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【あの川の注ぐところ】 #1:仁淀川


はじめに

 ご無沙汰しております。
 突然ですが、皆さまは自分の街に流れている川の河口がどんな場所か、ご存知でしょうか。
よく慣れ親しんだ川。そういえば河口ってどん場所なんだろうか。源流が取り上げられることがあっても河口はあまりないような(あくまでも主観)イメージがあります。どうせ海でしょ?と。
 実際のところはどんな風景が広がっていて、なにをしている人がいるのか。自分の目で確かめてみたくなりました。




仁淀川について

 水源地:石鎚山(愛媛県)
 河口所在地:高知県高知市
 流出先:土佐湾(太平洋)
 延長:124㎞
 流域面積:1,560㎢

 仁淀川——四万十川と並ぶ高知の清流、"仁淀ブルー"のキャッチコピーを聞いたことのある方も居られるのではないでしょうか。近年では、細田守監督映画『竜とそばかすの姫』において主人公、すずの生まれ育った町として流域の越智町(浅尾沈下橋)が登場しました。 




ぼくと仁淀川

 その美しさから雑誌・SNSや映画で取り上げられることが多くなってきた仁淀川ですが、ぼくと仁淀川との出会いは十数年前に遡ります。
 きっかけは一冊の小説でした。著者名は、有川浩——ご存知の方はすでにタイトルが思い浮かんでいることでしょう。
そう。タイトルは、『空の中』——ぼくと有川浩のファーストコンタクトであり、小説家・有川浩の二作目となる作品にして自衛隊三部作と称される初期三部作の一部です。この小説との出会いから有川浩作品へのめり込むようになっていきました。

”自衛隊の戦闘機パイロットを父にもつ主人公の少年、斉木瞬(さいき しゅん)はある日、飛行中に謎の爆発事故で父を失う。事故とほぼ同じくして彼は浜辺で謎の生命体と出会い、「フェイク」と名付けて飼い始める。謎の爆発事故と謎の生命体、二つの謎とそれに関わる人たちはやがて交じり合い、ある場所へと集まっていく——。”

『空の中』あらすじ

 物語の冒頭で主人公の瞬は、父の操縦するイーグルを見送るべく仁淀川の河口へ足を運び、そしてフェイクと出会います。この物語を何度も読み返すたび、仁淀が太平洋へと注ぐその場所に、足を運んでみたいと思うようになっていました。今のように”聖地巡礼”という言葉がポピュラーでない時代。その願いが叶えられるまでは随分と時間がかかりました。


仁淀へ

 実は訪れたのは昨年三月。気がつくと一年半も経っていました。
 河口脇には南風新居地区観光交流施設というものがあり、道の駅のような役割を果たしています。ここへ車を停めてから目の前の防波堤の向こう側へと向かいます。

新居海岸堤防
階段をのぼり、そして降りて砂浜へ。
どこまでも続く土佐湾。
砂浜と呼ぶには少し粒度の荒く、浅黒い浜。
ミゾソバだろうか。ピンク色の花を咲かせた草が辺りを覆っていた。
正面奥の方にうっすらと高知市街地が見える。

 浜辺は段丘様になっており、距離以上に遠い道のり。はやる気持ちを抑えながら歩きます。

仁淀と太平洋の交錯点

 そして、ようやく河口のその場所へ。
 左手からはたゆまなく太平洋へ注ぐ仁淀がうねりをつくり、右手からは断続的に寄せては返す波音が繰り返されます。

仁淀川河口大橋

 眼前の大海原など我関せずと言うように、仁淀は滔々と流れる。けれども、圧倒的なボリュームをもって耳を支配するのは波の音で、ここが紛れもなく仁淀の注ぐところなのだと教えてきます。

前項ほぼ同じ場所から右を向く。

 どれくらい立ち尽くしていたでしょうか。ただ、寄せる波のボリュームと仁淀の静けさはよく覚えています。幾年も焦がれた場所に辿り着いたことの実感には、しばらく時間が必要でした。


さいごに

 波による侵食や浚渫工事の影響で、たびたび河口の地形は変わっているようです。瞬が青空を見上げたあの浜辺も、ぼくがようやく辿り着いた浜辺も、そして今この瞬間の浜辺も、すべて違った形をしていることでしょう。ですが、みな等しく仁淀の注ぐところ。違わぬ川の流れと、それを飲み込む大海原。その美しさゆえ、上流・中流域が取り沙汰されることが多いようですが、ぜひこちらも足を運んで頂きたいと思います。


 今回は高知県高知市、仁淀川の河口からお送りしました。
 また日本のどこかでお会いしましょう。それでは、また今度。


あとがき

熱量多めの今回がイレギュラーです。
次回以降はもっとドライに紹介することになるでしょう。引き続きお付き合いいただければと思います。

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