レジデンシーやフェローシップの後のキャリアパスについて
レジデンシーやフェローシップの後のキャリアパスはどうなっているのかという質問を頂くことが増えてきた気がする。また、それに関連した講演会に呼んでもらう機会も最近多い気がする。このNoteの中で触れたこともあるのかもしれないが、簡単にまとめようと思う。ただし、神経内科のことしか分からない。
基本的には3つのパターンと考えることが多いかと。
1)アカデミア
2)プライベート
3)インダストリー
1)アカデミア
アカデミアとは具体的に言えば、大学病院などのことで、診療、研究、教育を柱としている施設。私が現在働いているポストはここに当たる。
日本との違いとして面白い点は、自分でどのキャリアトラックを選ぶかを決めることができる点かもしれない。
キャリアトラックとは、自分がどのような医師になっていきたいかとも関連していて、例えばリサーチャートラック(Researcher Track)、クリニカルエデュケータートラック(Clinical Educator Track)、クリニシャントラック(Clinician Track)というのが一般的な選択肢かと。それぞれによって、昇進に必要とされる条件が異なっていて、Researcher Trackならリサーチ関連の業績(グラント、論文、学会発表など)、Clinical Educator Trackなら学生やレジデント、フェローへの教育や学会を通した教育活動などを評価とされる。最後のClinician Trackはもはやアカデミアではない?と言う声も聞くけれど、患者さんをどれくらい診たか、患者さんから評判などが評価の対象になるよう。あまり詳しいことは知らないのだけれど、プライベート型のところでももう一度触れる。
また、どのトラックを選ぶかでどのくらいの時間を患者診療に充てるかを決める方法が変わる。どういうことか説明する。
例えば、Researcher Trackを選んだ場合は、自分でグラントをもってきて、診療時間を“買う”必要がある。グラントとは日本でいう科研費に近い、研究の助成金。本来は大学は週5日働いて欲しいけれど、もし大きなグラントで自分の大学からの給与の半分をカバーできるとしたら、週2.5日だけ患者さんを診て、残りはリサーチに費やすという形がとれる。グラントの額が大きくなってこれば、自分の診療時間をもっと買うこともできるし、新しく人を雇って自分の研究をもっと推進していくこともできる。もちろん、グラントを取り続けないといけないプレッシャーはあるけど、研究の時間を確保できるのは良いと思う。また、臨床医としてこのトラックを選ぶ、別の意味でいい点は、もしグラントを取れなかったら臨床に戻ればよいという点かもしれない。
Clinical Educator Trackの場合は、自分の診療時間をレジデントプログラムディレクター(責任者)や、学生教育の責任者になることで“買う”形になる。Researcher Trackでグラントも取るのは大変だけど、このディレクター的なポジションは枠が少ないので(各科に一つ)、競争以前に誰かが退任するのを待たないといけない部分もあり、このトラックの人の多くは診療に多くの時間を割いている印象がある。
2)プライベート
自分が働いたことがないので、あまり詳しいことは分からないのだけど、基本的には基本給+出来高という形で、ひたすら患者さんを診るのが役割。自分が神経内科であれば、神経内科の患者さんのみを診ることになるし、フェローシップでさらに細かい専門性を付ければ、それに応じた患者さん層をみることになる。臨床が好きな人には向いていると思うが、診療時間がアカデミアほどとれないので、深く診るのが好きだとあまり楽しめないのかという印象もある。アカデミアのClinician Trackはこれとよく似ていると思う。
3)インダストリー
レジデントやフェローシップを終わってすぐにインダストリーに行く人は少ないと思う。インダストリーというと、製薬会社を指すことが多く、基本的には新薬開発に携わるのが仕事。
日本だとまだClinical Developmentに特化したPharmaceutical Physicianのキャリアパスは確立してない部分もあるけれど、米国では国際共同治験のプロトコールを作成したり、FDAなどと議論したり、治験を運営する責任者としてトラブルシューティングしたりして、働く形が多いと思う。もちろん病気についての知識もだけど、統計、薬理、法律などに通じていることが望ましい。もちろん、その分野の専門家レベルまで行くには何個もPhD取らないといけなくなってしまうけど、少なくとも彼/彼女らと議論して、納得できるベストの選択をできるレベルまでの知識は必要だと思う。
その上で、対象疾患をカバーする専門医を持ったうえで、Clinical Trialの経験があることが必要なことが多い。そうではなくとも、その他にも働き方は色々なパターンがあるが(Medical Affair, Pharmacovigilanceなどなど)、これはまた別の機会に触れたいと思う。