娘の足を掴みながら
私たちの住む片田舎のイギリスの家では家族それぞれの個室を持っているのだけれど、
9歳の娘が5歳の時にイギリスに来て、しばらく一緒に寝ていたこともあり、私のベッドは娘の部屋にある。
1年くらい前に
「いいかげんに1人で寝られるようになりなさい。」
と娘がダディに言われ、しぶしぶシングルベッドで寝るようになった。
私はかわらず2人で寝ていた時のダブルベッドで娘の隣で寝ている。
現在9歳の娘は末っ子なので、私の中ではいつまでも小さくていいよ。という気持ちで見守っているところもあり、娘が1人で寝たいと言うまでは
一緒に寝るのでもいいかなぁ、と呑気に考えていた。本当のところは娘と一緒に寝ると温かいし、人の温もりを感じると安心できるのは、まんざら子供の特権ではなく、私も娘の寝息を聞くことでぐっすりと寝ることができていた。
隣にあるシングルベッドにもぐりこむ娘を見て、なんとなく寂しいなぁと思いながら大きなベッドに入って寝た最初の日は、なんだか物足りない気がしてなかなか寝付けなかった。
娘も、私も、
「なんだか寂しいよね。でも頑張って寝ようね。」
なんて言って、時にはお互いのベッドから手を伸ばしてつないで寝たりもした。
娘の手が脱力するのを感じて、寝たのを確認すると、ホッとして眠りについたりした。
そんなことを続けていくうちに、1人で寝ることに慣れていくと、今度は一緒に寝られなくなってしまった。
というのも、以前娘が一緒に寝ていた時は、必ず娘の脚が私の体に絡みつき、ダブルベッドの2/3は娘に占領されて、私はベッドの右側に体を小さくして寝ていたのだ。
今はダブルベッドで両手両脚を思う存分伸ばして寝る毎日。これが快適でないはずがない。
ひさしぶりに娘が猫撫で声で
「mummyと一緒に寝たい」
と言ってきて、たまにはいいかと一緒にベッドに入ったものの、大きくなった娘の脚は重いし、私の体はもうベッドの1/3の面積では寝られなくなってしまっていた。
娘が寝入った頃にシングルベッドに移したものの、大きくなった寝ている娘を夜中に移動させるのは私にとって決して楽なものではない。
翌日、
「ごめん、もうmummyむりだ。一緒に寝られない。でもベッドをすっごく近くにして、隣り合わせだったらいいよ。」
と言って1人で寝る宣言をした。
娘はしぶしぶ納得して、寝る前に2人でシングルベッドを私のベッドの真横にくっつけた。
となりで寝ているだけで安心できるようで娘は文句を言うことなくぐっすり眠れるようになった。ある日2人とも同時にベッドに入り、
「おやすみー」
と言った途端に疲れていた娘は寝息を立て始めた。
寝息の聞こえる距離っていいな。
なんて思いながら私もうつらうつらし始めた頃に、隣のベッドから、ドンっと何かが私のベッドの側へ来た。
娘の脚だった。
布団からはみ出して私のベッドに侵入してきた脚。手を伸ばしてみるとちょうど足の裏を掴めた。
こんなに大きくなったんだ。
ついこの間まで手のひらにすっぽり収まるサイズだったのに。幼稚園の頃はふにゃふにゃだなーと思っていた足の裏も、少しずつ皮が厚くなっているのを感じる。
しっかりとした踵。しまったアキレス腱。
足の指の一本一本にも触れてみる。
長女はもう14歳なので、もちろんこんなことはさせてくれないし、私がしたいとも思わない。
私のベッドに侵入してきた9歳の脚は、次はいつ触る機会があるかな。この脚は明日はどこかへ力強く歩いていくんだろうな。そして、そのうち
「えーー夜中にmummyは私の脚さわってたのぉ?やだー!」
とか言うんだろうな。
触れるうちに味わっておこう。
そんなことを考えながら、娘の踵を手のひらに感じながら眠りについた。