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【脚本・シナリオ】 アイデアが思いつかないとき

大学で脚本の書き方を学び始めて以降、しばらくの間、私はアイデアを思いつくことに苦しんでいた。

「何を書きたい?」と聞かれても、ピンとこない。「来週までに10ページの物語を書いてきてね」と教授に言われるのが、ただただ恐怖だった。映画を作りたいと意気込んで映画学部に入ったのに、自分が何を作りたいのかすら分からないなんて情けない。

そんな私だったが、大学で映画を学び始めて約2年後、卒業制作で大学から脚本賞を受賞することになった。

どうやって脚本アイデアのスランプを抜け出したのか。その過程をここに記録しておこうと思う。

全てのアートは真似から始まる

脚本が得意なクラスメートに、「アイデアってどこから得ているの?」と尋ねたことがある。すると彼は、「好きな物語を参考にして、自分なりのバージョンを作ればいいんだよ」と答えた。

そのときはピンとこなかったが、脚本の授業で与えられた課題を通じて、次第にその意味が分かってきた。

ある日、教授が「グリンチ」の絵本を持ってきた。そして、「この物語の構造を、できるだけ抽象的にまとめてみて」と言う。たとえば、

「意地悪な主人公グリンチが、子どもたちの家に忍び込み、クリスマスプレゼントを盗む」

というストーリーを、もっと抽象化するとこうなる。

「妬みを持つ主人公が、他人の領域に入り込み、妬みの象徴となるものを奪う」

この「抽象化されたプロット」をもとに、新しいキャラクターや設定を当てはめれば、まったく異なる物語が生まれる。

たとえば、

「生徒Aは、先生に気に入られている生徒Bに嫉妬し、Bが先生からもらった賞(皆勤賞など)を奪おうとする」

こうして、物語の「骨組み」はそのままに、異なる要素を組み合わせることで、全く新しいストーリーが作れるのだ。この考え方はとても印象的で、ずっと心に残った。

何も思いつかないのであれば、他の作品を参考にして、自分バージョンを作ってしまえば良いのだ。

盗作とインスピレーションの違い

しかし、他人の作品を参考にするときに気をつけるべきなのは、「盗作」と「インスピレーション」の違いだ。

このトピックについては、ぜひ『Steal Like an Artist(邦題:クリエイティブの授業)』を読んでみてほしい。この本では、「すべてのアートは何かのコピーから生まれる」という視点から、創作における「真似」の重要性を説いている。

著者によれば、盗作とインスピレーションを分ける決定的な違いは、「コピーする対象の数」だという。

・ひとつの作品だけを真似すると、オリジナリティのない盗作になる。
・しかし、複数の作品から要素を取り入れ、それらを自分なりにリミックスすれば、オリジナリティが生まれる。

なぜなら、その過程で「何をコピーして、何を残すか」という取捨選択が行われるからだ。その選択こそが、その人独自の感性を反映し、結果的にオリジナルな作品につながる。

そのため、複数の作品や複数のアーティストを真似している限り、盗作扱いされることは心配しなくてもいいのだ。むしろ、これまでに作られてきた芸術作品は全て、過去の作品から何かしらの影響を受けて誕生していることを認識しなければ、何も始まらない。

アイデアを組み合わせる

ある作家は、次回作のアイデアが浮かばないとき、好きな物語をリスト化し、それらを**「ジャンル」「キャラクター」「テーマ」「プロット」**に分解するそうだ。

たとえば、『スター・ウォーズ』ならこんな感じになる。

ジャンル … 宇宙SF
キャラクター … ルーク、レイア姫、ハン・ソロ
テーマ … 家族、仲間や友人の出会い
プロット … 遥か銀河の彼方で繰り広げられる戦争

同じように、様々な他の物語も要素ごとに分解し、それぞれの要素を別々の作品から組み合わせてみる。

たとえば、

  • 『スター・ウォーズ』の「ジャンル(宇宙SF)」

  • 『高慢と偏見』の「キャラクター(未婚の姉妹たち)」

  • 『ムーラン』の「プロット(家族を守るために男装して軍に入る)」

これらを組み合わせると、

「遠い銀河の彼方で、未婚の姉妹達が暮らしていた。そのうちの一人が家族を守るため、男のふりをして軍隊に忍び込む羽目になる。」

という新しい物語の発想が生まれる。

ひとつの作品を丸ごとコピーすると盗作になるが、複数の作品を組み合わせることで、「○○のパクリ」という印象を避け、独自のアイデアへと昇華できるのだ。

ワクワクするものを書く

アイデアの抽出法を知ったうえで、私にとって次に大切だったのは、「自分がワクワクする物語」を研究することだった。

私は、興味が持てないものには時間をかけられない性格だ。だからこそ、自分の作品にワクワクできなければ、最後まで書き上げるのは難しい。

そこで、まずは「自分が好きな物語」について考え、その理由を掘り下げることにした。

たとえば、私が大好きな映画のひとつ、『ビフォア・サンライズ』。

電車の中で偶然出会った男女が、今日一日だけ一緒に過ごすことを決意し、互いのことも深く知らないまま、次の駅で一緒に降りる。住む場所も目指す先も異なる二人は、明日には別々の道を歩む運命だと知りながら、一日限りの時間をともにする——。

ある人がこの映画について、「ただ2時間、登場人物がダラダラ喋っているだけ」と言っているのを聞いたことがある。確かに、そう見えるかもしれない。

けれど私にとって、この映画の魅力は「終わりが決まっているからこそ、今この瞬間を精一杯楽しもうとする人間の姿やその切なさ」にある。

このことに気がついた私は、「住む場所も目指す場所も異なる二人が、限られた時間を精一杯楽しむ物語」という骨組みをもとに脚本を書くことにした。

「何を」「なぜ」真似するのかをはっきりさせてこそ、好きな作品のいいとこ取りができる。そのため、自分をワクワクさせてくれる作品の、何にワクワクするのかを研究することが大切だ。


まとめ

脚本アイデアに行き詰まったとき、私は次のことを実践した。

  1. 物語の構造を抽象化し、別の要素を当てはめる

  2. 複数の作品を組み合わせ、新しいストーリーを作る

  3. 自分がワクワクする物語の本質を探り、それを軸に執筆する

こうして、大学に入るまで脚本を書いたことのなかった私でも、アイデアに行き詰まることが減り、自分だけの物語を紡ぐことができるようになった。

次に何を書くべきかわからず執筆作業が滞っている人の、参考になれば嬉しい。

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