#12 本屋メガホン/和田拓海
「小さな声を大きく届ける本屋」を標榜する本屋メガホン。岐阜市の岐阜柳ヶ瀬商店街にあるシェアスペース、デイリーコヤナギの1階に2025年4月まで実店舗を構え、月に2、3度のみオープンしている。セクシャルマイノリティや障害者、フェミニズムなど、社会の周縁に追いやられていないことにされてきた人たちについて書かれた本をメインに扱う。決して取り扱い冊数は多くはないが、どれもが店主の和田拓海さんが選び抜いたことがわかる純度の高さが、品揃えからひしひしと伝わってくる。自身が感じるモヤモヤをZineに昇華させ、販売と流通も行いながら持続可能な本屋のあり方を探り続けている姿が印象的で、本屋の形自体を問い直すような柔軟な考え方に触れられた。
Interview & Text by Kaori Takayama
モヤモヤを代わりに言語化してくれて救われた、
と感じるのはきっと自分だけじゃない
NC:本屋を始めた大きなきっかけに、名古屋のTOUTEN BOOKSTOREで出合った少年アヤさんの『ぼくをくるむ人生から、にげないでみた1年の記録』があるんですよね。当時和田さんはどんなことにモヤモヤや怒りを感じていたんですか?
和田:自分で初めてつくったZineの『透明人間さよなら』に書いたのですが、今までゲイとして生きてきて、一緒に住んでいるパートナーのことを友だちだと嘘をついたり、一緒に住んでいるのに一人暮らしと言ったり、当時そういうフラストレーションが溜まっていて。そんなときになんとなく手に取って、読んでみたら引き込まれた自分がいました。感じていたモヤモヤと、書かれていることがちょうど重なる部分が多くて。マイノリティとして生きることで抱えさせられる違和感やモヤモヤみたいなものって、自ら言語化するには体力が必要なんです。社会的な構造や身の回りの環境によっても、そこで向き合って髄まで深く潜り込んで考えないといけない部分もある。だからモヤモヤはしているけど言語化まではできていないところを、同じような違和感を感じている人が代わりに言語化してくれたように感じたというか。勝手に受け取っているだけなんですけど、体験としてすごく新鮮で、こういう救われ方もあるなと初めて思いました。
NC:言葉によって救われたんですね。それまではこのような本は手に取っていなかったんですか?
和田:当時は、マイノリティの人が書いたエッセイを読んでしまうと当事者性が強すぎてくらいすぎてしまうようなところがあったので、あまり手に取る機会は多くなかった。『ぼくをくるむ人生から、~』はたまたま手に取っちゃって、読んでしまって。自分のモヤモヤを代わりに言語化してくれて救われたと感じるのはきっと自分だけじゃないだろうなと思いました。自分がそうだったようにそういう本を読んで自分も何か書いてみようと考えるきっかけになることってあるよな、とも感じました。だからこそ、そのような本が気軽に手に取れる本屋という形でやってみたいと思うようになりました。
NC:それまで抱えていたモヤモヤについて、パートナーの方や同じような境遇の方と話す機会はなかったんですか?
和田:そういう機会があったらまた違う道があったのかもしれないですが、自分はあまりなくて。そもそも、出会う機会も少なくて、恋愛や性愛的な関係なしで純粋にモヤモヤを共有できる人や、いろんな前提をすっ飛ばしてお互いのモヤモヤしている部分だけを感受しあって喋れる関係性の人を見つけるのが難しいですし。
NC:だからこそ本に出会ってすごく新鮮だったということだったんですね。「たまたま自分にできることが本屋であって、形はなんでもよかった」と過去に書いていましたが、なぜ本屋を始めようと思ったのかを聞かせてください。
和田:読書家というほど読んではいなかったのですが、昔から本は好きでした。始めるときに考えたのは、本屋だけをやるというよりは、自分でZineをつくって売ることを同時にやったほうがいいだろうなと。モヤモヤしていることを言語化してZineとして公開してみたい、というのが先にありました。本屋とZineをつくることをセットで考えていたことが大きかったかもしれないですね。
NC:本が好きだったということですが、これまでに影響を受けてきた本や雑誌などはありましたか?
和田:大学院生の頃からよく読むようになったのですが、小沼理さんの『1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい』は自分が『透明人間さよなら』をつくることを通してやりたいことを地でやっているように感じたところがありました。日記本が結構好きで、日記って書くという行為の局地にあるなと思っていて。他には植本一子さんの日記も好きです。自分のことについて書く面白さと暴力性についても考えさせられる。違和感やモヤモヤしていることを率直に表現している文体というか。書くことってなんだろう、みたいなことを日記本を読みながら考えることが多いですね。
NC:「書くことってなんだろう」という思いが、Zineをつくることにつながったのでしょうか?
和田:マイノリティとして生きている人が日々考えていることや出来事が記録されたものが、できるだけいろんなバリエーションであったほうがいいなと思っていて。いろいろな属性や環境、都市や地方などで多様な生活をしている人が、さまざまな形式や媒体で自分のことについて書いている、というように。そんなひらかれたバリエーションを増やすために、自分もZineをつくってみようという道筋でした。
無理しない、やりたくないことをやらない
NC:実店舗を開店する前に完成した1作目『透明人間さよなら』を、京都の文学フリマで販売されたそうですね。
和田:最初の対面販売だったのですが、買ってくれる人が多かったり、「自分もセクシャルマイノリティで」と話しかけてくれる人もいてびっくりしました。こんなに声をかけてくれるものなんだ……と。自分のことを赤裸々に書いているZineがお客さんとの間に挟まっているから、話しかけやすいんだろうなとは感じるんですけど。本屋の店主と商品を買う人という関係性がはっきりしていて、今回1回しか会わないし、みたいなところもあったかもしれないですね。
NC:Zineの卸先も国内に幅広くありますよね。どうやって開拓していきましたか?
和田:独立系書店を狙ってひたすらメールを送って、返ってきたところに卸させてもらいました。1作目は装丁が変わっていたこともあり、思っていたより仕入れてもらえたなと感じました。
NC:クリップを使って冊子を綴じていましたよね。1作目は何冊つくったのですか?
和田:685部です。印刷して断裁してクリップで綴じるまでを手製本でやりました。
NC:完全に手製本だったんですね。誰かに製本を手伝ってもらったりはしなかったんですか?
和田:全部一人でやりました。さすがにしんどくなったので、新装版では印刷会社に空綴じで納品してもらったものを最後にクリップで綴じる形にしました。
NC:実店舗を始めた頃は100~200タイトルを揃えていたそうですね。1年半ほど経ったいまの在庫はどのくらいですか?
和田:だいぶ増えていて、倍くらいにはなっています。200~300冊くらいはあると思います。
完全にインディペンデントとして存在し、オルタナティブな出版の形を模索し続けます。