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【劇場めし 番外編その2】インドネシアで食べた「夢のワンプレート」

「劇場周辺の、おすすめのご飯屋さんをご紹介!」するこのコーナー。前回は番外編としてインドネシアで食べた絶品魚料理を選びました。これが意外と好評だったようで「続きが読みたい」とリクエストを頂戴したこともあり、今回もインドネシア番外編をお届けします。確かにあのグラメの写真はインパクトありますよねぇ(気になる方は前回をチェック!)。

皆さんは劇場でめしを食べたことがありますか? 「劇場周辺の、おすすめのご飯屋さん」ではなく「劇場」そのもので。日本国内でも、寄席は基本的に飲食可ですし(アルコールは会場毎にルールが異なります)、長めの幕間(休憩)を挟む歌舞伎などは休憩中に食事をとるのも楽しみのひとつです。現代劇でも、レストランを舞台にした物語を上演し、ディナーショーのように食事が楽しめる公演も。

インドネシアの伝統芸能にワヤン・クリッという影絵芝居があります。ワヤンが影、クリッは皮の意味で、影絵に用いられる人形が牛の皮で作られています。ワヤン・クリッの説明は最小限に留めますが(気になる方は是非ググって下さい。魅力的な写真と情報が沢山でてきます)、これからお話するのは「結婚のお祝いとして上演されたワヤン・クリッ」でのエピソードです。

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この上演は、開場が20時、開演が21時、終演が翌日の早朝5時頃。つまり徹夜上演です。人形劇なので、この場合の演者は人形遣い(ダランと呼びます)ですが、ダランは上演中食事もとらず、トイレにも行きません。煙草とお茶を口にする程度で、約8時間の通し上演を一人で演じきります。

徹夜上演。ダランは食事をとりませんが、観客はお腹が空きます。そして、ワヤン上演中の客席はとても自由な空間。上演中の席移動も自由、お喋りも自由、途中退席・買い出し・飲食も自由(イスラム教圏なのでアルコールは禁止)。桟敷席で横になろうが、イビキをかいて熟睡しようが、何でもアリです。

この上演は「結婚のお祝い」、いわば祝祭です。この場合、主催者から観客へ食べ物や飲み物が振る舞われることもあるそうで、今回は正にそれでした。一定時間ごとにお菓子やお茶が配られます。僕はステージからやや離れた椅子席で観劇していましたが、途中からステージに近い桟敷席へ移りました。桟敷席は空いているスペースに自由に座り観劇するスタイル。序盤は座って観ていた人達も、途中から寝転がったりして、夜更けと共に会場全体が独特の雰囲気になっていきます。

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僕はガムランという打楽器を演奏する楽隊の近くに座って観劇していました。ガムランの心地良い音色を浴びつつ、夜が深まってくると、正直眠くなります。そもそも上演言語は全く分からないので(←いばることじゃないですが)、いつしかうつらうつらと船を漕ぎはじめました。しばらくしてハッと気が付くと、僕の目の前に一皿の食事が!

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異国の地で、伝統芸能を全身に浴び、夢心地になりながら、気が付くと見知らぬめしが!! イメージはお地蔵さまへのお供え物。「これは……、食べていいんだよね? というか食べるべきだよね!?」と寝ぼけた頭で考えつつ、お皿をガシッと掴み、スプーンでわしゃわしゃっとかっ込むと、これが何と美味いこと! 白米とおかずを混ぜて食べる、日本風にいえば「丼めし」みたいなスタイルでかっ込みます。うまーい! こういうめし、大好きだー!! 東南アジア特有の香辛料の効いた味付けもグッド。えびせんが添えてあるのも正にインドネシアめし(インドネシア人はえびせん大好き。日本のえび味のお菓子をお土産に渡すと非常に喜ばれます)。わー、書いてたら思い出してお腹が空いてきた…。

ワヤン・クリッ上演、ガムラン演奏、そして、ワンプレートご飯。初めての国で初めてづくしの、とっておきの空間体験。こんな素晴らしい観劇もあるのだとしみじみ思いました。しばらくして一息つくと、さっきのアレは夢だったのでは? と思えてきて、この美食を「夢のワンプレート」と命名しました。ええ、もちろん勝手に。

翌日、取材仲間にその話をすると「昨日のワヤン上演中に園田さんが背中を丸めてめちゃめちゃ美味しそうにご飯を食べていた」と指摘され、さすがにちょっと恥ずかしかったです。でも同時に「ああ、やはり夢じゃなかった…」と嬉しく思いました。


文:園田喬し(演劇ライター・編集者・『BITE』編集長)

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