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100通りの価値観が交錯するハードで人間らしいドラマを|舞台『ノンセクシュアル』星元裕月さんインタビュー

2025年2月に上演される、舞台『ノンセクシュアル。それぞれにセクシュアリティの異なる5名のキャラクターの想いが交錯し、展開するサイコスリラー作品です。

まもなく始まる稽古に先駆け、バンド「ネメシス」のボーカル・藤木瑛司の役で出演される星元裕月さんにインタビュー! 『ノンセクシュアル』のキャラクターについて、「人間って大変だ!と思うんです」と語る星元さん。作品のキーとなる「価値観の違い」についても、ご自身の経験からお話ししてくださいました。


辻褄がだんだんと合っていくサスペンスの魅力

―『ノンセクシュアル』の台本を読まれた第一印象を教えてください。

「ザ・演劇」です。これまでは2.5次元ミュージカルや、ダンス、アクションのある作品に多く出演させていただいたこともあって、会話と会話がずっと繋がっていく『ノンセクシュアル』にはとてもお芝居らしさを感じました。サスペンスやミステリーの一面も持つ物語なので、一度読み始めてしまうと「この続きはどうなるんだろう」と勝手に手が進んでしまうんです。「これってどういうことだ!?」と思ったり、「さっきのあの台詞はこういう意味か……」と気づいたり、進むにつれて辻褄がだんだんと合っていく感覚が面白かったですね!

――演じられる「瑛司」はどんなキャラクターでしょうか?

彼はバイセクシャルなんですが、今の恋人である秀樹や、かつての恋人である塔子の間でふらふらしているキャラクターです。浮気するとダメだと分かっていてもしてしまう、「本当にすごいことするよね」と他人事のようにも思ってしまうくらい(笑)。だけど、それでも周りが離れていかないのは、彼らの心の中に瑛司がいるからで、相手を逃さない魅力やカリスマ性があるんですよね。

左から、Wキャストで瑛司を演じる、星元裕月さん、加藤ひろたかさん

――魅力的で憎めない瑛司と、ご自身とが似ているところはありますか?

誰に対してもフラットで、テンションが変わらずに「好き」の気持ちを持っているところは、ちょっと似ているかもと思う部分でもあります。そんなつもりはないんですが、ここ最近、人たらしだと言っていただくことが多いんですよ(笑)。
一方で今までにない役どころですし、瑛司には自分にないものも多いので、半年近く、他の舞台の稽古場でも、共演する男性俳優さんの言葉と行動を観察しました。いつも通り喋っているように見えて、実はずっと観察中(笑)。今までの私を知ってくれている方は、瑛司の口調からまずびっくりしてくれると思います。

「伝えるためにまず分析から入ります……!」

――『ノンセクシュアル』はセクシュアリティの異なる登場人物、それぞれの価値観の違いが、歪みを生んでいく物語でもあると思います。共演者の方と価値観が異なったり、お互いに作品を良くしようとしているけれど噛み合わなかったり、といったときにはどうされていますか?

デビューしたころは「伝わらないなら、伝わるまで叫ぶ!」という人間でした。それでも伝わらないと自分で自分にパニックになるし、相手に伝えることを諦めてしまうようにもなって。あるとき舞台の千秋楽のカーテンコールが終わった後に、ちょっと虚しい気持ちになったことがあったんですよね。公演の終わりは泣くぐらい寂しいときだってあったのに、それがいつの間にか薄れていたことに気づいて「どうしてこうなったんだろう……」と思い悩んだりもしました。

ここ最近は、舞台や表現の楽しさを再認識する瞬間がたくさんあったり、いろんな人に支えていただいたりしたおかげもあって、相手に伝えることをもう一度頑張り始めました。以前みたいに闇雲にいくのではなく、相手の人間性をしっかりと見て、「この人ならどういう言い方をしたら伝わるのかな?」とものすごく分析するようになりましたね。昔は人見知りだったんですが、やっぱり人が好きなんだと思います。

――そういった考え方は、どのように得られたのでしょうか?

学生時代に青春らしい経験をあまりしてこなかったんです。だから誰かと離れ離れになったりする体験が人よりも少なかったのかもしれない。芸能活動を始めてからの8年間では、出会いもあれば別れもあったり、時には傷ついたりした経験からも、周りの人を大事にできるようになったのかなと思います。ノンセクシュアルのように深いヒューマンドラマというか、人間の中身を探るような作品をやるにあたっても、そういった経験が糧になっているんだなと感じます。

――ご自身の分析からも聡明なお人柄が伝わってきます! 普段から様々なインプットなどもされていますか?

今年は特にいろいろな舞台を観に行きましたね。2023年には大きな決断として性同一性障害(GID/MTF)であることを公表したこともあり、2024年は関係者の方へのご挨拶をしながら、今まで自分が観てこなかったような作品も観劇しに行きました。その中で、自分は何が好きで、何が苦手でといったことを一つずつ整理する一年だったと思っています。同時にノンセクシュアルのお話もいただけたので、その期間を一緒に並走してきてくれたという気持ちもあります。演劇で価値観が広がったのかな。

“あの人しかいない”と思う時、自分だって一人しかいないはず

――それぞれの価値観を持つ『ノンセクシュアル』のキャラクターの中で、「この人のこれは分かるなぁ」という部分はありますか?

やっぱり瑛司のことを好きで居続けている塔子かなぁ……。「瑛司の何がそんなにいいの!?」とも思うんですが(笑)。塔子のように、例え浮気をされても「だって瑛司は一人しかいないんだもん」と盲目になる感覚ってあると思うんです。でも面白いのは、この現実世界を考えてみると、好きな人がいたとして確かにその人は一人しかいないけれど、自分だって一人しかいないこと。自分の中にぽっかり開いている穴を埋められるのはこの人しかいないと思っていても、そもそも穴のある時点で自分のことが見えていなかったり、大切にできていなかったりする。『ノンセクシュアル』に出てくるのは、そういう人たちなのかなとも感じたんですよね。

舞台『ノンセクシュアル』相関図

――なるほど。私も台本を拝読しましたが、その視点は新しい気がします。

穴が開いていることは決して悪いことではなくて、それってすごく人間らしいなと思って。でもきっと、塔子の心の穴には瑛司がジャストフィットするんでしょうね。その気持ちはちょっと分かるなと思います。私も悶々としているときに、本当は適していないのに自分ではこれが良いと信じ込んで、客観的に見たら悪い方向に行ってしまうようなときもありました。だから、めちゃくちゃ人間らしいドラマだと思うんです。

――本作のキャッチコピーである「愛と執着は何が違うのだろう?」も、人間らしさですよね。

誰かを好きになって何も見えなくなってしまう人もいれば、逆にその気持ちがパワーになって何でも頑張れちゃう人もいるし、本当に極端じゃないですか。この場にいる人だけでも「私の愛の価値観」は全員違うと思うし、それぞれの時代でも、その時によっても求めるものは違う。育ってきた環境や今の環境や未来像も、全部があったうえで価値観ができあがってくると思うので、100人いたら100通りですよね。それが交差していくって、本当に人間って難しい、大変だなと思うんです。セクシュアリティも価値観をつくる一要素でしかなくて、『ノンセクシュアル』ではそれ以上に「人間らしさ」を描く部分に惹かれています。人間の苦しさ、愛おしさをしっかり表現していきたいです。

もしかしたら原作小説が書かれた30年前より、むしろ今の方が寂しい時代なのかもしれない。そういう時代にこそ、この作品で「人間とは何か」を観て欲しいですし、ちょっと学びに変えてみてくれたら嬉しいなと思います。キャラクターを客観的に見ている部分もあるし、共感する部分もあるので、実際に自分が作品の中に入ったときにはその両方を楽しんでやっていきたいですね! 

私自身の芸能活動は、来年で9周年になります。10周年へ向かう大事な2025年最初の作品なので、とにかくできることを精一杯に表現に落とし込んで、星元裕月の地に惚れてもらえるような瑛司を作り上げていきたいです。ぜひ楽しみにしていてください。

インタビュー中もまっすぐな眼差しが印象的だった星元さん

――思慮深くチャーミングな星元さんが、どんな瑛司を、そして『ノンセクシュアル』という物語を作り上げるのか、今からとても楽しみです!!

インタビュー・文・撮影/清水美里(おちらしさんスタッフ)


舞台『ノンセクシュアル』プロデューサー/Zu々主宰・三宅優さんより
星元さんは以前から舞台を拝見していて、とても目を惹く役者さんだと思っていました。劇団鹿殺しさんの舞台『9階団地のスーパースター』で男の子の役を演じられているのを観て、本作の魅力的なカリスマでもある「瑛司」という男性の役も引き受けてもらえるのかなと思ったのがオファーのきっかけです。そこからいろいろなお話もしましたが、作品や役柄に対する洞察、いろいろなことを考えてくれているのは良い意味で瑛司とは真逆。「深く物事を考えていない」彼のキャラクターを、しっかりと作り上げてくれるだろうと期待しています!

\三宅優さんの作品作りに迫るインタビューもぜひお読みください!/

公演情報 舞台『ノンセクシュアル』

日程
2025年2月7日(金)~12日(水)
会場
横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

出演
松村龍之介/新井將 ※Wキャスト
加藤ひろたか/星元裕月  ※Wキャスト
小柳心
神里優希
立道梨緒奈
演出 鯨井康介
上演台本 潮路奈和
主催 Zu々
共催 横浜赤レンガ倉庫1号館

※映画のR-15指定に相当する表現がございますので、15歳未満のご入場はお断りいたします。 

舞台『ノンセクシュアル』公演スケジュール

2020年のリーディング版『ノンセクシュアル』が再び配信で観られます!

カンフェティ「年末年始はおうちで配信観劇」企画
◆配信期間:2024年12月26日(木) 19:00 ~ 2025年1月5日(日) 23:59
※アーカイブ10日間

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\12月号舞台版では『ノンセクシュアル』公演チラシもお届け/
▽「おちらしさん」では舞台公演のチラシが、無料でご自宅に届きます!▽

【2025年2月5日(水)12:00】よりおちらしさんWEBにて結果発表!!
▽チラシ年間大賞を決める「おちらしさんアワード2024」開催中!▽


\今どんな公演やってる?/
▽向こう4か月間、約1000公演の情報がカレンダーになりました!▽

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