ハリウッド式脚本術:長編映画は、複数の短編映画からできている
長編映画の脚本を書くときに脚本家の腕が試されるポイントは、約2時間ものあいだ、いかに絶え間なく観客を物語に惹きつけておけるかです。
10分くらいの短編なら、そこまでアウトラインを作らずに完成させることができるかもしれません。しかし、長編作品を作るとなるとより構造的なアプローチが必要になります。
そのため、多くの脚本家は物語を複数のブロックに分けて構成します。そして、そのひとつひとつのブロックだけを見ても面白いものであることが理想です。
物語を複数のブロックに分けて構造を把握しておけば物語の全体像が見えるため、これは崩壊しない物語を作るのための大切なステップです。
今回は、長編ハリウッド映画は通常どのように分割され、いくつの部分に分けて作られているのか?についてお話しします。
長編映画は、複数の短編映画によってできている
長編映画に取り組む際に「約2時間の物語を作る」と聞くと難しい作業に聞こえますが、「複数の短編映画を作ってそれをつなげて2時間のものを作る」と捉えるとまだできるような気がしてきます。
一つの長編映画の中に、複数の短編映画のブロックが並んでいると考えてください。
この一つ一つのブロックのことを、シークエンスと呼びます。
シークエンスとは、通常8〜15分間のブロックです。以前の記事で脚本執筆の際に決めるべき要素(主人公、欲求、壁)を紹介しましたが、ひとつひとつのシークエンスの中にもそれぞれの主人公、欲求、壁が存在します。
1つのシークエンスの中だけでも起承転結のようなものがある、ということです。
各シークエンスの主人公はそのシークエンスの中で自分の壁に立ち向かい、緊張 (tension) を生み出し、問題を解決しようとします。
前回の記事で述べたように、"緊張感"こそ映画をワクワクさせ、観客を画面に釘付けにするものです。そのため、それぞれのシークエンス内で主人公はそれぞれの問題に直面し、「これから何が起こるんだろう」という緊張感を生みます。
そのため、一つのシークエンスがもうすでに立派な一つの短編映画のようなものなのです。
しかし、シークエンスと実際の短編映画の大きな違いは、シークエンス内の問題は完全には解決しないということです。短編映画は大抵の場合、観客が満足するような終わり方をして完結しますが、シークエンスの中では主人公の問題解決が完全な問題解決には至らず、そこから導き出された結果が新たな問題を引き起こしてしまいます。
そして、その新たな問題を解決しようとすることで次のシークエンスが始まります。
例えば、「トイ・ストーリー」のシークエンス1(00:00~13:40あたり)では、おもちゃの持ち主であるアンディが誕生日パーティーをしています。そしてその間、アンディの子供部屋に居るおもちゃ達は、誕生日プレゼントとしての新しいおもちゃが仲間入りしてくることによって、自分達が捨てられるのではないかと不安がっています。
ここでおもちゃのリーダー的存在、ウッディは仲間のおもちゃ達に「誰も捨てられることはない!」と言い聞かせるのです。しかし結果的にはバズライトイヤーというイケイケなおもちゃが来てしまい、次のシークエンス2(13:40~19:40あたり)へと続きます。
このシークエンス1の主人公はウッディであり、彼は仲間のおもちゃ達を落ち着かせようとするのですが、彼の試みはバズの到来によって半ば失敗に終わるのです。
まさに、主人公が目の前の問題を解決しようとするも思い通りには行かず、新たな問題が浮かび上がってくることで次のシークエンスへと移っています。
経験豊富な脚本家はこうやって、シークエンスとシークエンスの継ぎ目を見えないようにします。
そのため、実は観客が気づかないうちに長編映画は何個もの短編映画からできている、と言うことができるのです。
3幕かつ8シークエンス
映画のストーリーは7個のシークエンスに分けることができると言う人もいれば、5つに分けることができると言う人もいます。日本では起承転結という言葉があるように、4分割できるという考え方もあります。
ハリウッド式の脚本術を以前学んだことがある人にとっては、3幕式が最も馴染み深いかもしれません。これまでも各有名映画大学では3幕式が主流だったそうです。
しかし最近は、3幕と8シークエンスが組み合わさった形が教えられています。
まず脚本は、1ページが映画本編の約1分間に相当するとされています。そのため、約2時間の映画の脚本は約120ページあるのが一般的です。
その120ページを3幕に分けると以下のようになります。
1幕:30ページ
2幕:60ページ
3幕:30ページ
さらに、1幕目の中にはシークエンスが2つ、2幕目には4つ、そして3幕目に2つ存在するとされています。
1幕:15ページ/シークエンス×2シークエンス
2幕:15ページ/シークエンス×4シークエンス
3幕:15ページ/シークエンス×2シークエンス
図にしてみるとこんな感じです。
このページ数やそれぞれの幕・シークエンスの数に関してはさまざまな意見や議論がありますが、少なくとも今の段階ではこれが一般的に教えられている分割方法です。
ドラマと呼ばれるもの(演劇、ラジオドラマ、テレビドラマ、映画など)が過去2500年もの間ずっと1時間半〜3時間の間に収まっているのは、人間の集中力が続くのがそれくらいだからです。
さらに、その中でも10〜15分間のシークエンスのあいだに物語の起伏がなければ、観客・視聴者の関心は遠のいてしまうものだと考えられています。
そのため、今は3幕式に限らず8つのシークエンスに分けて物語を構成する方法がスタンダードになっているのです。
それぞれのシークエンスの役割や性質などについては、今後の記事でさらに詳しく紹介するつもりですので、そちらのほうも是非読んでいただければと思います。
まとめ
長編映画は、短編映画のような小さなシークエンスが集まって構成される。
それぞれのシークエンスにはそれぞれの主人公、問題、解決への試みが存在する。
3幕の映画の中に、8つのシークエンスが存在する
今回はシークエンスの考え方と、一つの長編映画の中にいくつのシークエンスが存在するかを解説しました。
長編映画のアウトラインを考える際に参考にしていただければと思います。
それではまた!