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言うならば“オタクの他人を巻き込んだクリエイティブ”|Zu々主宰・プロデューサー三宅優さんインタビュー

2025年2月に上演される、舞台ノンセクシュアル。2020年に上演が予定されていたものの、コロナ禍のためリーディングによる配信公演に変更して上演され、2022年には映画館での特別上映も行われた人気作です。満を持してのストレートプレイ上演に向け、本作のプロデューサー・Zu々(ずう)主宰の三宅優さんにお話を伺います。

舞台『ノンセクシュアル』(2025年2月上演予定)

今年10周年を迎えるZu々。雑誌編集者、ライターとしてキャリアをスタートし、ご自身の「好き」を求め続け今に至る半生についてお聞きしました!

三宅優(Zu々 主宰)
多摩美術大学芸術学科に在籍時より出版社でアルバイトをし、卒業後も雑誌編集者として勤務。その後、英国 Oxford Polytechnicに入学。同校卒業後、ロンドンの翻訳会社で3年間勤務。帰国後、外資系一般企業に15年間ほど勤務の後、現職。

Zu々(ずう)
三宅優(日本ペンクラブ会員)が、“自分が日本語で観たい舞台”を基本コンセプトに、海外の舞台、国内外の映画、小説、マンガなどジャンルに拘らず選んだ作品を日本で<Zu々 プロデュース公演>として企画・舞台上演を行っている。
一方、主宰はジャンルを演劇だけに留めず、映画、マンガ制作への協力など、多方面での活動も行っている。

『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』(2021)
『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』(2023)

Zu々旗揚げ公演『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』との出会い

――さっそくですが、三宅さんと演劇との出会いを教えてください。

東京育ちだったので、幼いときには「島田屋ー!」と声が飛ぶような新国劇に父が連れて行ってくれたり、母と演劇やバレエ、宝塚を観たりといった記憶があります。そこから舞台は観続けていたのですが、何が一番好きだったかと聞かれたら、マンガ。マンガオタクだったんです。高校生のときにはマンガ情報誌『ぱふ』でお手伝い募集の案内を見て、編集部に出入りしていました。そのお手伝いの仕事の中で、当時はまだネットがなく、雑誌間の交換広告の版下を届けるなど、いろんな雑誌の編集部に直接出向くやり取りもありました。そのきっかけから、大学に進学してからはBL(BOY’S LOVE)雑誌の走りである『JUNE』の編集部でアルバイトをすることになります。

――すでに“成功したオタク”の階段の上り方ですね。

そのころ1980年代の『JUNE』はBL系のマンガ、小説やサブカル情報、当時の「耽美」「BL」っぽいものは、マンガや小説をはじめ何でも掲載していた雑誌です。その中には東京グランギニョルのような劇団の紹介もあって、初演の『ライチ光クラブ』も観ました。これを言うとみんなびっくりするんですが……(笑)。
大学を卒業してからは別の出版社で働いていたので、全部で10年ぐらい編集関係の仕事をしていました。ところが所属していた少女漫画雑誌『グレープフルーツ』が廃刊になったことをきっかけに、会社を辞めてイギリスに行くことにします。

――いきなりイギリスですか!?

通っていた高校がカトリック系だったので、簡単なやり取り程度であれば英語が話せたんです。出版社にかかってくる海外からの電話にも出ていたので、他の部に異動するよりはもうちょっと英語を使えるようになりたいと思ったんですよね。アメリカでなくイギリスを選んだのは、イギリスの画家、サー・トーマス・ローレンスを卒論で選んでいたからです。萩尾望都先生が描いた『ポーの一族』に登場する《ランプトン少年像》を描いた人で、ローレンスの原画もたくさん見られるだろう、と思ってイギリスを選びました。当時のポップアートやアメリカン・カルチャーに興味もなかったので。

――これまた「好き」に突き動かされた渡英だったんですね。

渡英してからは大学に入って、休暇中には、『JUNE』編集部の依頼や、出版関係の知り合いから頼まれてイギリス関連の記事を書いたりもしていました。週末の休みにはロンドンで演劇やミュージカルを観て、記事を書いて編集部に送って……。そんな生活をしていた中で出会ったのが、Zu々の旗揚げ公演となる『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』の英語バージョン「Being at home with Claude」でした。オリジナルはモントリオールでフランス語です。

Zu々『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』公演パンフレットより、
「Being at home with Claude」ロンドン上演時の劇評

――昨年までに読み聞かせを含め、Zu々で6度上演されている代表作ですね!!

客席で大号泣したし、すごく良いなと感動して記事も書いて掲載したんですよ。けれどそこからずっと忘れていて、帰国してからは外資系の企業で働いていました。

運命的に道がひとつになった、Zu々誕生秘話

――20年越しの日本初演にはどうやって辿り着くのでしょう?

あるとき、当時好きだった役者さんが出演する舞台を観に行ったら、期待していた分、すごくがっかりしてしまったことがあって(苦笑)。一緒に行った友人たち(『山田太郎ものがたり』で知られるマンガ家・森永あい)と「せっかく劇場へ行くなら面白い芝居が観たいよね!!」という話になり、その流れで出てきたのが、『Being at home with Claude』をロンドンで観た思い出でした。

日本では上演されていないよね、とネットでタイトルを検索したのですが、元々フランス語で書かれた作品なので、フランス語のページしか出てこない。じゃあ戯曲を書いたルネ=ダニエル・デュボワはカナダ出身だからと、カナダ大使館のホームページにアクセスしてみたら今度は文字化けしていたんですね。勤めていた企業がカナダ大使館の近所だったので、お昼休みに文字化けしているから、知りたい情報を教えて、と、直接にカナダ大使館に行きました。そうしたら経緯を話しているうちに、トントン拍子で文化担当官にまで取り次いでもらえることになり……。

――まさかの急展開になってきました。

なんだか大袈裟になっちゃったなぁと思っていたら、大使館が翌日にデュボワの連絡先を教えてくれたんです。大使館から教えてもらってしまったから、彼本人に「以前にあなたの芝居をロンドンで観て感動しました。日本でやるのはどう思いますか?」とメールを送ったら、その翌日にはもう返信が来ちゃって「上演していいよ、これがエージェントの連絡先」と(笑)。彼のエージェントにも連絡すると、当然「本人が言っているのだからOKです」となりますよね。そのエージェントからのメールに添付されていたのが、留学当時、ロンドンに行くたびに演劇の専門店を何軒も探しても手に入らなかった台本の英語版PDFです。

――鳥肌が立ちます。

20数年越しに一気に読み直したら、やっぱり大号泣……。これは本当に良い作品だ。ここまでになったら、日本で上演するしかないのかなと思って、劇団に所属している友人に相談しました。きちんと演劇に関わった事なんてないから、まずは劇場を借りるのが大変、と彼女に言われて初めて気づいたんですね。
翌日、カナダ大使館にも取り次いでもらったお礼と、昨日聞いたばかりの劇場を押さえるのが大変だという話をしたら、「ここの近所で上演してほしい」と言われました。でも赤坂なんですよ。近所なんて、草月ホールと青山円形劇場しかない(笑)。

――さまざまな方々の想いも集まってきましたね……!

実はそのころほぼ同時進行で、イギリス留学中に出会った台湾の友人と、台湾の自転車観光を題材にした映画『南風』に参加することになったり、その企画の一端でマンガ版の『南風』を森永あいに描いてもらったり、という話も進んで。さらに勤め先では海外転勤の話が持ち上がったので、もう会社は辞める!と道が決まってしまいました(笑)。そうしてできたのが、演劇や映画のプロデュースを行う「Zu々」です。『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』も、2014年5月に青山円形劇場で上演することが決まりました。

『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』(2014)
『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』(2014)
『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』(2014)

友人や思春期の自分に観せてあげたい作品作り

――すごく運命的なお話だと思います!! 『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』の上演まではいかがでしたか?

嬉しいとか楽しいより、やり切るしかないと思っていました。だから『クロードと一緒に』の次のことすら何も決めてなかった。幕が開けた2日目の青山円形劇場の楽屋で、主演した俳優さんに「三宅さん次何やるの?」と言われてから次の作品を考え始めたほどです(笑)。
言われて考えついたのが、そののちZu々プロデュース2作目として舞台化する、中国映画『The Night』からの『Yè –夜–』と、大正時代を舞台にした石原理さんのマンガ『怜々蒐集譚』の舞台化・映画化でした。

『Yè –夜–』(2017)
キノドラマ(舞台)&キネマ(映画)連動興行『怜々蒐集譚』(2019)

――Zu々の作品は、国や時代を超えて、あらすじからドキッとする要素の感じられる作品が多いと思います。

なんでも面白いなと思ったらやりたい。元が海外戯曲だろうが、マンガだろうが、映画だろうが、ある意味“原作の先生にとても応援してもらった、オタクの壮大な人を巻き込んだクリエイティブ、二次創作”かもしれません。Zu々の基本コンセプトも「三宅優が日本語で観たい舞台」としています。自分の友人たちに観せて恥ずかしくないもの、自分が15~16歳のころにこういう作品が観たかったなと思うものを作りたいです。

――その熱い想いに突き動かされて、三宅さんの周りにはたくさんの協力者の方々が集まられているんでしょうね。

いなくなった猫の話』も、猫を飼っているので作品を読んで大号泣し、猫の好きな人と一緒にやりたいなと思って、杉本彩さんに出演をオファーし、舞台化した作品です。原作者の森奈津子さんはエロティシズム、ナンセンスの要素があるSFミステリーや、セクシュアリティをテーマにした作品をメインに書かれている方で、その要素のある『哀愁主人、情熱奴隷』とともに二本立ての「森奈津子芸術劇場 第一幕 ~パトス編~」として紀伊國屋ホールで上演しました。『いなくなった猫の話』は、森さんの作品の中では異色な作品と思います。それをきっかけにもともと読んでいた森奈津子さんの作品を全作品、作者本人から直接にいただいたりもして、『ノンセクシュアル』、この作品もやりたいな、と。

「森奈津子芸術劇場 第一幕 ~パトス編~」『いなくなった猫の話』(2017)
「森奈津子芸術劇場 第一幕 ~パトス編~」『哀愁主人、情熱奴隷』(2017)

ついに三次元になる舞台『ノンセクシュアル』

――「愛と執着」を描いたサイコホラー長編小説である『ノンセクシュアル』は、ずばりどんなところに惹かれた作品ですか。

セクシュアリティが異なる登場人物5人による物語で、単純に面白かったというのもあるんですけれど、被害者が加害者で、加害者が被害者で、誰も悪くなくて、みんな悪い。そういう描き方をしているところに惹かれました。「俺の苦しみを聞け!」だとか「これが正しいんだ!」とか、観ている人へ訴える、答えや結論を強いるような演劇作品を好きだった事がないんです。だからなのか、これまで自分が作ってきた作品を思い返すと、そういう事がない、という共通点はあるかもしれません。

――『Being at home with Claude 〜クロードと一緒に〜』も、殺人容疑の若い男娼が主人公ですよね。

彼は殺人だけでなく、盗みや暴力、何をやっているのかと思うような罪も犯しているキャラクターです。でも、やっぱり、そこには理由があった。『ノンセクシュアル』もどれが正しいのか分からないけれど、皆それぞれに理由と正義、愛はある。これは今回、侑李(アセクシュアル)役で出演してくれる小柳心さんが言ってくれたんですが、例えばアセクシュアルである侑李というキャラクターは、もしかしたら一番正しい方法ですべてを愛しているのかもしれない。今より偏見が強かった時代もありましたけれど、どのセクシュアリティのキャラクターに対しても、変な人にはしないでくれと脚本を作るときにも、演じてもらうときにもお願いしてきました

――『ノンセクシュアル』では主人公の瑛司、彼の恋人である秀樹や塔子、瑛司が出会う蒼佑といったキャラクターもセクシュアリティが明かされています。

キャラクターそれぞれのセクシュアリティも、その人を構成する一要素のひとつでしかないんです。今回の演出家であり、前回は出演者として蒼佑と侑李の2役を回替わりで演じてくれた鯨井康介さんも、作品をよく理解してくれています。「瑛司は何も変わらないのでは?(笑)」とか、そういうことも稽古スタート前の現段階でも話しますね。観た方にとってもそれぞれに感想が異なると思います。

リーディング版『ノンセクシュアル』(2020)での鯨井康介さん

――2020年のリーディング配信で、お客様の反応はいかがでしたか?

怖い、ゾワッとしたという反応でした。私も原作を読んだときには、最後に怖いと思って震えた んですけれど。ただそういうエンディングを迎えるにあたっては、色々な背景や環境があるんですよね。だから一言じゃ「誰々が悪い」とは言えないし、群像劇的なんです。各キャラクターにちゃんと人生や、愛情があるのでそこはぜひ観て欲しいです。

――この記事を読んでくたさった方へ、今回の上演のポイントや見どころをお願いできますか?

コロナ禍を経てやっと本来予定していた形で上演できるので、この公演は配信をせず、劇場に集まってひとつの空間で演劇を体感するということを謳歌したいと思っています。あのときはやれることの最善を尽くして、120点の何も文句のない作品ができあがったから、さらに違う次元、世界へというか……。

リーディング版『ノンセクシュアル』(2020)

『ノンセクシュアル』という作品は、小説からキャストが演じるリーディング、朗読になって、それがさらに三次元の演劇になる。リーディングを観てくださった方にとっては、頭の中で想像したものが動き出すところを直に観に来てほしいです。劇場がある赤レンガ倉庫からは作中に出てくる横浜の名所や、美味しいお店が揃うエリアも近いですよ!

――観劇後は感想を話しながら、横浜の観光スポットを巡るのもいいかもしれませんね。本日はお話をありがとうございました!

インタビュー・文/清水美里(おちらしさんスタッフ)

公演情報 舞台『ノンセクシュアル』

日程
2025年2月7日(金)~12日(水)
会場
横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

出演
松村龍之介/新井將 ※Wキャスト
加藤ひろたか/星元裕月  ※Wキャスト
小柳心
神里優希
立道梨緒奈
演出 鯨井康介
上演台本 潮路奈和
主催 Zu々
共催 横浜赤レンガ倉庫1号館

※映画のR-15指定に相当する表現がございますので、15歳未満のご入場はお断りいたします。 

舞台『ノンセクシュアル』公演スケジュール

2020年のリーディング版『ノンセクシュアル』が再び配信で観られます!

カンフェティ「年末年始はおうちで配信観劇」企画
◆配信期間:2024年12月26日(木) 19:00 ~ 2025年1月5日(日) 23:59
※アーカイブ10日間

リーディング版の出演者・相葉裕樹さんがアフタートークゲストで登場!
▽Zu々の最新情報は公式Xアカウントでご覧いただけます▽


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