繊細な美しさが、ふるさかさんの手によって浮かび上がる様ははっとすること間違いなし。目を凝らせば凝らすほど、その神秘に魅せられていくようです。会場では制作風景の映像「『ことづての声/ソマの舟』をめぐる制作の記録」(2023-24)や、会期中も少しずつ沈殿が進んでいる藍から抽出した顔料など、自然を素材に制作する過程も目で見て味わうことができます。
![](https://assets.st-note.com/img/1722573423304-RyeVcrlR1C.jpg?width=1200)
ミロコマチコ:奄美大島の環境を感じ取るままに
北の大地を感じる作品たちから一転、下階のフロアで待つのは奄美大島に暮らすミロコマチコさんの作品です。川村さんと同じく移住者であるミロコさんは、自分を取り巻く環境から様々なものを受け取って描くライブペインティングなどを制作されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1722594979128-6cLiAHDqGg.jpg?width=1200)
大きなカンバスいっぱいに描かれる、躍動感あふれる鮮やかな絵の数々。生きものたちのざわめきや、風、光、においなど、ミロコさんが全身で受け止められた一瞬一瞬が刻まれているんです…! 写真でも伝わりますでしょうか!?
![](https://assets.st-note.com/img/1722595087136-S3PylBiBW8.jpg?width=1200)
本展のために新しく制作された《島》では、奄美大島の泥染めが取り入れられています。こちらも外側の絵を見て回ったり、中に入って360度をミロコさんの絵や立体作品に囲まれてみたりと、自由に歩いて奄美の息吹を体験できる作品です!
![](https://assets.st-note.com/img/1722597025050-d8Aedn28la.jpg?width=1200)
倉科光子:震災後の植物の変化を追う
次の部屋で待つのは、植生の様子がリアルに描写された水彩の植物画。倉科光子さんの作品です。
![](https://assets.st-note.com/img/1722598189397-2zArv4vPAs.jpg?width=1200)
津波の1年前 春
多種多様な植物がひしめく土手
植物には必ずそこに生える理由があり
小さな草はいつでも芽を出すタイミングを見計らっている
神奈川県川崎市 2010年4月22日
作品のタイトルを見ると、緯度経度が名前として付けられていることがお分かりでしょうか? 倉科さんは2001年から植物画を描き始め、2013年からは東日本大震災で被災した岩手県、宮城県、福島県などに足を運び、「tsunami plants」というシリーズとして変化を記録しつづけています。そのため、描かれた植物がどこで生きていたのか、確かな位置が重要になるのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1722600023053-gGkOHtzwuj.jpg?width=1200)
津波から5年後 夏
津波は田んぼの土を掘り返した
数十年泥に眠っていたミズアオイのタネは目覚め
稲作で駆除されてきた植物とともに繁茂した
福島県南相馬市 2016年8月20日
昨年より制作されている作品(下の写真)では、地面に広がり続ける珍しいフジの花が……! 自然災害により大きく環境が変わっても、それに適応して生き続ける植物たち。小さくも力強い声に耳を傾ける倉科さんの活動は、これからも続いていきます。各作品につけられたキャプションにもあわせてご注目ください。
![](https://assets.st-note.com/img/1722600037915-5VmmwWX74y.jpg?width=1200)
写真左:倉科光子《38°13'09"N 140°59'03"E》(2023-)
津波から5年後 初夏
*豊さんは、さら地になった住宅街で白いフジの花を見つけた
フジは巻きつくものを探して、根を張り広がり続け
命が吹き出すように花を咲かせた
宮城県仙台市 2016年5月1日
*豊さん 震災後、荒浜の写真を撮り続けている「海辺の図書館」専属カメラマン
榎本裕一:根室の静かな冬
展示の最後を飾るのは、2018年より北海道根室市にアトリエを構えられた榎本裕一さんです。東京、新潟と3拠点で活動されており、本展では榎本さんが魅せられたという冬景色を捉えた作品が展示されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1722601485302-hgx62ys4q9.jpg?width=1200)
写真右:榎本裕一《沼と木立》(2022-24)
例えば上の写真右にある、油彩画《沼と木立》。一見すると、黒と白が半分ずつ塗られただけのようですが、間近で目を凝らすと黒の部分に木々が見えてきます。実は暗い森と、真っ白な雪の積もった沼面の体験をもとに描かれた作品でした!
![](https://assets.st-note.com/img/1722602285267-fKT5Omq6w9.jpg?width=1200)
続いても、黒と白のコントラストが美しい《結氷》。10点に渡る作品では、海風で雪が飛ばされた様子が写され、雪と地面の比率などでまったく異なる表情を見せてくれます。写真が印刷されたがっちりと分厚いアルミパネルも、まさに氷のよう。作品の側面からも、冷たく静かな根室の冬が想起させられる見どころです。
![](https://assets.st-note.com/img/1722602336843-5t1zVTA0kg.jpg?width=1200)
5名の作家が自然の中に入り込み、誠実な対話を重ねながら作られてきた作品たち。心地のよい鑑賞の時間を過ごしたあとは、私たちの周りにある自然の声を今よりももう一歩近くで感じ、きっと耳を澄ませたくなるはずです。夏休みの一幕に、そんなひとときもいかがでしょうか?
ヘッダー写真/川村喜一《We were here.》(2024)
文/清水美里(おちらしさんスタッフ)
「大地に耳をすます 気配と手ざわり」
会期:2024年7月20日(土)~10月9日(水)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館
\サマーナイトミュージアム割引/
8月30日(金)まで、毎週金曜日に実施中!
17時以降の入場で学生無料、一般及び65歳以上は各料金より200円引き(※要証明)
〈関連プログラム〉
●トークイベント 漆・藍・土 自然と「ともに」つくる木版画
8月24日(土)10:30~12:00
講師:ふるさかはるか
聞き手:大橋菜都子(東京都美術館 本展担当学芸員)
※事前申込制(先着順で定員に達し次第申込締切)
※聴講無料
※手話通訳あり
●キッズ+U18デー(観覧無料日)
8月26日(月) 10:00~15:00(入室は14:30まで)
対象:高校3年生以下とその保護者
・小学校3年生以下は保護者同伴での入室をお願いします。
・大人(大学生以上)のみでの入室はできません。
●トークイベント 倉科光子 × 平吹喜彦
8月31日(土)14:00~15:30
講師:倉科光子、平吹喜彦(東北学院大学地域総合学部地域コミュニティ学科 教授)
※当日13:00より受付開始、定員になり次第受付終了。
※聴講無料
※手話通訳あり
●ダイアローグ・ナイトwithとびラー
①8月30日(金)18:45~19:15
②9月6日(金)18:45~19:15
③9月13日(金)18:45~19:15 ※手話通訳あり
対象:中学生以上
※事前申込制(先着順で定員に達し次第申込締切)
※参加費無料(要観覧券)
●ダイアローグ・デイwithとびラー
①9月4日(水)11:15~11:45※手話通訳あり
②9月11日(水)11:15~11:45
対象:どなたでも
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
定員:各回15名程度
※事前申込制(先着順で定員に達し次第申込締切)
※参加費無料(要観覧券)
●トークイベント 川村喜一に聞く 知床の暮らしと制作
9月22日(日)14:00~15:30
講師:川村喜一
聞き手:大橋菜都子(東京都美術館 本展担当学芸員)
※事前申込制(先着順で定員に達し次第申込締切)
※聴講無料
※手話通訳あり
▽これまでの東京都美術館レポート記事はこちら▽
▽美術展のチラシが、無料でご自宅に届きます!▽
いいなと思ったら応援しよう!
![おちらしさんWEB(ネビュラエンタープライズ)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/36564288/profile_90d56d3124954c0fa7f80a023c6bb8d4.png?width=600&crop=1:1,smart)