#9 港まちアートブックフェア/吉田有里・青田真也
本を通じて人と人、人と町、町とアートのつながりをつくるために始まった〈港まちアートブックフェア〉。2021年から年に一度、名古屋の港まちにある「港まちポットラックビル」で開催されている。他のブックフェアとは異なり、2~3ヵ月間の会期が設けられ、入場料も参加費も無料。そして、非対面の形式で行なわれている。開催のきっかけやこれまでに生まれたつながりについて、プロジェクトに関わる吉田有里さんと青田真也さんに話を聞いた。
Photography by Masami Fujii, MAT, Nagoya
アートを取り入れたまちづくり
NC:港まちアートブックフェアは、型がなくて自由で、他のブックフェアでは見られない本やアーティストと出会えるところがいいなと思っています。お二人が企画に関わるようになったきっかけなどを教えてください。名古屋にゆかりがあったのですか?
吉田:私はもともと横浜にいてBankART1929で展示などの仕事をしていたのですが、あいちトリエンナーレ2010を担当することになり名古屋へ移住しました。2010年と2013年の開催を終え、仕事の契約も切れたので関東へ帰ろうかなと思っていたときに、港まちでまちづくりを行なっている港まちづくり協議会で何かやりませんかと声をかけていただいたことが最初のきっかけです。
青田:僕は京都の大学を出た後、愛知県内の大学院へ通うために名古屋へ来ました。修了するタイミングであいちトリエンナーレが始まり、2009年のプレイベントから出てほしいと言われて。関西に戻ろうかなと思っていたけれど、なんとなくそのまま名古屋に残りました。
吉田:青田さんは2010年に開催された第1回あいちトリエンナーレにも出品作家として参加して、2013年の第2回ではL PACK.というアーティストユニットと共同でビジターセンターとスタンドカフェを備えたスペースをつくってくれて。そこで、青田さんが場づくりのプロジェクトのアイデアをかたちにしていたので、私がまちづくりの事務所に入ってアートのプログラムをやろうとしたときに、青田さんとアートマネージャーの野田智子さんを誘いました。そこで港まちづくり協議会が母体となり、港まちポットラックビルを拠点にその周辺をフィールドにしたアートプログラム・Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT Nagoya]を立ち上げました。野田さんは名古屋から引っ越したので、途中から企画は青田さんと私、その他のスタッフとともに進めていく体制でやっています。
青田:2010年にあいちトリエンナーレに参加したときに、地元のアーティスト、他の地域から来るアーティストや関係者、町の人、お客さんがバラバラなことが気になったんですよね。もっといろんな人が交流できる場所を自分たちでつくったらいいんじゃないか、地元のアーティストや町の人にも還元されたらいいのになと思って、L PACK.と「NAKAYOSI」というグループをつくって、VISITOR CENTER AND STAND CAFEを会期中だけの期間限定でオープンしました。
NC:そもそも名古屋港エリアでアートのプロジェクトが始まったきっかけはあるんですか?
吉田:港まちづくり協議会は2006年からボートピア名古屋の予算を使ったまちづくりの活動としてスタートしました。最初は防災訓練やお祭りをしていたのですが、まちづくりのヴィジョンを持って活動しようということで、2013年に「み(ん)なとまちVISION BOOK」というまちづくりのシナリオをつくったんです。そこには、空き家を活用したりクリエイティブなことをしたり、アートを取り入れたまちづくりをしようということを書いていて。まずは、アートの事業を主軸にデザインや建築とも結びつくような拠点をつくろうということで、2015年に港まちポットラックビルをオープンしました。私がアートのプログラムの担当になったのは、2014年の春です。
NC:最初からブックフェアの構想はあったのですか?
吉田:アートブックフェアについては、2020年のコロナ禍に文化庁が緊急支援でアーティストに助成金を出していたじゃないですか。それで多くのアーティストがプロモーションのために自分のアーティストブックをつくって、それらを港まちポットラックビルに寄贈してくれたんです。すばらしい本の数々を私たちがもらうだけではもったいないからお披露目の機会をつくろうということになり、対面型ではないブックフェアであればいろいろな人に見てもらえるし、お客さんは購入して手元に持ち帰れる楽しみもあると考えたことがきっかけです。
吉田:コロナ禍のまっただ中ということもあり、週末だけ開催して集中的に人が集まるというよりは、会期を長めにして分散型にすればできるのかなと企画しはじめたことを覚えています。
NC:コロナの時期を経て必然的に今のかたちになったのですね。
吉田:そうですね。でも、コロナ禍以前にもアートブックを紹介する展示はしていました。アーティストの渡辺英司さんと「リトルビークル」といって本を小さな乗りものと捉えた展示をしたり、2016年のアッセンブリッジ・ナゴヤではCoracleというアートブックをつくっているリトルプレスの2人をアイルランドから招聘したり。本にまつわる展示はそれまでもいくつかやっていました。
NC:コロナ禍が落ち着いた今も非対面型を続けている理由はありますか?
吉田:コロナの規制がなくなったから対面型にしてもいいのかもしれないですけど、港まちポットラックビルの運営上スタッフがいて販売を代行できるシステムもありますし、遠くから参加しているアーティストもいるので。現状のまま続けてもいいのかなと思っています。
NC:東京アートブックフェアかもそうですけど、ブースの前に立つと出店されている方はせっかく来てくれたからと話しかけるじゃないですか。僕はどんな内容か知らない状態ですし集中して本と接したいので、話しかけられることが少し億劫だと思っていたんです。でも、港まちアートブックフェアでは自分のペースで読めて良かったです。
完全にインディペンデントとして存在し、オルタナティブな出版の形を模索し続けます。