見出し画像

どんな時に遺伝性脳小血管病を疑うか?日本人のデータで考える

50歳以下の若年で脳梗塞を発症する方がいます。プロテインS活性、プロテインC活性や抗リン脂質抗体症候群など通常の採血で測定できる項目を調べても異常がなく、また脳血管病の家族歴もないときに遺伝性脳小血管病をいつ検討すべきか、どの臨床情報に注目すべきか迷うことがあります。
今回、新潟大学が発表した論文(Uemura M, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2023;94:74–81)では、日本人の重症脳小血管病の遺伝子異常について、その頻度と臨床的特徴を明らかにすることを目的に発表されていたので参考になりました。

方法
日本全国の施設から重症脳小血管病症例の臨床情報、画像等を収集し、55歳以下で発症した患者群(group 1)と56歳以上で発症し家族歴を認めた患者群(group 2)に分類されました。収集した全検体に対して、NOTCH3とHTRA1の遺伝子検査を実施し、NOTCH3とHTRA1の遺伝子変異を認めなかった検体については、全エクソン解析を実施し、脳小血管病の原因遺伝子の異常の有無を調べられています。
参加者は、成人発症の重症対称性白質病変(Fazekas grade 3) かつ、少なくとも以下のうち一つを満たすもの:MRIでラクナ梗塞、血管周囲腔の拡大、外包病変、もしくは微小出血
また、家族歴については、第一度もしくは第二度近親ではっきりとした認知症、脳卒中、白質脳症がある場合とし、認知症はMoca-J 26点未満とされていました。

結果
以下のTable 2では、Group 1で75人中41人(54.7%), group 2では31人中9人(29%)が遺伝性脳小血管病であったことが報告されています。特にGroup 1では、家族歴がなくても41.2%が遺伝性脳小血管病であり、その中でNOTCH3遺伝子変異は56.1%, HTRA1は24.4%, ABCC6は12.2%でした。
家族歴にかかわらず、92%以上は、NOTCH3, HTRA1, ABCC6の遺伝子検査で診断がつくことが示されています。

集められた検体と画像データなどから以下のような分類がされていました。
第一度近親の家族歴があれば73.5%は遺伝性脳小血管病で、第一度近親の家族歴がなく、また高血圧がなくても、43歳以下では75%は遺伝性脳小血管病でした。一方で、第一度近親の家族歴がなく、高血圧がある群と、高血圧がない群で43歳以上では20-33.3%でした。

実際の臨床で困るところは、やはり50歳前後で家族歴もなく、高血圧がない場合にどこまで検討すべきかというところになります。上のfigure の真ん中の2つの棒グラフの集団になると思います。そういった場合に、今回のデータからは43歳以上だと3割前後は遺伝性脳小血管病を考えたほうがよいこと、またCADASILの割合が多いことが示されたと思います。
もちろんCADASILについては、その臨床的特徴を確認することは言うまでもないと思います。今回の論文では、Table 1でNOTCH1の新規遺伝子変異の臨床的な特徴についても報告していました。そこではCADASILで有名な画像所見として、側頭葉極の病変や外包病変についても記載されており、側頭葉極病変は半分の症例で認められたのに対し、外包病変はすべての症例で認められていましたCADASILを鑑別する際の大事な所見になると思いました。

とても勉強になりました。
日本人のデータが今後さらに集まることが期待されます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?