【歌詞検討#5】東京事変 ”閃光少女”
今回は、東京事変の『閃光少女』の歌詞について、私が感じたことを記事にします。
楽曲名:閃光少女
作詞:椎名林檎
作曲:亀田誠治
リリース:2007年11月21日
初めて聞いて、そのカッコよさに衝撃を受けた曲です。今回も例になく歌詞を覗いていきます。他の方の考察も少し読んだので、読みやすかったものをご参考までに置いておきます。私の検討とどう違うのか等、読み比べるのも面白いかもしれませんね。
この曲は徹底して、”今”に焦点を当てています。今という瞬間を、味わい尽くすことにこだわり抜いている楽曲です。
「昨日の予想が感度を奪うわ」という表現は流石というしかないですね。これを3行目に持ってこれるのがすごいです。”今”という瞬間を損なわせないために必要と思われる条件をしっかりと把握しているが故の作詞能力であり、その見事な咀嚼力には、脱帽します。ここのメッセージは、”先回りしないで”の歌詞で収まることなのですが、先回りをするということがいかにもったいないことであるかについて表現するのに長けているといいますか、しつこく訴えることが聞き手に与える効果をうまく活用していて、見事です。”感度を奪う”っていいですね、免疫なんかつけずに、準備なんてせずに、ネタバレなんかされずに、”今”に晒されろ、という強力なメッセージを感じます。
今度は先を考えるな系ですね。今に集中するために必要な条件ともいえるでしょう。”電池を取っておこう”と思うことは邪念であり、完全に今に全額投資できていないことを意味しています。このように今について考えろ、先のことを考えるな、というメッセージはAメロにて表現された、昨日についての言及と表裏一体です。仮に”今”にずっと集中する=最高値を維持したまま一日を終えることになったとしたら、それは次の日の先回りができていないことにもなります。同時に、先回りせず予想もしないことが次の”今”の刺激をより最大化するというロジックが組み立てられているのです。この大層な循環構造。SUPER BEAVERの「ひたむき」でも似たような歌詞が出てきます。「いつだって今が人生のピーク」。常に感度全開で生きていきましょう、という意味に捉えることができそうです。
閃くには三つ意味があります。①一瞬するどく光る。きらめく②旗などがひらひらと揺れ動く。また、火が揺れ動く。③考えや思いが瞬間的に思い浮かぶ。(goo辞書より)私含めて多くの人が③の意味でしか使ったことがないのではないでしょうか。”貴方の今に閃きたい”、よくある表現で言おうとすれば、脳裏に焼き付ける、みたいになるのかもしれません。それを五感をもってその場にいてくれれば、閃いてあなたの今という瞬間に、刹那のエネルギーを送り、使い果たしてあげるわと表現することで、椎名林檎らしいかっこよさが強烈に際立ちます。細かいことではありますが、”貴方””お出で”みたいなところをきちんと漢字表記にするのが、歌詞を味わう人を尊重している感じがしてとても私は好みです。今でもそうなのかわからないのですが、私が見ていたころのMステでは、椎名林檎が歌う楽曲はいつも手書きの歌詞が表示されていて、自筆で記述していることにこだわりを持っている印象を受けながら聞いていた過去を思い出しました。
こここそが、”いつだって今が人生のピーク”とぴったり重なるところかもしれません。過去のことを考える必要ないといった手前、過去との比較が登場するのは驚きましたが、これは、実際に比較を通じて得ている実感というよりも、言い聞かせのような、寧ろ比較をしてないが故の自信みたいなものも感じます。一方で、後半戦は少々表現したいことが難解で明確にはわかりませんでした。これはあくまで私の予想ですが、”生きているうちに”ということで、我々の常識の一歩下を行く疑問を敢えてしておいて、”呼吸や鼓動が大きく聞こえる”ことの”生の実感”を強調してくれているのかなと私は考えました。常識の一歩下というのはつまり、私たちが常識的に理解していることにあえて問いのまなざしを向けて、その当たり前に異なる側面を与える、あるいは改めてその常識を強化するという役割を果たしています。「生きているうちに」という歌詞に対して、生きているから、呼吸も、鼓動も聞こえるのでは?という生物学的なマジレスをすることもできると思います。しかしここでは、普段日常をただ生きていて呼吸・鼓動が大きく聞こえることなどないという経験的常識を前提にした歌詞ということもできそうです。その中で、「生きているうちに」と敢えて言うことで、聞き手は生きているからこそ息を吸うのだという意識が芽生え、自身の常識を再確認することになります。さらに大きく聞こえる場面=全力で走っている場面を想起させ、そこで躍動していることが何よりも”生の瞬間”であることを思い出させる効果もあると思っています。
命を燃やし、”貴方”という代名詞で存在している私たちの”今”という瞬間を強烈な印象に仕立て上げようとする意志を感じます。”これが最期だって光っていたい”。ずっと一貫して、全力で生き抜いて、そのまま死んでも構わないというメッセージを書ききった作品でした。そしてそれは”魅力”という概念の本質でもあると思います。やはり人が強烈に心惹かれるのは、波風絶たない穏やかな存在ではなく、刹那的で、鮮やかで、焼き付いているものだと思います。そして再現性がないことの方が多いのではないでしょうか。若さとか、青春とか、空腹時の一口目とか、面白いものに最初に出会った時の衝撃とか。あれを超える出来事はない、と断言できる物事はいつだって、リミットがあったはずです。しかし、その一瞬が一生ものになることもあるのです。せっかくの命を、有限性の時間の中で、時が来るまで待つのはナンセンスなのです。今という瞬間に徹底的にこだわり、後先考えなかった先にある、”一生”を常に探していきたいと感じられた一曲になりました。
この曲は歌っていても気持ちよく、平均的な楽曲よりも短くできているので、カラオケではもってこいの楽曲でもあります。これを最初に歌うことで無駄な時間を過ごさずに今の良さを追求できると思いました。
ではまた次回の記事でお会いしましょう。