MSPラボ公演『新ハムレット』本番!
ネビュラエンタープライズ・おちらしさんスタッフの福永です。
U25世代に向けて、舞台芸術に関する情報を発信する「ユニコ・プロジェクト(通称:ユニコ)」。
ユニコでは昨年に引き続き、今年も「明治大学シェイクスピアプロジェクト(MSP)」にしっかり密着させていただくことになりました!
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今回は、本年度MSP全体の一番手、ラボ公演『新ハムレット』の初日にお邪魔してきました。
9月8日。この日、東京は台風の影響で朝から大雨。会場である猿楽町のアートスタジオに開演の数時間前に伺い、本番を控えて大忙しの様子をレポートしようかと思いきや、思っていたよりも皆さん余裕のある落ち着いた様子。さすがは3、4年生のベテランが多い座組だと感じました。
舞台は、フラットな面をセンターステージとし、それを囲む客席が少し高くなっているスタイル。昨年と同じ会場の使い方ではありましたが、上物や床面の装飾や、固定の置き道具で、しっかりと『新ハムレット』の世界を作り上げていました。
伺った時間はちょうど、キャストさんたちとスタッフさんがきっかけの最終調整をしている時間で、カーテンコールの曲と照明のタイミングを入念に合わせているところでした。
前の日にゲネを済ませており、その出来がとてもよかったようで、皆さんいい表情で、「早く本番で、お客様に見せたい!」という気持ちが高まっているようにも見えました。
全体のタイムテーブルでは、この後の時間は「避難訓練」。プロデューサーの宮嵜明理さんに詳細を聞いてみると、制作部と舞台監督チームからの提案で今年から初めて時間を取ったとのことでした。何かあった際にどのようにお客様を誘導するか、それ以前に芝居を続行するかどうかの判断基準をどこに置くのか、しっかりと全体と共有したい、というところからのアイディアだそう。
本来であれば実際にどこかのシーンを動かして、避難誘導までを実践してみる予定だったそうなのですが、台風で外が大雨だったり、たっぷりと時間がなかったりしたことから、そこまでは試してみることができませんでした。
しかしその代わりに、例えば地震の場合、火災の場合、機材トラブルがあった場合などに、各セクションがどう動くかを全員で話し合う時間が設けられていました。
基本的には学生である舞台監督チームと演出部で考えた案を発表していたのですが、同席していたプロスタッフの村信保さんがさらにアドバイスを加え、各対策はその場でどんどんと修正されていきました。
地震の際、お客様に灯体の下を歩かせたくないため、裏通りを避難経路に設定していた案に対して、村信さんは「暗くて狭い裏通りを歩かせる方がむしろ危険なのではないか? 灯体の下を通ってでも、素早く外で出てもらった方が安全であろう」と指摘するなど、さまざまな事態を経験してきたからこその生きたアドバイスを次々としてくれるのでした。
この話し合いでとても印象的だったのは、機材トラブルで照明の効果が使えなくなった場合の話。その場合は「芝居を中止する」というルールを敷こうとしていた学生たちに対して、村信さんは「ここまで一生懸命作ってきたものを、なるべくなら最後まで続けよう」と伝え、「中止にするのではなく、どうにかして続ける方法を考えた方がいい」と訴えていました。これは実際に公演中止に立ち会ったことのある舞台監督として、座組の悔しさや虚しさを知っているからこその意見で、安全確保のためのプロのアドバイスというよりも、作品を届けたいという、一演劇人の先輩からのメッセージに感じられ、メンバー全員の心にも深く刺さっているのがわかりました。
もちろんベストの状態でお客様の前に出したいのはわかりますが、例え音響、照明がなくても、役者の力だけで出来るところもたくさんあるはず。仮に一度、中断してしまったとしても、その事情をお客様に説明した上で、再度ラストシーンまでやりきるかっこよさもあるのだと、教えてくれたのでした。
舞台監督チームの岩田有未さんも演出の養父明音さんも、すぐに村信さんの考えを取り入れ、何があっても基本的にはどうにか最後まで続ける、という方針で進めることになりました。
「避難訓練」の時間が終わると、役者はメイクに、スタッフさんは本当の最終チェックを、そしてスタンバイへと進んでいきました。
開場の前には、全員で円陣を組み、プロデューサーの宮嵜さんから「今年のMSPの先陣なので絶対に成功させましょう!」と力強い言葉があり、4年生でポローニアス役の西川航平くんによる気合入れが行われました。
そして定刻どおりに本番がスタート。
台風のため、キャンセルも多かったと聞いていましたが、それでも多くのお客様が入り、用意していた座席はほぼ埋まっていました。客席もやや緊張している雰囲気の中、ハムレット役・阪上祥貴さんがまず一人でセンターステージに登場。皆の注目が集まり、ストーリーが始まりました。
現代風の衣装を身に着けた、7人の登場人物による会話劇は、膨大なセリフ量の応酬でややもすると単調になってしまいがちなところを、役者たちのテンションと丁寧な緩急の演技で、お客様の集中力を途切れさせることなく、約70分を突っ走りました。
初日独特の硬さはありましたが、それでも十分に作品の面白さは伝わっており、会場中が各キャラクターに惹きこまれているのがわかりました。
最初と最後のシーンは原作の小説にはない、オリジナルのシーンになっていて、学生ならではのアレンジだと感じました。どこか、この“ハムレット”という人物が、あなたのごく身近にいる青年と同じなのだ、とでも言いたいような終わり方に見え、同時にこの作品から11月の本公演『ハムレット』へ、バトンを渡しているようにも感じられたのでした。
ラボ公演はこの日が初日で、その後1日3ステージの土日公演へと進んでいきました。
千秋楽まで作品がどのように育っていったかを見届けることはできませんでしたが、きっとより素晴らしいものになっていったのだろうと想像ができます。
※9/17(日)の19時からMSP公式YouTubeにて千秋楽公演の配信が決まっています!
4年生が多いこの座組の、MSPでの最後の雄姿を観ることができて、本当によかったです。
そして、この作品を通じて、後輩たちにMSPの“精神”が継承されていくのを楽しみにしたいと思います。
▽ラボ公演「新ハムレット」公演の映像は、ただいま配信中!▽
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