【アメリカ留学】映画専攻として学べること
この秋、アメリカの大学で3年生になりました。おかげさまで一般教養科目も終わり、時間割も本格的に映画専攻としての授業ばかりになってきました。
そんな中、「映画制作についてアメリカで学ぶ」ということにおいて、想像していた通りだったことや予想外だったことがいくつかありました。
そのため、アメリカで映画制作を学ぶというのは具体的に何を学ぶことなのか、自分の言葉で文章に残しておこうと思い、この投稿をすることにしました。
※あくまで私個人の経験から話すことなので、全ての大学で同じだというわけではありません。私が個人的に最近感じていることをまとめていきます。
映画専攻として学べること
私の専攻は英語でFilm Productionと呼ばれていて、脚本・撮影・編集などを含めた映画制作の手順を全体的に学ぶものです。
そんな中、映画専攻として学べる内容は主に以下の4点に分けられるような気がします。
撮影機材等の使い方
物語の表現方法、演出
コミュニケーション能力
映画の歴史
それではひとつずつ見ていきます。
撮影機材等の使い方
まず、一つ目の項目は撮影機材などについてです。カメラ・照明・マイク・編集ソフトなどを実際に自分達の手で触りながら、それぞれの機能や使い方を学びます。
例として、カメラの場合ならISO感度、被写界深度、シャッタースピード、絞りなどの意味や役割を学び、それらが画面にどんな影響を及ぼすのかを勉強します。
カメラやマイクに限らず、編集ソフトなども機能が沢山あるため、データをうまく整理する方法やより効率的に作業を進めるための工夫なども一緒に教わります。
映画専攻としては当たり前なことなのですが、道具の扱いに慣れるための練習を積み重ねます。
物語の表現方法、演出
そして次が「伝わる物語を作る」ための表現方法や演出です。正直なところ、私はこれを学ぶために留学を決めました。
どんな「画」を作ればどんな雰囲気が生まれるのか、どんな編集をすれば観客は物語をより深く理解できるのか、どんな構成の物語を書けば観客は興味を示してくれるのかなど、「物語をより効果的に伝えること」にフォーカスした勉強です。映画における「文法」を学ぶ、というとわかりやすいかもしれません。
具体例を挙げようとすると沢山あるのですが、ひとつ選べば、脚本テクニックの例として「ドラマティック・アイロニー」というものがあります。これは、「観客が登場人物よりも多くの情報を得ている状態」のことを意味します。
例えば、「パラサイト 半地下の家族」では主人公である貧乏な家族が裕福な家族の豪邸で嘘をつきながら働く物語ですが、裕福な家族のほうは自分達のもとで働いている人間達の持つ「嘘」を全く知りません。そのため、観客はいつこの「嘘」がバレるかと心配し、ハラハラドキドキして物語の行く末を見守ります。
「トイ・ストーリー」なども同じで、映画内のおもちゃがみんな生きていて大冒険をしているなんてことを人間は一切知りません。しかし、映画を見ている観客側はそのおもちゃ達の秘密を知っています。そのため、人間にバレないように行動しようとするおもちゃの姿を見て、観客は一種の緊張感を覚えます。
このように、「観客の知っていることを登場人物が知らない」という状況を作り出すことで、脚本家は物語にドラマチックさを生み出すことができます。これが「ドラマティック・アイロニー」と呼ばれる脚本テクニックです。
映画専攻ではこのように、物語に観客を惹きつけるのに役立つテクニックや観客を混乱させないための演出方法を学ぶことができます。
セオリーやテクニックを学ぶと聞くと、芸術であるはずの映像作品にはまるで「正解」の作り方があるように聞こえるかもしれません。しかし、アメリカで映画制作を学んでいる実感としては「表現方法の正解を学ぶ」というよりも、勉強することで「表現方法の選択肢を広げる」という方が近いように感じます。
決して教授達は「これが正解なんだ」という姿勢では教えません。「こういう方法もあるよ」「こうした方が視聴者にもあなたの言いたいことは伝わるかもよ」という姿勢です。
そのため、表現方法を学ぶのは自分の持っているお道具箱にひとつずつ新しい道具が足されていくような感覚、と捉えてもらうとわかりやすいと思います。
コミュニケーション能力
機材の使い方や表現方法などは、わざわざ学校に行かなくても頑張れば本などから学べるような内容だと思うのですが、コミュニケーションに関しては学校で学んで練習する価値がとても高いものだと思います。
映画制作は、規模が大きくなるほど共同作業によって成り立つものです。大人数で1つの作品を作る際、制作スタッフ同士のコミュニケーションは不可欠です。
ここで言うコミュニケーションとは、会話力や他人に対する思いやりに限りません。チームメートのことを否定せずに相手の作品の改善点を提案する方法や、製作陣に伝わる脚本の書き方、絵コンテの描き方、時間内に撮影現場に現れること、データの整理に至るまで、信頼関係を築きながら作業を進め、スムーズにビジョンを伝え合うために必要なスキル全般を意味します。
そのため、やはり映画専攻の授業ではグループ・プロジェクトが非常に多いですし、教授達からはチームとして働く上での心構えを教えられます。
特に映画業界では一般的な就職とは違い、過去のクラスメート同士で共に働いたり仕事を紹介し合ったりする可能性が大きいので、在学中からクラスメート同士で互いに仲良くしようとするのが一般的です。大学卒業後、性格が悪い人には誰も仕事をオファーしません。
(教授から聴いた話なのですが、過去に教授が教えていた生徒の中にとても非協力的で性格の悪い人がいたらしく、卒業の時期になってその生徒が「一緒に制作に取り組んでくれる人が居ない」と教授に言った途端、教授は「当たり前でしょう。君、性格悪いんだから」って言い放ったそうです。そのエピソードを聞いたとき、クラス中みんなで「わお」ってびっくりしました。でもそれだけ、映画界では良い人であることが大切なんです。)
映画産業はチームメンバー同士の協力無しには成り立たないものであるため、スムーズに共同作業を進めるために必要なマインドセットを形成するのも、映画学校の大切な役割です。
映画の歴史
映画"制作"の専攻といえど、映画の歴史のような座学をやることもあります。映画はあらゆる芸術の中でも比較的新しいものなので歴史としてはとても短いのですが、どのようにして今の映像文化が発展し、形成されていったのかという文脈を学びます。
過去の歴史を学ぶからこそ、いま主流となっているセオリーやテクニックがどう確立されたのかという背景を学ぶことができます。ただやみくもに理論を学ぶのではなく、全てには理由があり、繋がっていて、自分達はその流れの中に居るのだということを知ることができるため、映画の発展の歴史を知るのも大切な勉強だと思います。
まとめ
以上、「映画専攻として学べること」のご紹介でした!
機材の使い方から演出方法、映画の歴史、コミュニケーション能力に至るまで、映画産業で働くために必要な知識やスキルをひとつずつ教えてもらえる環境に身を置くことができて、とても幸せに感じています。
これからも学ぶことがまだまだ沢山ありますが、それぞれのスキルをバランスよく身につけられるよう頑張ります。
それではまた!