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【翻訳記事】超富裕層を生み出すモノポリー

コリイ・ドクトロウによる以下の記事より翻訳。


今年のダボス会議(訳注:2024年1月15日–19日)と時を同じくして、公正な課税と反企業を掲げるアクティビストグループから合同で「収益ではなく収奪:独占企業モノポリストが世界の権力と富の分配を支配する方法」というレポートが提出された。

誰もが──世界経済フォーラムでさえ──富の不均衡は深刻な問題であり、人々の政治と社会的な団結を侵していると述べている。このレポートで取りざたされているのは、世界を破壊している億万長者を生み出す企業独占モノポリーと、富の不均衡とのつながりについてだ。

過去40年間にわたる独占企業の拡大は、ある特定の、恣意的な社会制度選択の結果として引き起こされた。このレポートによると、「消費者福祉」主義の名のもとに、アメリカでもっとも裕福な人々が反トラスト法の執行を妨げるために資産を投じてきたという。

ここで用いられているのは、モノポリーと効率性を同一視する経済理論だ。「全員が同じ店で同じ価格のものを買う場合、その店は正しいことを行っており、なんら罪は犯していない」という理屈である。富裕層はこの方針を推し進めるため、シンクタンクや大学の教育プログラム、さらには連邦裁判官になるための「生涯学習」プログラムに40年前からずっと資金を提供してきた。

理想的な理由でそんなことをしたわけではない。富裕層が追い求めていたのは物質的・・・な目標だ。独占企業は大きな利益を生み、その利益は大きな富を生む。超富裕層の著しい増加は、独占企業の著しい増加と切り離せない。

こうした話題が初めての人であれば、「企業独占モノポリー」はひとつの分野にひとつの販売者しかいないことだけを指すと思うかもしれない。だが、経済学者が独占企業や独占化について語るときの定義は異なる。彼らにとって独占企業とは、権力・・を持った企業のことだ。独占企業について話す経済学者が指しているのは、「競合他社や消費者や労働者の反応、さらには政府の反応すら考慮に入れる必要なく独自に行動できる」企業のことだ。

この権力がどれほどのものかは、値上げ(「モノやサービスにかかるコストと小売価格の差額」のことだ)を通じて測ることができる。寡占市場にある巨大企業は非常に大きな値上げをしてきたし、それは今も続いている。2017年から2022年にかけて、世界上位20位までの企業は平均して50%の値上げを行ってきた。上位100位までの企業は平均して43%の値上げをし、下位半分までの企業の値上げ幅は25%となっている。

これらの値上げは、コロナ禍のロックダウン中に急激に進んだ。億万長者の富もまた、同じタイミングで増加している。テック企業の億万長者たち──ジェフ・ベゾス(Amazon)や、セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ(Google)や、ビル・ゲイツとスティーブ・バルマー(Microsoft)──は皆、モノポリーにより財産を築いた。ウォーレン・バフェットは"気高い"モノポリストであり、「ビジネスを評価する上で唯一もっとも大事な点は価格の決定力である……もし価格を1割上げる前にお祈りしなければならないのであれば、それは酷いビジネスだ」と述べている。

我々はモノポリーの時代に生きている。1930年代であれば、アメリカで上位0.1%の企業がアメリカのGDPに占める割合は半分以下だった。今日では、その割合は90%にもおよぶ。1985年には全世界で2,676件だった企業合併が2021年には62,000件にも増え、モノポリーの流れはさらに加速している。

モノポリーの支持者たちはこうした数字を取り上げて自身を正当化する。誰もが作り上げたいと望むような効率的な存在が独占企業だ。その効率性は、独占企業が実行できる値上げとそこから生まれる利益に見られる。ある独占企業が50%の値上げをしたとして、それはただの「規模の効率性」であるというのだ。

しかし、「効率性」とは実際どんなものだろうか?どうすればハッキリと説明できるだろう?本レポートの著者はたった一語でそれに答えている。権力・・、と。

独占企業は「大多数の負け犬どもの富を搾取し、自由を制限し、操作や操縦を行う」権力を持つ。自らを門番に仕立て上げた独占企業は、消費者が支払う金を吊り上げたり自身がサプライヤーに支払う金を引き下げたりするために利用できる要衝チョークポイントを生み出すのだ。

こうした要衝により、独占企業は「国家権力が持つ究極の特権のひとつ」を奪うことが可能になっている。すなわち、課税権だ。Amazonの出品者は売価の51%の税金をプラットフォーマーに支払っており、App Storeでアプリを売る業者は自分のアプリが収益を生むたびにその30%を税金としてAppleに支払っている。そしてこれらの税金は、より高い価格へと転嫁される。

生産するのに10ドルかかる製品について考えてみよう。下から半分の規模の企業であれば、その製品に設定する価格は平均して12.5ドルになるだろう。最大規模の企業であれば、15ドルだ。このように、独占企業はただそのオーナーをより裕福にするだけではない──それ以外の全員をより貧乏にもするのだ。

価格を決定するこの権力は、業突く張りの値上げグリードフレーション(もっと丁寧な表現をするなら「売り手によるインフレーション」だ)の裏側に潜む。世界最大の企業のCEOたちは投資家からの要求に答え続け、この権力を自慢している。

食品業界は信じられないほどに独占されている。カーギル家は世界最大の食品商社を所有しており、一族の430億ドルの財産はそうして築かれたものだ。カーギル家は世界の食品供給を支配する「ABCD企業」(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、バンジ、カーギル、ルイ・ドレフュス)の一角を成し、これらの企業はコロナ禍のロックダウンを通じて利益を3倍に増やした。

独占企業はあらゆる者から金を巻き上げていく──政府からすら。ファイザー社は、生産コストがひとつ5ポンドのワクチンをひとつ18~22ポンドで国民保健サービスに売りつけた。ファイザーがイギリス政府からせしめた金は20億ポンドにのぼる。これは、国民保健サービスで働く看護師の昨年分の賃上げを6回行えるほどの金額だ。

しかしその一方で、サプライヤー……とりわけそこで働く従業員もまた、独占企業に虐げられている。世界の至るところで、競争規制機関が大企業間で交わされる「賃金調整」や「引き抜き禁止」の協定の存在を明らかにしている。こうした企業は、自分たちの分野の労働者が稼ぐ金額を抑えつけようと共謀しているのだ。労働組合の報告によると、労働者の賃金はアルゴリズムによって決められているのだという。経営者たちは競争相手のいない環境に従業員を閉じ込め、「研修費用」と称して彼らに多額の返済請求を行っているのだ。

独占企業は我々の政府を腐敗させる。巨額の値上げを行う企業は、そこから得たより多くの金をロビー活動に費やせるからだ。世界で上位20位の企業がロビー活動に費やす金額は、アメリカだけで1億5500万ポンドにものぼる。しかも、企業の代わりにロビー活動を行う業界団体に使われる金はここに含まれていない。ロビイストの群れを引き連れるビッグテックGAFAMがロビー活動に費やす金額は、EU圏では82%、合衆国では58%を占めている。

独占企業によるロビー活動が優先する重要事項のひとつは、気候変動対策の妨害だ。電気電子機器廃棄物の大山を築き上げているAppleの「修理する権利」反対活動から、エネルギー企業による再生エネルギー反対活動にいたるまで、こうした妨害は行われてきた。そして、エクソンモービルが650億ドルでパイオニア社(訳注:日本のカーナビメーカーではなくパイオニア・ナチュラル・リソーシズのこと)を買収したり、シェブロンが600億ドルでヘス社を買収したりと、エネルギー企業はさらに独占化が深刻になっている。世界最高の金持ちの多くは化石燃料業界の独占者であり、たとえば、フォーブス誌のリストにおける世界18位および19位の金持ちであるチャールズ・コークとジュリア・コークだ。彼らは気候変動を否定する活動に資産を費やしている。

訳注:日本ではなじみが薄いが、海外(特にアメリカ)では気候変動の事実そのものを否定する人々が存在する。もっとも有名な気候変動否定論者はドナルド・トランプ

億万長者が気候変動に及ぼす影響について人々が語るとき、注目が行きがちなのは彼らの所有するマンションやプライベートジェットが排出するカーボンフットプリントである。しかし、超富裕層が環境に与える真のコストは、彼らがモノポリーから得る収益を使って行う反再生エネルギー・CO2排出容認ロビー活動から生み出されているのだ。

いいニュースは、反モノポリーの流れが来ていることだ。「企業・労働者・農家・消費者および市民社会団体」の連合組織が「めざましい成功を納めた反モノポリー運動」を生み出しているのだ。企業合併や価格のつり上げ、敵対的価格決定、労働虐待、そして過去40年間に人々が被ってきたモノポリーの諸々の悪行に対して、この3年でより多くの規制措置が課せられるようになった。

モノポリーの支持者である経済紙は、リナ・カーン(訳注:バイデン政権で連邦取引委員長を務める、反トラスト法専門の法学者)のような法執行者は何も成し遂げていないと主張する社説を掲載し続けている。ウォール・ストリート・ジャーナルよ、君は正しい。カーンは何も成し遂げていない──だから君は、カーンに関する社説を80件も掲載してきたのだろう。

(実のところ、カーンの実績はヤバい。つい先月にも、4件もの巨大企業合併を差し止めている)

EUとイギリスでは、(反モノポリーに関して)ほんの数年前までは想像できなかったような活動が行われている。カナダでは、トルドー政権が「独占的支配の排斥」ルールをカナダの反トラストの仕組みに追加することを約束したことで、ついに本当の独占禁止法が制定されることになった。

グローバルサウスで起こっている出来事についてはさらに面白い。南アフリカ共和国では、「これまででもっとも革新的なアイデアの一部が独占禁止法に取り入れられている」。この法律は企業合併の決定における公益配慮の一環として、特に「歴史的に不利な状況におかれてきた人たち」を含む幅広い経済参加を積極的に促しているのだ。

「あらゆる巨大な財産の裏には犯罪が潜む」と、バルザックは書いた。きっと、この犯罪記録には反トラスト法違反も含まれていることだろう。独占企業を排除したからといって億万長者が根こそぎいなくなるようなことはありえないにせよ、彼らの大多数はいなくなることはずだ。


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