脳卒中後に不随意運動がでることがある
脳梗塞発症直後より片側性に不随意運動 を呈した患者さんを経験しました。当初は上肢をなげだすような動きがありヘミバリズムと思える動きでしたが、遠位優位に上肢を中心とした動きで、軽度捻転する動きもあり、舞踏アテトーゼと考えました。1週間ほどで症状はほぼ改善し、意識した際や少し動いたときにわずかに出現する程度で日常生活は問題なくすごせるようになりました。
治療として血栓回収療法を施行した患者さんで、左島周囲にDWIで高信号が残存した方です。驚いたことに、基底核領域には梗塞像は認めませんでした。不随意運動を発症した患者さんはあまり経験したことがなく、今回脳梗塞後の不随意運動について調べました。
前向きコホート研究(Eugenio Espejo Hospital Stroke Registry)で、
1500名の脳梗塞の患者さんから56人に不随意運動がみられました。発症後1年以上followし、不随意運動の特徴と局所解剖との関連などが報告されています。
不随意運動type
舞踏運動(Chorea): 不規則、突発的で短時間、非反復性
ジストニア(Dystonia): 持続する筋肉の収縮、時折捻転と反復する動作もしくは異常な姿位
振戦(Tremor): 規則的なふるえ
パーキンソニズム(Parkinsonism): 動作緩慢があり、筋固縮、静止時振戦もしくは姿勢異常の少なくとも一つがある
1500人中56人(3.9%)で不随意運動(involuntary abnormal movements: IAMs)を認めました。22人男性、34名女性。平均 63.3歳でした。
上図にあるように、
Chorea が最も多く、20/56人(35.7)であり、またより高齢でした(74.5歳, p=0.0009)。脳梗塞後4.3日と最短で発症しています(p<0.05).
Parkinsonism発症は117.5日と最長でした(p<0.05).
不随意運動の特徴と予後について
Chorea:片側もしくは局所性の出現は18/20人(83.3%)。
予後: 2人(10%)は完全改善、15/20人(75%)部分的な改善、1人は改善なし、2人は死亡。
Tremor:片側もしくは局所性の出現は11/14人(72.7%)。
予後:4人(28.5%)は完全に改善、9人(64.2%)は部分改善した。
Dystonia:片側もしくは局所性の出現は15/16人(66.6%)。
予後:5人(31.2%)は完全に改善、10人(62.5%)は部分改善した。
Parkinsonism:6人中3人は麻痺側にパーキンソニズムが最初に出現し、1人は両側で出現した。Levodopa 加療をすると、8週間後に5人は中等度に反応を示したが、半年後には効果がなくなった。1人は最初から効果がみられなかった。
予後:1人は自然と2年後に改善した。5人はパーキンソニズムが進行した。
上図にあるとおり、
不随意運動全体で、12人(21.4%)で完全に改善し、38人(67.8%)で部分的に改善しており、比較的予後はよい結果でした。
脳卒中の内訳は、39人は脳梗塞、14人は脳出血、3人はくも膜下出血で、23人は孤立病変、7人は脳表に近い病変でした。30人は多発病変を認めています。23人の孤立病変のうち、17人(73.9%)は病変と対側の片側もしくは局所性に不随意運動を伴っていました。
孤立病変を呈した23人のうち、16人は脳梗塞で、
視床 7人(Chorea 5人、Tremor 1人、Dystonia 1人)、レンズ核 6人(Chorea 1人、Dystonia 5人)、尾状核1人(Parkinsonism1人)、脳表2人(Tremor 1人、Parkinsonism1人)と、病変としてはやはり深部領域に多く認めています。
34人の片側病変についての解析では、
Choreaを呈したのは10人で、9人は病変と対側で出現した。
Tremor は10人で、7人は病変と対側で出現した。
Dystoniaは11人で、すべて対側で出現した。
Parkinsonismは3人で、すべて対側で出現した。
となっており、不随意運動はほぼ病変と対側への出現が多いようです。
コホート内症例対照研究がされており、
56人の不随意運動群に対して、112人の脳梗塞で不随意運動なし群を比較されており、不随意運動群では、基底核、内包、間脳、中脳など深部領域が多く(63% v.s. 33%, p<0.001)、脳表病変は不随意運動なし群で多かったことが報告されています。
以上より、
Chorea が脳卒中後の不随意運動として最も多い。高齢者で多く、脳卒中後比較的早くに出現する。深部領域が最も不随意運動が起こりやすく、病変が片側にあれば、対側に出現することが多いことがわかりました。
脳卒中後は、神経症候の後遺症や、けいれん発作のリスクもあるため、より慎重に経過をみる必要があると思いました。