今はまだコトリ会議を見たことのないあなたへ|山本正典(作・演出)&若旦那家康(制作)インタビュー
関西の人気劇団「コトリ会議」。演劇業界における受賞歴も多く、他団体からのラブコールも多い作・演出の山本さん。全国の演劇の橋渡しをするかのごとく各地を飛び回っている制作の若旦那さん。今回はお二人から、お二人自身のこととコトリ会議の作風、そして最新作『おかえりなさせませんなさい』について、お話をお伺いしました。
山本正典(やまもと・まさのり)―作・演出
――山本さんの演劇との出会いを教えてください。
山本 小学4年生の頃に劇団ひまわりさんが小学校の体育館でお芝居をされて、その作品に衝撃を受けました。『ルドルフとイッパイアッテナ』という作品なのですが、小学生の頃なので難しい感想はなくて、ただ、「すごかった面白かった」という記憶だけが今もずっとまだ残っています。まあ、そこからすぐに演劇をやってみようということにならずに、だいぶ時が流れて大学生になって。
演劇もほとんど見ることなく過ごしていたある日、仲の良かった友達がパソコンをいきなり開き出して、「こんなに面白い人たちがいる!!」って京都の劇団のWEBページを見せてくれて、「稽古をどんどん見に来てね」ということが書いてあったので、ふらっと何気なく2人で行ってみたんです。すごく歓迎されてもてはやされていい気になっていたら、その後飲み会で「じゃあ、この紙に今日2人が来た記念の名前を書いてほしい」と言われて、書いたらそれが劇団の登録用紙だったという(笑)。もちろんある程度、自分たちで選んでいると思うのですが、そのくらい不意を突かれたような感じで演劇の世界に入りました。
――作・演出をはじめることになるのはどのタイミングですか?
山本 鈴江俊郎さん主宰の劇団八時半に出演させていただき、3都市ツアー公演が終わってみんなで後片付けを手伝っていた時に、鈴江さんから「お前は本を書け」ということをいきなり言われまして。「役者だけではなく、演劇のあらゆることを自分で模索してできるようになっていけ」という姿勢の方なので、僕はそれを素直に受け取って、脚本をはじめて書いて、自分ひとりのユニットで上演してみたというのがはじまりです。
――どんな作風だったのですか?
山本 今とほとんど変わっていないかもしれません。男の子の住む六畳一間のアパートに、いきなり元カノみたいなやつが飛び込んできて、なんかいきなり琵琶湖を爆破して地球の軌道をずらしたら月が落ちてくるスイッチを開発したみたいな。で、これを起動させようか迷っている、みたいなのを頑張って阻止するというような、そんな話です。
若旦那家康(わかだんな・いえやす)―制作
――若旦那さんと演劇との出会いを、教えてください。
若旦那 私、すごいテレビっ子で。中学生の頃、深夜に関西の小劇場の俳優とかがタレントみたいに出ているテレビ番組をよく見ていて、その中にお笑い、音楽、演劇などがごちゃまぜになっている番組がありまして、一番心惹かれたのが演劇っぽい作品でした。そこから演劇に興味をすごく持って、観に行くようになりました。
――どのような作品をご覧になっていたのでしょうか?
若旦那 惑星ピスタチオさんはよく観に行っていました。大学を決めたのも、新聞の見開きに座付作家演出家である西田シャトナーさんのインタビューが載っていて、プロフィールのところに「神戸大学はちの巣座出身」と書いてあったので、そこに入ったら後輩になれると思って神戸大学を受験したんです。
――若旦那さんの転機になるような出会いをお伺いできますか?
若旦那 転機ばかりの演劇人生ではあるのですが、強いて言うなら3人の演出家との出会いが転機になっています。上海太郎さん、ウォーリー木下さん、そして山本正典さんです。高校生の時から上海太郎舞踏公司が好きでワークショップに行ったりもしていたのですが、大学5回生のときに久しぶりにワークショップに行って、流れで当時の劇団の制作の方々とボウリングに行くことになり、「俺たちが勝ったらお前入団な」みたいな勝負に負けて、入団しました。まあ、入れるなら入りたいなという気分でいたから負けたような気もするんですけど(笑)。そこで今の芸名もつけていただきました。
3年ぐらい所属させていただきフリーになったタイミングで、ウォーリー木下さんから演出助手をやってみないかというお誘いを受けまして。今、ウォーリー木下さんとは、パフォーミングアーツフェス「ストレンジシード静岡」などで、年に一回くらいの頻度で一緒に仕事をしています。上海太郎舞踏公司時代に、セリフを使わない作品づくりに関わっていたことが生きているような気がしています。
そして、山本正典さん。客演の依頼を受けて出てみて、「こんなに面白いのに、こんなに地味で売れてない劇団があるなんてもったいない!」と思って、そろそろフリーで動き続けるのもさみしいと思っていた頃で、劇団の時代がくると思っていたタイミングでもあったので、コトリ会議に入れてほしいと伝えて、入団したというのが、私の三大転機です。
コトリ会議―劇団
――今のコトリ会議さんの作風について教えてください
若旦那 「会話劇」とは言っていますが、発話のリズムとか息継ぎとかが面白くなるように書かれているというのが、観劇していだいた際の印象になると思います。また、どの作品からも優しさを感じていただけるのではないかなと。「死」を、物語を転がすブースト材料に使わないということも特徴で、例えば何かに死が訪れたとしても一緒に会話できたりします。別れや人の変化に対して、残された側の気持ちがどうしたら癒えるだろうかということが描かれています。
山本 物語のために誰かを不幸にするというのが苦手なんです。だから、誰かがすでに死んでしまった世界のようなところから物語を描いているような気がします。物語が終わった後の情景みたいなものを、ずっと描いている。
現実に起きた事件を元に物語を作ることが私にとっては難しいので、そういったことを自分の中で咀嚼して表現しようとした時に、例えば宇宙人のようなモチーフを使用することになり、結果的にそういうSF的な作風になっていると思います。
12月上演の最新作『おかえりなさせませんなさい』
――今回の作品の導入部分を教えてください。
山本 舞台は100年後の喫茶店。とある家族が、子供たちがちっちゃい頃から、大事な話があった時にそこに集まるような、店長とも家族ぐるみの付き合いで親しくしている思い出の場所です。
そこに、久しぶりに家族が集まります。長女が、夫に徴兵の召集令状が届いたことをきっかけに、家族に相談にやってきたんです。
長女から、夫がヒューマンツバメに登録すれば徴兵を免れることができる、戦場に行かなくて済むということを提案されて、家族たちが悩むという話です。ヒューマンツバメになると、人間の記憶をほとんど失くしてしまうのです。
――なぜ、そのような話にしようと思ったのでしょうか?
若旦那 物語の外側、企画時点での動機からお話させていただくと、こまばアゴラ劇場が閉館のニュースが出たのが、すごくショックだったということがあります。閉館を知った時にはもう上演の募集がなくて、ただ閉館するのを見ているしかなかった。あれだけお世話になったのに最後は何もせずに終わったという強い後悔があったので、同様に閉館が間近に迫るアイホールではそうなりたくないと思い、アイホールで最後にやろうと劇団員に呼びかけたことが、今回の企画のはじまりです。
山本 「アイホールで最後にやるとしたら何だろう」と考えたときに、「そもそもどうしてアイホールはなくならなきゃいけないんだ」と思いました。閉館になるということは、今、この世界に演劇を見たいと思っている人がいなくなっているのかもしれない。その、演劇を取り巻いている環境自体に対して、演劇をやっている人たちが置いてきぼりになっているようなことを考えてしまい……。
置いてきぼりになった演劇の世界の中でなぜ自分は演劇をやるんだろう、なんで演劇なのだろうかということを悩んでいた時期に、世界では戦争や震災などさまざまな出来事が加速度的に起こっていて。せめて自分の周りの人たちにだけでも喜んでもらえるようなことができるはずなのに、なぜ自分は演劇しかやっていないのだろうと、自分が自分を拒絶しはじめてしまったんです。
「昔の自分が理想としていた大人の自分があったはず」「もがきようがあるはずなのに、もがいているつもりでまだ何もしていない」ということを思ったら、ふと、私が帰ろうとしている場所から『おかえりなさいはさせません』と言われているような気がしたんです。
帰ろうとしている場所というのは、例えば昔の自分であったり、福井県の実家であったりだとか、劇団であったり、アイホールのこれまでの演劇全部なのですが、そういったところから拒絶されているような、置いてかれているような感覚を覚えて、今回のタイトルを『おかえりなさせませんなさい』はどうだろうと思いつきました。
――舞台の設定を喫茶店にしたのは、何か理由があったのですか?
山本 舞台を喫茶店にしようっていうことは、はじめから決めていました。物語での必然性があったわけではなくて、私にとって転機となった鈴江さんのお芝居と出会ったのが、アイホールでの喫茶店をモチーフにしたお芝居だったからです。
その喫茶店に集まる人たちを考えていると、今の世界情勢みたいなものが、私は乗せたくないと思っているのにも関わらずどんどん乗っかっていきました。喫茶店を舞台にした会話劇にしたかったのに、何者かによって、戦争だとかそういったものに、どんどん物語が書き換えられていったような感覚で、筆が勝手に動いていました。
――ヒューマンツバメという存在のことも、教えていただけますか?
山本 ヒューマンツバメというのは、人間とツバメを合体させたキメラのような姿なんです。徐々に時間をかけて進化していった姿ではなくて、突然変異を人工的に起こした姿。ものすごく急いでいるとか、時の流れを加速させているものの象徴です。
「加速させているもの」は現代社会にさまざまあると思っていて、例えばインターネットを通じて、時と場所を選ばず現地の状況がわかってしまうこともひとつ。ネットワークに繋がっていることが、ものごとを加速させています。
その加速させる流れに対して、自ら望んで加速度を上げていこうとする流れと、惰性でそこにつながって引っ張られている存在との対比というものがあると思うのですが、そういう対比が、ヒューマンツバメと人間の物語を通して展開されていると思っています。
――今回の作品、どういった方に見てほしいと思っていらっしゃいますか?
山本 自分の居場所や、自分のスタンスみたいなものに迷っている人に見てほしいなと思っています。見たからといって、「じゃあ自分はこうしよう!」という風に思うわけでもなく、「きっとこれを書いている人も同じなんだ。自分に迷っている人なんだ」と思っていただけるような気がしています。それで安心しちゃいけない、ということも思ってしまうかもしれないのですが、「私も、今、そういう状況です」ということを感じてほしいなと思っています。
インタビュー・文:成島秀和
取材日:2024年11月8日
公演情報
コトリ会議 伊丹公演
『おかえりなさせませんなさい』
@AI・HALL 伊丹市立演劇ホール(兵庫県伊丹市)
2024年12月5日(木)〜9日(月)
12/5(木)19:30
12/6(金)15:30
12/7(土)11:30 / 15:30
12/8(日)〈11:00♡〉 / 14:30 / 18:30
12/9(月)14:30
♡「明るい公演」実施回
ハンディーキャップ割適用のお客様を対象にした公演です。 明かりを点けたまま、音量を小さめにして上演します。 通常の予約はできませんが、普段の公演を予約された後にご相談の上ご案内します。
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