行政/公共部門のデジタル化~最新UI/UXトレンドを探る~
こんにちは、ネットイヤーグループ、
サービスデザインチームコラム担当です。
1回目のコラムでは「顧客視点」を考えたサービスデザインについてフォーカスしてお話ししましたが、昨今、民間だけではなく、行政や公共部門でも「ユーザー視点」を大事にしたデザインや思想が広がっています。
そこで、今回は、行政や公共部門ではどんな動きがあるのか、また事例などもご紹介しながら、「行政と公共部門のデジタル化~最新UI/UXトレンドを探る~」というテーマで、お届けしたいと思います。
デジタル庁の「デザインシステム」とは?
デジタル庁は、国や自治体、民間企業が抱えるデジタル化の課題を、根本的かつスピーディーに解決するための新組織として、コロナ禍の2021年9月に発足しました。
デジタル庁のミッションとして「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」を掲げており、一人ひとりの多様な幸せを実現するためのデジタル社会の実現をめざすと謳っています。
私たちの暮らしを振り返ってみると、デジタル化の波は、今や私たちの生活の隅々にまで浸透しています。むしろ、デジタルの無い暮らしは創造ができない時代となっています。
しかしながら、実は、このデジタルの波は、すべての人々に公平に利益をもたらしているわけではありません。
例えば、障害を持つ人々の中には、デジタルツールやリソースを利用する上で、さまざまな障壁に直面している現実もあります。
こうした状況に対応するために、「誰一人取り残さない」デジタル化の実現に向けてデジタル庁が提唱したのが「デザインシステム」になります。
このガイドラインは、デジタルサービスが提供する利便性を、全ての国民に届けるための指針であり、このガイドラインを通じて、国や自治体、民間企業が提供するデジタルサービスが、使いやすく、アクセスしやすいものであることを目指しています。
◆「人に優しいデジタル化」の実現
デジタル庁が提唱した「デザインシステム」の根底にあるのは「人に優しいデジタル化」の理念です。
これは、年齢や障害の有無に関わらず、全ての人がデジタル技術を利用して、多様な幸せを実現できる社会を目指すというもので、日本の公共サービスのウェブサイトやアプリが使いやすく、見た目が統一されるようにするためのルールブックのようなものです。
ウェブページやアプリを作る時に使う色や形、ボタンのデザインなどをルール化し、誰でもアクセスして色や形など基礎となるスタイルや、ボタンや入力フォームなど、以下のような具体的なパーツ集などの画面のテンプレートを使うことが可能となっています。
これにより、開発者は信頼できるデザインを使って、新しいサービスをもっと早く、より簡単に作ることができるようになっています。
結果として、私たちが普段使うサービスがもっと使いやすくなったり、どんなデバイスからでも同じように操作が可能になっています。
このように、行政においても、デザインを考える上で、「利用するユーザー一人ひとりを大事にする」という、考え方がどんどん広がっているのです。
東京都の「デジタルサービスガイドライン」とは?
次に、東京都について取り上げたいと思います。ヤフー株式会社CEOの宮坂さんが東京都の副知事に就任したのは2019年9月。20年以上民間インターネット業界で活躍を続けてきた経験を活かし、行政のデジタル化に取り組んだ人物です。
2021年4月に発足したデジタルサービス局から、同年9月にユーザーテストガイドラインを発表したことは大きな話題となりました。
そこで、東京都のデジタル化の推進について、「デジタルサービスガイドライン」を取り上げながら、紹介したいと思います。
東京都がデジタルサービスの質を高めるために策定した「デジタルサービスガイドライン」とは、ユーザー中心の設計を推進し、より良いユーザー体験(UX)を実現するための指針となるものです。
このガイドラインは、都庁内でのウェブサイトやアプリ、システムなどのデジタルサービス開発時に、「ユーザーテストを実施すること」を基本方針としています。
「テストしないものはリリースしない」という合言葉のもと、令和3年(2021年)に初版が公開された後、利用者の声を反映させるサービスデザインの取り組みを徹底することの重要性が認識され、その後「ユーザーテストガイドライン VERSION 2.0」として改訂されました。
「ユーザーテストガイドライン VERSION 2.0」
この新しいバージョンでは、従来の「ユーザビリティテスト」に加え、「リサーチ」と「プロトタイピング」が開発の上流工程で行うユーザーテストとして新たに位置づけられています。
◆都民と共にデザインする
このガイドラインでは、都民をテスターとすることを原則とし、都民のニーズに寄り添い、満足度の高いUI/UXをデザインする視点から、都庁はユーザーテストを実践しています。これにより、都民一人ひとりの声が直接サービス改善に反映される体制になっています。
また、都庁職員向けには、「ユーザーテスト実施手順書」が提供されており、具体的な手順を詳細に説明しています。これには、ユーザーリサーチの進め方、プロトタイピングの進め方、ユーザビリティテストの進め方などが含まれており、都庁職員が日々の業務においてユーザーテストを効果的に実施するための支援が行われています。
このガイドラインと手順書は、都政の構造改革ポータルサイトから誰でも閲覧可能で、都庁のデジタルサービスの透明性とアクセシビリティの向上に寄与しています。
東京都のデジタルサービスガイドラインは、単なるルールブックに留まらず、都民一人ひとりの生活を豊かにするための「思いやり」と「工夫」が詰まった文書と言えるのではないでしょうか。
つまり、東京都の例においても、「都民=ユーザーの視点・体験」を大事にしていることが理解できます。今後も、都民と共に成長し続ける東京都のデジタルサービスの進化に期待が高まりそうです。
【事例紹介】酒田市のデジタル変革:市民と市役所のOne to Oneを実現
では最後に、ネットイヤーグループが支援した「酒田市」の取り組み事例をご紹介したいと思います。
酒田市は、山形県の北西部、庄内地方の北部に位置し、人口約10万人の都市です。豊かな自然と歴史に育まれた地域社会で、酒田市はデジタル変革の波に乗り、市民の生活を豊かにするための大きな変化を取り入れようとしています。その中心にあるのが、市民マイページ「さかたコンポ」です。
山形県酒田市役所との協力により開発された市民マイページ「さかたコンポ」は、公式ホームページとLINEアプリを組み合わせ、スマートフォンで行政サービスを利用できる画期的なサービスです。2023年4月から提供が開始され、市内外から注目を集めています。
このプロジェクトは、市が直面している様々な課題に対処するために生まれました。高齢化や新型コロナウイルス感染拡大の影響により、市民が役所に出向くことが困難になったことや、行政サービスの利用に関するルールや手続きが煩雑であることなどが課題として挙げられます。これらの問題に対処するため、ネットイヤーグループは市民の生活をより便利にするための支援を行いました。
◆「さかたコンポ」の特徴
「さかたコンポ」の特長は多岐にわたります。まず、利用者はLINEアプリから簡単にマイページにアクセスし、必要な情報や手続きをスムーズに行うことができます。そして、個々の属性や状況に合わせて表示される情報や手続きを自動化し、利用者が迷うことなく目的を達成できるように設計されています。
また、市の公式サイトや公式LINEの行動分析などから、ユーザーの閲覧目的や情報取得のスムーズさなど、利用状況を詳細に調査し、さらに、実際の行政サービスの窓口利用状況や県・市が公開している統計データも考慮した、多角的な分析と仮説立てを実施しました。
そして、これらの調査・分析結果を基に、市民が「理想的な体験」を得られるような「市民ポータル」や「マイページ」、「LINEリッチメニュー」のユーザーエクスペリエンス(UX)をデザインし、プロトタイプのUIを作成し、市民目線でのユーザーテストを実施することで、「ユーザーの声」をしっかりと反映した設計が実現しました。
このように酒田市の取り組みは、デジタル庁や東京都などと同様に、「ユーザーの視点」やユーザーの理想の体験を目指した事例と言えます。
まとめ
ここまで、「デジタル庁のデザインシステム」「東京都のデジタルサービスガイドライン」そして、「酒田市の市民ポータル」の3つの事例を紹介してきましたが、
改めて、行政や自治体においても「ユーザー(利用する人)が使いやすいデザイン」を目指し、プロトタイプ作り、ユーザーテストを実施することで、「ユーザーの視点」を一番に捉えてサービスを提供しようとしていることがわかります。
デジタルの世界がどんどん広がっている今、政府や公共の場でのウェブサイトやアプリのUIUXデザインがとても大事になってきています。誰一人取り残さないという姿勢が、行政や公共における「これからのUIUXのトレンド」だと言えるのではないでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は、「これからのデザイン思考(Design Thinking)」というテーマでお届けします。
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