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「疲労感」にマスクされる重症筋無力症

「腰が痛かったのがよくなりました。背筋がすっと伸びましたよ」


接骨院での会話ではありません。脳神経内科外来で重症筋無力症の患者さんの治療後の言葉です。


重症筋無力症とは、神経筋接合部疾患といわれ、典型的な症状としてはまぶたがさがる、眼球が動かしづらく二重にみえる、首や四肢の筋力低下を来すなどがあります。

問題となるのは、特徴としての「易疲労性」についてです。
これは例えば、握力を10回連続で測定すると握力が極端に低下してきます。1回目30kgの握力が10回目には5-10kgまで低下してきます。また会話も最初はしゃべりやすく、1-2分しゃべっているとだんだん呂律がまわりづらくなります。こういった症状を「易疲労性」とよび、重症筋無力症の特徴となります。

患者さんの中には、重症筋無力症としらず、疲労感を年のせいということで生活している方がいます。
最近、「日本の疲労状況2024」をインターネットでみました。以下の図は抜粋です。


日本リカバリー協会HP参照

疲れているかどうかと問われて、全く疲れがないと答えるかというと疑問ですが、それでも80%程度はなんらかの疲労を感じて生活しているということになります。いいか悪いかは別として、疲労を感じていることは当たり前といえます。

重症筋無力症は、その診断のための検査をしてもはっきりと陽性とでない場合があります。その場合は、症状から診断をすることになります。
目が動かなくて二重にみえるといった症状であれば、これは明らかに疲労では説明がつかないので、患者さんが外来にこられて症状を言われることが多いです。

ただし、パソコンでつかれてくるとまぶたがさがる、ちょっと二重にみえるや、肩から腰にかけてだるいといった症状だと、患者さんが年のせいと考えていて、なかなか自覚症状として意識しないことがあります。
治療後症状が改善した後に、「これも重症筋無力症の症状だったんですね」と言われ、そのあとに最初に記載した言葉がでてきました。

重症筋無力症は、最近様々な分子標的薬が出現し治療法を検討することができるようになりましたが、そればかりが議論されていてはいけないと思いました。
検査や治療薬などのハード面の開発は非常に重要と思われますが、一方で重症筋無力症と診断する医師の臨床能力といったソフト面の向上なくして、重症筋無力症の治療は成立しないと思いました。

患者さんの言葉で、はっとさせられることがあります。
時に外来や病棟で患者さんやご家族から感謝の言葉をいただいたり、気軽に声をかけてもらったときに、ほっとして頑張れることが多いです。

患者さんの自覚症状をしっかり把握できるように努力したいと思いました。


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