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決勝に立ち、頂点を狙う - 『THE FINALS βテスト』

バトロワが、好きではない。

いや、好きだったこともある。『フォートナイト』はまだ日本語版がないときから遊んでいたし、『APEX』もランクマが実装されたあたりまでは結構のめり込んでいた。『WARZONE』もそれなりに楽しませてもらった……が。

人は飽きる生き物だ。

15分かけて必死に集めた豪勢な装備が、まずい会敵の仕方をしたばかりに30秒で水の泡になった。自分が下手だから負けたのか運が悪かったから負けたのかもわからずじまいだった。そういう経験を繰り返しているうちに、俺はバトルロイヤルというフォーマットそのものに飽きが来た。それからはカウンターストライクをヒーローシューター調にアレンジしたFPS『VALORANT』に移り住んだ。しかしまあ、コレもいくら大人気とはいえ3年もやってりゃ流石に飽きる。

バトロワでもなく、爆破系でもない。それでいてCODほどジャンクじゃないシューターがやりたい。そう思っているのは俺だけじゃないはずだ。

ここで朗報。先日までオープンβテストが行われていた『THE FINALS』は、そんな贅沢な悩みを解決してくれる神の一手になる……かもしれない。


Welcome to THE FINALS

壁でも床でも破壊して、ドサクサ紛れでカネを手に入れろ。ようこそ、新時代の強盗ハイスト型対戦FPS『THE FINALS』へ。

本作はAPEXよろしく3人で1チームを組み、複数のチームが入り乱れるPvPvPゲームだ。とはいえバトロワほど大人数というわけではなく、マッチングするのは最大でも4チーム=12人となっている。始まってから装備をチマチマ集める必要もない。プレイヤーはライト、ミドル、ヘビーからなる3つのロールと装備一式ロードアウトを選んでマップに飛び込み、どこかにスポーンする金庫を奪い合うという寸法だ。

各チームに名前がつくけれど少し覚えづらい

金庫はただ手に入れるだけでは駄目で、現金化するためにはキャッシュアウトと呼ばれる目的地まで運び、さらに一定時間防衛しなければならない。このタイマーが回っている間は他のチームもキャッシュアウトを奪い放題であり、途中でどれだけキルされても最後の最後にキャッシュアウトを奪えば勝ちを拾える。かくして、刻一刻とカウントダウンの進むキャッシュアウトを巡って金の亡者たちが骨肉の争いを繰り広げる。

なお、今回のオープンβは大好評すぎてマッチングエラーが多発しており、そんな状態でランクマッチを遊ぼうという気にはならなかった。そのため、ここで書くのは3チームで戦うベーシックルール"クイックキャッシュ"に準拠した感想となる。

親のFPSより馴染むFPS

なによりまずは、シューターとしての手触りや操作性……いわゆる"ガンプレイ"について。FPSもアクションゲームのうちだと俺は考えているので、これを話さないことには始まらない。

銃の反動や発砲音、登り降りのスムーズさ、ヒット時やキル時の効果音などガンプレイを左右する要素は多岐に渡るが、『THE FINALS』はそのすべてで合格点を叩き出している。絹のようになめらかで、風のようにスピーディ。打てば響くガンプレイ。APEXやタイタンフォールを経験しているプレイヤーなら理屈ではなく心で理解できる、「動かしているだけで気持ちいい」タイプのFPSだ。

ここで特筆すべきはライト級で使えるグラップリングフックで、APEXより遥かに遠くまで届き、タイタンフォールよりさらに慣性が制御しやすい。この手の曲芸は得意ではない俺でもクレーンを軸に大車輪をキメるスーパープレイができたのだから、手慣れたプレイヤーなら自分の手足のようにグラップリングを扱えるはずだ。

キルタイムについていうと、APEXよりほんの少し短いかな?という感じ。当てさえすればどの武器もワンマガジン以内でキルが取れ、人数有利を取ればまず負けはしないといったいい塩梅になっている。弾丸の当たり判定がデカいのかキャラの喰らい判定がデカいのか、全体的にAPEXより当てやすいのも好印象だった。

本作はすべてが金に還元される資本主義の権化のようなゲームなので、倒された敵は無数のコインとなって消えていく。この「ジャリリーン!!」とコインが散らばるキル音が、かなり爽快でクセになる。考えてみれば、俺がかつてドハマリした『バトルフィールド1』のキル音はコイン的な何かがチャリーンという音だったのだから、それを派手にすればもっと気持ちよくなるのも当たり前か。

キルが重なってチームが一掃されると、今度は「カンカンカン!!!ブブーー!!!!!」とゴングとブザーが高らかに鳴り響く。これは戦況の把握にも役立つし、単純に演出としても気持ちいい。なにか起こるたびにガヤガヤまくしたてる実況音声もいい感じにやかましいので、これは吹替が実装されたらさらにウケそうだ。お祭り騒ぎのブラッドスポーツという設定に忠実な演出の数々で、『THE FINALS』はプレイヤーの興奮を高めてくれている。

勝って実況に褒めてもらおう

義務ロールなし、全員最強

先に述べたように、本作はライト、ミドル、ヘビーの3つのロールに分かれている。最近のヒーローシューターほど細かくはないにせよ、持てる武器から各種ガジェットやスキルまで全然違うので、求められる立ち回りはロールごとに大きく異なってくる。

こうしたロール分けがあるゲームにつきものなのが、「義務ロール問題」だ。これは、VALORANTでいえばスモーク、OWでいえばタンク……つまり、「勝敗に占める比重が大きい/いないと困る割に使っていてあまり楽しくない」ロールが生まれる問題のことを指す。ひどい場合には、義務ロールを使う側と使っていない側で責任を押し付けあうようなことすら起こる。

責任を押し付け合うプレイヤーの図

それでは『THE FINALS』はどうかというと、まずチーム編成に制限がない。必ずしもライトミドルヘビーを揃える必要はなく、全員ライトでも全員ヘビーでも出撃できる。それでいて、こうしたピーキーな編成でも勝てなくはない程度にはどのロールも強いのだ。

初期のAPEXをかじっていた経験上、この手のロール分けがあるとすばしっこいライト級がノロマなヘビー級を食い荒らしたりするのではないかと俺は疑っていた。しかし、本作におけるライト級の体力は150で、ヘビー級はなんと350。実に二倍以上の差だ。具体例を挙げると、ライト級がショットガンの一撃で死ぬところをヘビー級は2発喰らってもまだ立ち続けているくらい違う。なので、ヘビー級と正面からヨーイドンで撃ち合えばライト級は死ぬ。絶対に死ぬ。このβテストで実際にそれをやらかして何度となく死んだ俺が言うのだから間違いない。

吹けば飛ぶようなライト級の強みは、やはりヒットアンドアウェイの撹乱力にある。先に挙げたグラップリングフックは奇襲と逃走の両方に使える万能スキルだし、グラップリングが苦手な人は光学迷彩を使って文字通りのステルスプレイもできる。おあつらえ向きにスタンガンまであるので、「光学迷彩で近寄って背後からスタンガンを一撃、シビれて動けない敵にヘッショをバスバス決めて殺す」などという誉の欠片もない闇討ちが十分すぎるほどに強い。やられるとキレそうになる。キレた。

じゃあヘビーでもライトでもないミドル級はやっぱ器用貧乏なんでしょ?と思う人がいるかもしれないが、ミドル級もめっぽう強い。初期から使えるリボルバーは胴撃ち3発でライト級を沈める豪快な威力を誇り、固有スキルのタレットは索敵範囲・火力ともに優秀なのでキャッシュアウトの近くに適当に置いておくだけでかなりの"圧"を生み出せる。他にもソナーを使った索敵や味方の回復、ジップラインの設置などもできるミドル級は器用貧乏というより器用万能なワンマンアーミーといったほうが正しい。他2つのロールに比べて地味であることは否めないが、全員ミドルのチーム編成はガチガチのガチだ。

どのロールにもしっかりとした長所があり、使っていて「このロール強すぎんか?」と思える瞬間が必ず訪れる。これは、本作のパワーバランスがかなり成功している証左といえるだろう。

自由な破壊は諸刃の剣

ユニークなゲームルールと並ぶ『THE FINALS』のセールスポイントは、トレイラーでも散々強調されていた破壊システムだ。壁でも床でも天井でもバンバン破壊できるし、やろうと思えば建物一棟まるごと更地にできる。もはや説明する必要すらないだろうが本作を手がけるのはバトルフィールドシリーズの元開発者たちで、遊んでいると誇らしげに腕組みをする生産者の顔が目に浮かんでくる。

バトルフィールドと違うのは崩落に巻き込まれてもダメージがないところで、キルそのものが目的ではない対戦ゲームで快適性を担保するという意味でこれは正しい采配だと思う。もし瓦礫にダメージがあったら自分もろとも建物を崩壊させてキルを狙う死にたがりが続出し、労災・ザ・ゲームになっていたことだろう。

屋内のキャッシュアウトを奪い合っているときなどは、当然ながらすさまじい破壊合戦が繰り広げられる。床をブチ抜いてキャッシュアウトを下階に落として強奪しようとするプレイヤーや、逆に天井を壊して上階から集中砲火を浴びせようとするチームなどよりどりみどりだ。オブジェクト主体のゲームルールとうまく噛み合うことで、この自由破壊システムはプレイヤーに邪悪な創造性を促してくれている。そうして、トレーラームービーの魅せプレイのような光景が実際に何度も生み出されるというわけだ。

こういう自由な戦い方ができるのは楽しいけれど、目が回りそうな混乱と表裏一体でもある。粘液グーという石膏みたいな物質で破壊箇所をふさぐこともできるとはいえ、それが完全な徒労に思えるような大破壊が次から次へと生じる。エントロピーが溢れかえったその様子は端的にいってカオスだ。

思うに、この自由破壊システムは諸刃の剣だ。勝てているときはうまく敵をひっかきまわせているような気がして死ぬほど楽しいけれど、負けているときは混沌の荒波に揉まれる小舟のような最悪の気分になる。キャッシュアウトが瓦礫に埋もれてどこからアクセスしたらいいかわからなくなることなんて日常茶飯事だし、実戦ではそこに毒ガスやら火炎瓶がしっちゃかめっちゃかに降り注ぐ地獄絵図が巻き起こる。味方の引き起こした破壊の巻き添えをくらって転落死することすらあるので、正式サービス後は事故を装ったフレンドリーファイヤーが問題になるかもしれない。

味方に足場を壊されて死ぬのは労災案件

ロールの話に巻き戻るが、ここまで読んで自由破壊システムが気に入った人にはヘビー級がオススメだ。

ヘビー級はただ硬いだけでなく破壊に特化したロールでもあり、スレッジハンマーやロケットランチャーといった固有武器を適当に使っているだけで床や壁が発泡スチロールのごとく砕け散っていく。さらにスキルの突進を使えばあらゆる壁と敵をブッ壊しながら走り抜けることもできるので、気分はさながら極道電車ヤクザライナーだ。実際、ヘビー級を使って黙々と解体作業をするプレイヤーをβテスト中に何人か見かけたので、やはり暴力と破壊は人を虜にしている。

突進するヘビー級と轢殺されるライト級の図

結局流行るのかって聞いてんだけど?

『THE FINALS』、個人的にはかなり面白いと思っている。流行ってほしい。

キャッシュアウトを奪っている最中の「いけるか……!?」というドキドキからの奪取成功はアドレナリンがドバドバに噴き出し、思わず声を出さずにはいられない最高の瞬間だ。いってしまえばキャッシュアウト奪取はVALORANTのガチ解除(※敵の排除より爆弾の解除を優先するハイリスク行為のこと)に近く、それを繰り返すこのゲームはしょっぱい試合展開がそもそも起きにくい構造をしている。

また、奇襲を仕掛けてナンボのゲーム性と協力プレイの相性の良さもすばらしい長所だ。ロールごとに得意分野が大きく異なるので、フルパでやるならライトミドルヘビーを揃えて息を合わせるとグッと楽しくなるだろう。そうして遊んでいるうちに、キャッシュアウトを奪っているフレンドの背中を守るといったアツいシーンがごく自然に生まれてくる。声をかけあって掴んだ勝利の味は、APEXに勝るとも劣らない。

なにもかもブッ壊れていく絵面の派手さやギャンブル性の高さ、コミュニケーションゲームとしてのドラマチックな側面を考えると、『THE FINALS』がストリーマーやVtuber経由でバズって大流行するという未来は結構ありえそうだ。

しかし世は大シューター時代。ひしめく競合タイトルを前に、コレ間違いなく・・・・・流行りますよ!と断言できるかといわれたら……それはどうだろう?

まず、ゲームルールがちょっと複雑なのが心配だ。「最後の一人まで生き残れ」というバトロワの明快さに比べると、金庫を奪い合うフェーズとキャッシュアウトを奪い合うフェーズに分かれているのは直感的に理解しにくいところがある。しかも、そこにどう自由破壊システムを活かすかというのもプレイヤーに投げっぱなしだ。もう少しチュートリアルを親切にしてもバチは当たるまい。

そして当然ながら、細かいテクについてゲーム側はほとんど教えてくれない。たとえば、「毒ガスに火炎瓶を投げ込むと引火してガスが消える」という地味に重要な仕様を俺が知ったのは、たまたま自分のプレイ動画を見直していたときのことだ。FPSプレイヤーがそんな化学的な発想をできるなどというナイーブな考えは捨てろ。

デス画面の右下がリスポーン残数(カジュアルなら∞)

ルールについては他にも懸念がある。無限リスポーンのせいでカジュアルマッチが破綻しかけている点だ。本作にはCODでいうキルストリークのようなボーナスがないため、クイックキャッシュルールでは積極的に戦う旨味はほとんどない。したがって、「いい感じのタイミングで奇襲して最後にキャッシュアウトを奪いさえすればいい」という真理に気付いてしまったが最後、金庫フェーズが前戯以下の存在になってしまう。これはわりかし致命的な問題じゃないか?

だったらリスポーン回数が限られ、キルでキャッシュが稼げるランクマッチを遊べばいいんじゃない?とも思うが、今度は『THE FINALS』の持ち味でもあるハチャメチャさが足を引っ張りだす。ランクアップをかけてガチで遊ぶには、このゲームはちょっとカオスすぎるように思えてならない。少なくとも、APEXのランクマを「ランダム性が強すぎる」という理由で投げ出した俺には無理だ。

極めつけに、3人1チームというのが厄介だ。なにしろ、いまのFPSゲーマー界隈では3人集まればAPEXと相場が決まっている。手触りや操作感がなまじ似ていることもあり、「これエペでよくね?」という声を跳ね除けられるかという点にはどうしても不安が残ってしまう。もちろん数試合こなせばこのゲームの魅力に気づけると俺は信じているが、現代人の関心を引くにはちょっと遅すぎるかもしれない。必要なのは丁寧な導線と、初手でゲーマーの脳味噌にガツンとくる旨味だ。

APEXです!と言い張っても通用するかも

実を言うと、俺が『THE FINALS』のβテストに参加するのは今回で二度目だ。

1回目のβテストはAPEXとBFの悪いところをかけあわせたような印象でどうも楽しめなくてすぐにやめたのだが、今回でなぜか一気に面白さがハネた。ゲームの理解度が俺の中で深まったからかもしれないし、細かい調整が入ったからかもしれない。いずれにせよ、もしあなたが次回βテスト(あるかはわからないが)や正式リリース時にこのゲームを遊ぶなら、ルールとセオリーを掴めるくらいには時間をかけて遊んでみてほしい。はじめはピンと来なくても、きっとどこかで変わるから。

さて……ここまで長々と書いてきたが、この大シューター時代における『THE FINALS』の将来性について結論を出そう。

頂点エイペックスを穫るかは五分。
決勝ファイナルズに残る力は十分。

お後がよろしいようで。

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