学振DC1をとったときの話
こんにちは、あるいははじめまして、ケンです。
2021年末に転職し、現在では大学発ベンチャー企業での研究員の身分と、大学での博士研究員の身分を得たため、科研費など研究助成の申請資格を得ることができました。そんなわけで、つい最近まで科研費(研究活動スタート支援)や民間の助成金への応募のために、久しぶりに研究費の申請書の作成を行っていました。
学振-DC1の申請以来なので、実に8年ぶりの申請書作りです。当時とはフォーマットが結構変わっていたので少し手間取ってしまいました。
ラッキーなことに民間の助成金に採択され、少なくとも最低限の研究費の獲得には成功しました。自分の裁量で使用できる研究費があると、やれることの自由度が広がるので単純に嬉しいですね。科研費の結果は8月末に出るみたいなので、それまでは実験に集中します。若手研究とスタート支援の重複受給がOKになったみたいなので、若手研究用の予備データを6-7月くらいにとれるといいなぁ。
申請書を作成するにあたり、過去の自分はどんな風に書いていたっけ?と気になってDC1の申請書を久しぶりに見返しました。
せっかくなので、当時のことを振り返りながら記事を書いてみようと思います。後輩たちへのアドバイス記事とかではなく、本当につらつら思い出しながら書くだけで恐縮ですが・・・。
学振DCとは?
博士後期課程の優秀な学生に対する日本学術振興会の若手支援制度の1つです。採択された人は「学振特別研究員」として、研究奨励金(=生活費)と研究費をいただくことができます。生活費をかせぐためにアルバイトをする必要がなくなり、研究に専念する環境を手に入れることができます。
とはいえ、研究奨励金の金額は多くはなく、地方ならまだしも家賃の高い東京なんかでは生活はかつかつです。いただけるだけありがたいし、税金からお金がでているので大っぴらに文句は言えませんが、制度ができた当時から消費税やら社会保険料が高騰しているので、科学技術立国を目指すのであれば、金額の見直しは必要なのではないかと思っています。薄給すぎて、目指す若者がいなくなってしまうのではないかと危惧しています。
申請書作成まで
申請書の学内締め切りがだいたい5月の中旬から下旬です。ちゃんと準備する人は4月中に1stドラフトを書き終わる人もいるそうです。実際、私の同期で別のラボだった人は4月には既に1stドラフトを書き上げて、ラボのボスや先輩に申請書を見てもらってアドバイスをもらってブラッシュアップを行っていたようでした(n=2)。
一方、僕はというと、たしか4月の3週目くらいにたまたま学内で出会ったD進する友人達から、学振の申請書の進捗どう?と聞かれて「まだ手をつけていない」と答えると、それやばくね?落ちるよ?と言われたことをきっかけに焦って書き始めたのを覚えています。
全然手をつけていなかった理由は2つありました。当時苦労していた実験で、ずーっと成果が出ていなかったものが急に3月頃から良い結果が出始めたこともあり、実験が面白くなってきていたのが1つめの理由です。ただ、全然書いていなかったメインの理由はむしろもう1つのほうで、書類をダウンロードしたときに、「たった数ページだしGWに頑張ればいいかなぁ」くらいの軽い気持ちで考えてしまったことです。
これが大失敗だと気づいたのは真剣に学振の書類と向き合ってからでした・・・。
申請書作成開始
幸い、同じラボの先輩たちの中には学振DC1, DC2採択者がたくさんいたので、先輩たちの書類を読み込むところから始めました。過去の先輩の採択書類が4つ、不採択書類が1つラボの財産として保管されていたので、これが僕を助けてくれました。もし、自分のラボに採択経験者の先輩がいるなら絶対申請書を見せてもらうことをお勧めします。正直、0ベースで自分の力だけで作成していたら、準備不足で確実に不採択だったと思います。
今ではネットにもたくさん、学振DCに関するブログなんかがあるので、参考にできるものが多いと思います。前もって調べて、読み込んでおくことをおすすめします。
作成を開始して最初に難しかったところは、3年間の計画を立てる部分です。3年も期間があると、ある程度スケールの大きい計画じゃないといけないけれど、スケールが大きすぎてもそれは本当に実現可能なのか?と思われてしまうため、良い計画と感じてもらえない可能性があります。評価するのはあくまでも審査員の先生たちなので、チャレンジングだけど頑張れば実現できそうと思ってもらえる計画を立てて、それをわかりやすく相手に伝えられるように文書化する必要がありますが、これはなかなか困難です。はじめの何日間かは書いては消して、書いては消して、を繰り返していました。
申請書作成途中
学振の申請書は、文書ばかりだと読む気がうせてしまうので、全貌がパッと見てわかるようなシンプルかつ情報量がある程度あるイラストを入れるのが効果的です。もはや、お作法と言ってもいいと思います。ただ、イラストを描くのは結構時間がかかります。僕は、取り掛かるのがかなり遅かったのもあり、正直何度もイラストを描いて推敲するような時間がありませんでした。なので、まずは申請書全体の骨格になるような文書を書いて、当時自分を指導してくださっていた助教の先生に、こんな感じで書こうと思っているんですけど、方向性としてどう思いますか?と、聞いてかなり初期の段階でアドバイスをいただきました。方向性が決まれば、どういうイラストを描けばよいかもおのずと定まってくるので。
今思うと、無茶苦茶な文章で、全然練られていない段階でアドバイスをいただくなんて相当無礼なことをしていたな、感じます。普通は、貴重な時間を割いていただくのだから、せめて自分で練れるだけ練ってからアドバイスをもらうべきで、当時を振り返ってみるとそんなこと良くできたな、と恥ずかしくなります。アドバイスをくださった先生には本当に感謝しています。
なんのための研究なのかを他分野の人が見てもわかるように書くといいよ、という感じのアドバイスをいただいたのを覚えています。ふわっとした相談なので、ふわっとしたアドバイスになるのは当然ですが、全然ダメと言われなかっただけで当時の僕はすごく安心しました笑
この段階で、GWに突入しました。そこから1stドラフトを書き上げたのが、5月2日です。まだイラストはつけておらず、文章だけの状態です。
イラスト作成とドラフト完成
僕は絵心がまったくと言っていいほどなく、ここにかなり労力を割きました。わかりやすいイラスト・・・。わかりやすいイラスト・・・。と考えながら、特に方針も立たないまま1日が終わる、という感じです。一応祝日ということもあり、たしかGW中は実験はほとんどせずに、申請書作りばかりしていましたと思います。過去のファイルを見てみると、一日おきに「申請書ver.2」,「申請書 ver.3」・・・、と更新されていました。この時期は特に苦労していたのだと思います。頭で考えてイラストを作るというより、紙とペンを使って、とにかく思いつくままに何個か案を出して、最終的には自分の画力と相談しながら描けるイラストに落ち着いたって感じだったと思います。あまり覚えていないのですが、たしか当時はあまりイラストレーターの操作に慣れていなくて、実験用マウスの絵だったり、凝ったイラストが上手に描けなかったので、自分が描ける範囲で描いたら結果的にある程度シンプルなイラストになった、って感じだった気がします。今の自分ならこんな絵は使わないなぁ・・・笑。
そんなこんなでやっと最低限の申請書に仕上がったのがGW最終日くらいだったと思います。ただ、イラストつけたらまだ文字数オーバーしていた気がします。
推敲
ここで改めて先輩たちの申請書を読み返し、その上手さに気がつきます。自分で真剣に取り組んでから見返すと、一文一文に込められている真のメッセージに気がつくんですよね。
業績がないし、申請書通るわけないからそもそも学振DCに応募しない、という博士課程の人っていたりするんですが、真面目に書類作成に取り組むとたった数日で、文章能力が大幅に向上するような成長をするので、学振の申請書作成は本当に良いトレーニングになると思います。
必要な文章とそうでない文章を分け、冗長になってしまっているものを可能な限り短くし、文字数をオーバーしないように推敲していきます。書く側としてはこのフレーズを入れ込みたい、という想いがあったりするのですが、読み手にとって必要ではないものは結構あったりします。その辺のバランスの見極めは今もあまり上手くできません・・・。
そんなこんなで、当時の自分が書ける最高の申請書を書いた後、ラボの先生からアドバイスをいただきます。ラボの先生によっては、採択させるために先生がそこから大きく改変してしまったりするかもしれませんが、僕のラボの先生はあくまでも大まかな方向性を示してくれました。これも自分の成長にとってはとてもありがたかったです。
僕は申請書にイラストを2枚入れていたのですが、まずは位置が悪いというアドバイスをいただきました。2ページ目に最初のイラストをいれていたのですが、申請書の印象は1ページ目が大事だということで、イラストの登場する場所を1ページ目に変えました。研究計画の部分については全くアドバイスをもらえず、修士2年の当時は不安に思っていましたが、これは君の自主的な研究だから好きなようにしなさいというメッセージだったんだな、とある程度経ってから気がつきました。
面接
忘れた頃に結果が返ってきます。すると、なんとかボーダーに引っかかって面接となりました。申請当時の私の業績は、論文が共著で1報(firstなし)、学会発表1件だったので、業績点が悪かったのかな、とそのときは思っていました。ただ、今振り返ってみると研究の意義や、独創性の箇所も書き方としていまいちなので、書き方次第で業績での不利をはねのけられたんじゃないかな、と思います。当時の申請書を今の自分ならどう書くか、なんかをいつか記事にできたら面白いかな、とか考えています。
面接の話は別記事で書こうと思います。
当時の反省とか諸々
振り返ってみると、「もっと早くから準備しておけ!」と当時の自分に言いたくなります。もっと時間をかけてブラッシュアップしていたら、面接合格ではなく、書類のみでの採択になったんじゃないかなと。
自分の場合は、ラボの先輩方の申請書というラボの財産があったおかげでなんとか採択までもっていけましたが、新設のラボなんかで先輩の申請書がないような人たちも多くいるのではないかと思います。そういう人たちは、自分のラボではなくても、近くのラボの人から申請書を見せてもらうことを強くお勧めします。
また、修士と博士で研究テーマを大きく変える場合も、書くのに難航すると思います。僕の場合、今がまさにそうで、これまでやっていたテーマと今やっているテーマは、「神経科学」という部分で重なりはあるものの、結構異なることに取り組んでいます。ですので、今回の科研費の申請書では繋ぎの文章を練るのにかなり時間をかけました。
もう今年度は学振DCの申請の時期は終わってしまいましたが、もし何か申請書のことで相談したいことがあればコメント欄などに相談いいですか、とでも書いてもらえれば、できる範囲でご協力いたします。