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「崩壊の淵で、見つめ直す道標」
気まぐれな転職は、人生の羅針盤を狂わせる始まりだった。特に不満があったわけでも、明確な目標があったわけでもない。
ただ、現状を変えたいという漠然とした欲求が、私を新しい環境へと駆り立てた。しかし、それは単なる逃避に過ぎなかった。
転職しても、私の生き方は何も変わらなかった。仕事は適当にこなし、心の隙間を埋めるように遊びに耽溺した。
特に女性関係は、歯止めがきかないほどに乱れていた。
一人の女性と真剣に向き合うことをせず、複数の女性と同時に関係を持つことが当たり前になっていた。
「好き」という感情よりも、「楽しい」という快楽を優先する、浅はかな恋愛ごっこを繰り返していた。
当然、そんな関係が長く続くはずもない。
6年という歳月を共にした彼女は、ついに私に見切りをつけた。
彼女の浮気が発覚した時、裏切られたという感情が私を襲った。
しかし、それは自業自得だった。私が彼女に重ねてきた裏切りを、彼女は私に返しただけだった。
それでも、別れの際には深い虚無感に襲われた。
6年という時間が、砂のように指の間からこぼれ落ちていく感覚。
その空虚さを埋めるように、私はまた別の女性と遊び始めた。
まるで、壊れたレコードのように、同じ過ちを繰り返していた。
金がなくなると、平気でキャッシュカードに手を伸ばした。
借金に対する抵抗感は麻痺していた。「働けば返せる」という安易な考えが、私をさらに堕落させた。
返済よりも遊びを優先し、カードの残高は常に限界まで膨らんでいった。
そんな自堕落な生活を送っていたある日、母が突然倒れた。
脳幹血腫という診断が、無情にも突きつけられた。
意識不明のまま病院に運ばれた母に、医者は回復の見込みはほぼないと告げた。
現実を受け止めきれず、私はただ立ち尽くすしかなかった。
母の不在は、我が家の根幹を揺るがした。母は、家庭の要だった。
昔から仲の悪い父と私を繋ぎ止め、家族としての形を維持していたのは、紛れもなく母の存在だった。
その母が倒れたことで、父と二人きりの生活が始まった。
最初は、お互いに距離を置き、必要最低限の会話しか交わさなかった。
しかし、次第に、母がいかに多くのことを担っていたかを痛感した。
炊事、洗濯、家計の管理…その全てを母が行っていた。
私たちは、まるで生活能力のない子供のようだった。
そんな状況下で、信じられない出来事が起こった。
父が、母が倒れた間もないというのに、浮気相手を家に連れ込んだのだ。
平然と笑いながら話す二人の姿を見て、怒りで体が震えた。
「お前に、母を悲しませる資格があるのか?」と、心の底から叫びたかった。
父への憎しみは、かつてないほどに膨れ上がった。
元々険悪だった関係は、修復不可能なほどに悪化した。
母の不在は、家族の崩壊を露呈させた。
この時、私は人生のどん底にいた。自分がどう生きるべきか、その答えはまだ見つけられていなかった。
ただ、このままではいけないという、微かな光が胸の奥で灯り始めた。
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