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雑記:なぜガチャプレイでは勝てないのか
ゲーマーたるもの、コントローラーを握る手間を惜しんではならない。これは俺の持論であり、ポリシーであり、信条だ。したがって、ゲームをやらずにゲームを語る行為は、信憑性や具体性をかなぐり捨てた唾棄すべき存在であるとも俺は信じている。
そして信じがたいことに、そう本当に信じがたいことに、インターネットでゲームについて雄弁に語る人間であればあるほど、この行為に傾倒しがちだ。これは本当に深刻な問題で、本業としてゲームを作っている人でさえしばしば陥ってしまう。
「格ゲー得意な人が初心者のガチャプレイに負ける事がある」ってあると思うんだけど、プロゲーマーの人が大会とかで意図的にガチャプレイを行って相手を撹乱する、みたいなことってあったりするのかな。
— ニカイドウレンジ (@R_Nikaido) February 24, 2025
まずはリスペクトなのだが、ニカイドウレンジさんはきちんとゲームを作っているクリエイターだ。完全オリジナルのゲームだってあるし、一発ネタじみているとはいえなかなか面白い。そんなプロでさえ、前提も間違っていれば質問内容も間違っているトンチンカンな発言をしてしまうときはしてしまうのだ。いわんや俺やあなたのような凡夫は……という話でもある。
格ゲーに詳しくない人のために説明すると、「格ゲー得意な人が初心者のガチャプレイに負ける」という前提がまずほとんど成り立たない。ただ、ニカイドウさんが追記しているようにこれは日本語の問題でもあって、「格ゲー得意な人」や「初心者」や「ガチャプレイ」とは厳密になにか、という定義の時点で曖昧さを含む。
これまでコントローラーを握ったことのない小学3年生があのウメハラと対戦するのか、中足波動と飛び込み三段ができる程度の中坊が小学3年生の弟を軽く一捻りしてやろうと対戦するのか?解釈の幅は広い。
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だが、それでもなお、この前提がほとんど成り立たないということには変わりない。『Divekick』や『Nidhogg』や『Slice, Dice & Rice』、古いゲームでいえば『ブシドーブレード』のような一撃必殺系のゲームを除けば、格闘ゲームはガチャプレイが生み出すラッキーパンチで勝てるようにはできていないのだ。逆説的にいうと、それで勝ててしまう対戦ゲームは格闘ゲームというよりむしろパーティゲームに近いと思う。
さっき軽くふれたが、格闘ゲームには飛び込み三段(空中攻撃→地上攻撃→コマンド技)というもっとも基本的なコンボがある。パンとバターくらい基本的なこのコンボですら、強パンチの約2.6倍のダメージを叩き出す。ごく単純に考えるなら、ガチャプレイでこれに勝つには相手の二倍以上の確率でラッキーパンチを当て続けなければならない。しかもこんな奇跡が起こるのは、ダメージレースで負けていない≒相手の攻撃を通していないという、やはり奇跡的なケースだ。
それができるならそもそも初心者じゃないって?まさにそのとおりだ。だからこの前提は破綻している。
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もっと解釈を広くして、「あらゆる場面で無敵技をパナして割り込もうとする」のをガチャプレイと呼ぶのはどうだろうか?それなら、ギリギリありえなくはないかもしれない。実際、そういう意味ではスト6はワンチャンにあふれたゲームといえる。
スト6ではドライブゲージを消費して無敵技をぶっぱなせるわけだが、このゲージが開幕マックスであることや、時間経過などで回復することにより、無敵技をパナす/パナされる機会が前作よりかなり増えた。ジャストパリィもある(しかもパリィコマンド押しっぱなしか連打で自動的に最速入力になる!)ため、スト6では一方的な起き攻めや固めが起こりにくくなっている。このように切り返し関連のムーブが充実しているゲームであれば、実力の離れた相手に運頼みで一本取るのはやや現実味があるといえなくもない。ギルティギアなら死んでるぞテメー
ただそれでも、ゴールド帯がプラチナ帯に一本取るとかダイヤ帯がマスター帯に一本取る程度が関の山ではないかと思う。それ以上に実力差が開くと、コンボ火力やゲーム理解度の違いがモロに響いてくるからだ。強P一本足打法はいうまでもなく、飛び込み三段しかできないプレイヤーが、OD技だのドライブラッシュだのを絡めたコンボに火力で勝てるはずがない。
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つけくわえると、格ゲーで初心者が上級者に勝てないのは、攻撃面だけではなく防御面での理解度にも差があるからだ。実力差があると、与ダメージで負けるだけでなく、被ダメージの点でも負ける。当然だ。こちらの攻めは通らないがあちらの攻めは通り、かくして負ける。これは、FPSでボディショットしか当てていないプレイヤーがヘッドショットを決めるプレイヤーに負けたり、MOBAでスキルショットを当てないプレイヤーが当ててくるプレイヤーに負けるのと同じくらいの道理だ。
このジャンルではジャイアントキリングが起きづらいということ、そして起こるべきでもないということ。格ゲーに詳しくない人がとりわけ知らないのはまさにこれだ。たかがゲームとはいえ、格ゲーは努力と経験がモノをいい、試行錯誤は裏切らない。上達速度に違いはあっても、上達した腕を運だけでまくるのはほぼ不可能だ。仮にそれができたして、そのゲームは「しょうもな」の一言で片付けられてしまうのがオチだろう。そんなゲームを上達する意味は乏しく、また上達の余地自体も乏しい。ましてそれをeスポーツなどと呼ぼうものなら噴飯物だ。
長くなってしまったが、「格ゲー得意な人が初心者のガチャプレイに負ける」という前提が間違っているというのはこのとおりだ。前提に続く質問内容の「プロゲーマーの人が大会とかで意図的にガチャプレイを行って相手を撹乱するか?」というのも、当然ながらほとんどありえない。
たしかに、読まれたら負けるギリギリの瞬間に無敵技をパナしたりリバサ歩き投げをしたりという一見博打にしか見えない行動に出ることはある。けれど、これは「あえて」の行動であり、相応の読み合いを回した結果だ。これをガチャプレイというのは事実からかけ離れているし、またリスペクトを欠いた表現でもある。
こうしたひどい勘違いや、誤った前提に基づく誤った推測を防ぐにはどうしたらいいだろう?
なんてことはない。答えは簡単で、そのゲームを実際に手に取ってみることだ。チュートリアルを読み、実際に対戦すればいい。何戦かかるかは人によると思うが、セオリーを一通り理解するころには「なぜガチャプレイで実力差は埋まらないのか」「なぜ埋まるべきではないのか」「なぜプロゲーマーはガチャプレイをしないのか」という疑問は消え失せているんじゃないだろうか?
俺にとって最大の疑問は、ゲームに馴染むという一手間すら惜しむ人間に一丁前にゲームを語る資格はあるのだろうか?という一点だ。あったとして、そんな語りに価値はあるのだろうか?
俺にはわからない。
補足:雑語りと反知性
ある分野について詳しくなると、その分野で適当コイてる人間に嫌気が差す。
これはまあ当然の話で、「ある分野」という言葉を何に置き換えてもたいてい通用する。つまり、ゲームでもいいし、映画でもいいし、西部開拓史でもいいし、エヴァンゲリオンでもボーイズラブでもいい。あなたの詳しい/好きなものが、インフルエンサー気取りの適当な語りで捻じ曲げられる瞬間を想像してみてほしい。たとえば、好きな映画がバズ以外の一切を考えない空疎な定型文とともに4枚の画像で紹介されているとか……。はらわたが煮えくり返るようなとまではいかないものの、ちょっと血圧が上がりはしないだろうか?俺なら、胃腸が黒焦げになり心臓が破裂しそうになる。
間違ったことや浅いことあるいは雑語りを放言するのは百歩譲っていいとしよう。だが、それでなにが悪いと言わんばかりの態度は、端的にいって反知性主義ですらある。認知を歪め、事実を軽んじてしまう。
やっかいなのは、それを正す手段が実質的にほぼ存在しないということだ。熱意のこもった糾弾はかえって相手を頑なにさせてしまいがちだし、証拠や事実に基づいた論証すら人の意見を変えるには十分とはいえない。これは、以前紹介した本『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』のとおりだ。
そう、事実は人の意見を変えられない。悲しいことに、人間はそういうふうにできている。
弁の立つ連中はたいてい、自分のミスに気づかない。俺だって例外ではない。チュートリアルを無視したうえで、そのゲームを遊びづらいと厚かましく非難したりする。そりゃ各方面から怒られて当然だし、その節はご迷惑をおかけしました。
ともかく、こうした雑語りする人々は自分の無知に気づいても、なんとか取り繕って自分を「正しい側」や「真理を突く側」に置こうとするものだ。言い換えるなら、彼らは自らの無知を認めたり謝ったりしない。
インターネットは「喉元過ぎれば熱さ忘れる」を地でいく場所だから、指摘されてもフラフラとゴールポストをズラしつづければいい。日本語の問題云々、解釈が云々、定義が云々。相当ハードコアなアンチを除けば悪評も75日ほどで忘れ去られる。ほとぼりが冷めたら、またなにかそれっぽいことやそれっぽくないことを言って注目を集められる。
ああ、飽きもせず、その繰り返しだ。
追記
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