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分析モデルに基づく条件探索におけるロバスト性の考慮~計測データのばらつきを活用しよう

昨今の大規模言語モデル(LLM)の登場により、組織の意思決定におけるコミュニケーションのベースとなる文書作成の効率化が進んでいますね。企業の資産である大量の文書データの組織的な活用は大きな課題でしたが、公開データに基づくLLMと、企業が所有するローカルな文書データの組み合わせによる知識活用を実現するRAG技術の出現で、企業のデータ活用に対する向き合い方は一気に様相が変わってきました。

 一方、製造業においては、検査工程における品質検査の画像データのAI活用は、データ取得の容易さもあってかねてより進んでいますが、その他の工程における、とくに数値系のデータ活用が進まない背景には、分析モデルの性能だけでなく、分析モデルの活用方法に関する課題が大きいと思います。

 例を挙げて説明しましょう。製品の製造工程における不良率を改善するために、設備パラメータ等のプロセスデータに基づく不良率予測モデルを作成して、目標不良率を実現する因子の値の組み合わせを決定することを考えましょう。

 その際にすぐに顕著となる課題は、不良率の目標条件に対して、一般に要因が複数の予測モデルに基づくパラメータの値の選択には、無数の組み合わせがあるという点です。

 説明を簡略化するため、次の2つの説明変数を持つ重回帰モデルが学習から得られたと考えましょう: $${𝑦= 𝑥_1+2𝑥_2}$$

 例えば不良率=$${y=0}$$となる条件を採用する場合には、$${𝒙_𝟏+𝟐𝒙_𝟐=𝟎}$$ を満足する$${(𝒙_𝟏,𝒙_𝟐)}$$のペアの全てが目標値を実現できるわけです。

予測モデル(応答曲面)に基づいて因子の水準を最適化する


 この場合、どの解が良くどの解が不適切かは予測モデルだけからは判断できません。すなわち、予測モデルから逆探索で数値的に得られた解の妥当性は、一般的に判断できないわけです。

 すなわち、目標値を実現するパラメータ探索には、適切な制約条件を設けることができるかどうかが最大のチャレンジです。アルバイトのスケジュールの組み合わせ決定問題などで、AIシステムが提示する組み合わせが中々現場で採用されない原因は、暗黙的に運用されている制約条件が適切にAIシステムに反映されていないことが根本的な原因です。
 説明変数間に既知の制約がある場合には、線形計画法等の最適化アルゴリズムが知られていますが、あらかじめ制約条件が既知であることの方が少ないのが現実ではないでしょうか。 (今回の例でいえば、$${𝑥_1^2+𝑥_2^2=1}$$が常に成り立つ等)

 この制約条件が既知でない一般的な場合に、どのような自然な制約条件を課すことができるでしょうか?

 結論からいうと、同一入力条件に対する教師データのばらつきに注目して、「教師データのばらつきを同時に最小化する条件」を同時に課すことを検討してみてください。すなわち、実験に基づく計測あるいは観測データのばらつきを平均値に置き換えず、積極的に活用しようということです。

 製造業では、量産された製品の市場での不具合発生にともなう社会的損失を最小化するために、品質工学(タグチメソッド)に基づく設計最適化のアプローチが良く知られています。この場合、製品の特性値の目標値(の平均値)と併せて、目標値からのばらつきの最小化(S/N比の最大化)を同時に実現する条件を探索します。特に設計側でコントロールできない製品ユーザーの利用環境や利用方法などの要因(誤差因子)に対し、 S/N比が最大となる(ロバスト)条件の探索を設計段階で行います。

 例えば今回の例で、出力 yが確率変数の場合(出力分布がm(平均値)とσ(分散)で特徴付けられる)で、
   $${m= 𝑥_1+2𝑥_2}$$
の関係式(予測式)が成立しているとき、さらに$${𝑥_1=-1}$$のときにσが最小ということが予測できる場合、
   $${(𝑥_1, 𝑥_2)=( -1, 0.5 )}$$
がノイズに強く(ロバスト)、かつ目標値を実現する理想的な解となるわけです。

※タグチメソッドでは直交表の活用を推奨していますが、直交表に基づく実験は必ずしも必須ではありません(ここが障壁となるお客様が、大変多い印象です)。まずは利用可能なデータに対して、同一の入力条件でデータを整理して、出力のバラツキを最小化する条件を分析モデルに基づいて探索するところからはじめてみてください。

参考)タグチメソッドに基づくロバスト条件探索に関する文献は、具体的な事例も豊富な次の書籍をお勧めします。 
広瀬健一、上田太一郎 編著(2003) 『Excelでできるタグチメソッド解析法入門』(同友館)

※弊社では、データ分析プロジェクトにまつわる様々なご相談に、過去20年 
 以上に渡るプロジェクト経験に基づき、ご支援しています。社内セミナー
 の企画等、お気軽にご相談いただければ幸いです。

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