【劇場めし 第6回】王子の「うどん屋 清」
「劇場周辺の、おすすめのご飯屋さんをご紹介!」するこのコーナー。今回は王子駅界隈を散策してみました。王子の劇場といえば、花まる学習会王子小劇場や北とぴあなどが思い出されます。王子小劇場が中心となり、街全体を盛り上げる演劇祭が定期的に開催されるなど、街と観劇をセットで楽しめる地域と言えるでしょう。主要駅は、JR王子駅、東京メトロ南北線の王子駅、東京さくらトラム(都電荒川線)の王子駅前、等々。
王子界隈には個人的な思い出も多く、久しぶりに街を歩いてみました。懐かしい店も見かけましたが、変わってしまった風景も多く、東京の移り変わりの速さを実感します。そんな中、今回は以前から気になっていた「うどん屋 清(せい)」に入りました。このお店は王子小劇場から徒歩2分程の距離にあり、観劇前後に立ち寄るにはうってつけです。
僕は、麺類も好きですが何より出汁が好きなので、温かい「かけ出汁」を味わいたく、今回はかき揚げうどんをオーダー。すると「今から茹でますのでお時間10分程いただきます」とのお返事。はい、勿論OKです。うどんは茹でたてが美味いと決まっています。これは楽しみ。そして、「お待たせしましたー」と到着したお盆がこちら。
かき揚げとかけうどんが別皿で出てきました。個人的な味覚かもしれませんが、関西風の繊細な出汁に揚げ物を入れると出汁の風味が変わってしまうことが多く、別皿で出てくるのはとても嬉しい。うどんをすすり、かき揚げを囓る。このコンボがたまらないのです。
麺の太さは中太くらい、ややウェーブがかかり、ピカピカと光るような美しさ。かけ出汁はすっきり透きとおり、見た目から美味しそうなかけうどんです。僕の経験上、美味しいうどんは見た目から綺麗なことが多く、食べる前からゴクリと喉が鳴ります。それでは、いただきます!
一口すすると、コシはそこそこで優しい口当たり。小麦の主張も感じられる、滑らかなうどんという印象。出汁の塩味は抑えめで、魚介系の旨味が堪能できる、すっきりとした味わい。出汁好きの僕には「残すのが勿体ない」と感じる美味しいお出汁です。わー、これは美味い! かき揚げを囓り、うどんをすすり、あっと言う間に完食。
満足して店を出たのですが……、実はこの日の翌週も王子小劇場で観劇予定があり、やはり、再訪してしまいました。今度は冷水で締めた冷たいうどんを冷たい出汁で食べる「ひやかけ」をいただきます。こちらはしっかりしたコシがあり、その弾力を楽しめる食べ応え抜群のうどん。冷出汁もすっきり美味。食べ比べて実感しましたが、かけうどんとひやかけの違いをはっきり楽しめます。うどん好きの方には両方食べて欲しい、リピート推奨のお店です。
観劇前なら軽く小腹を満たし、観劇後なら芝居の感想をツマミに1〜2杯飲んだ後、美味しいうどんでしめる。演劇ファンにとって使い勝手の良い一店だと思います。
そして、今この原稿を読んでいる皆様はご承知だと思いますが……、2021年4月25日、東京都など一部地域に三度目の緊急事態宣言が発令されました。ここに改めて記す必要がないほど、私達は様々な困難に立ち向かっています。医療従事者の方々に深い感謝を表すると共に、私達は自身ができることに専念するしかありません。この状況を乗り越えた後、再び王子を訪れた際は、あの美味しいうどんを食べに行きたいです。
文:園田喬し(演劇ライター・編集者・『BITE』編集長)
うどん屋 清
東京都北区王子1-16-15
TEL:03-6903-3242