「注文に時間がかかるカフェ」を取材しました!
「注文に時間がかかるカフェ」を知っていますか?
世田谷区に1日限りでオープンしたカフェの店員は、言葉がスムーズに出にくい吃音(きつおん)がありながらも、接客業の夢をもつ若者たち。注文に時間がかかるカフェは、そんな若者たちが接客をすることで、自分たちに自信をつけるとともに、吃音に対して理解を深めてもらいたいと思い、始まった取り組みです。カフェが生まれたきっかけ、そして、どのようなカフェなのか、同世代のねつせた!メンバーがお話を伺ってきました。
(取材日:2022年5月14日)
注文に時間がかかるカフェとは?
れん 本日は取材のお時間を頂きありがとうございます。注文に時間がかかるカフェというお名前にとても興味を持ちました。これは、どういった意味なのですか?
奥村さん 今日は取材をしていただきありがとうございます。注文に時間がかかるカフェの発起人をしています、奥村と申します。私は、言葉がスムーズに出にくい吃音の当事者です。「注文に時間がかかるカフェ」は私たち吃音当事者であるスタッフが、接客のときに言葉がスムーズに出なくて、時間がかかることを前もってお客様に知っていただきたくて名付けました。皆さんは吃音という言葉を聞いたことはありますか?
れん 聞いたことはあります! でも具体的には知らないです。
奥村さん 私は、吃音の当事者として小さな頃から様々な経験をしてきました。小学3年生まで、自分が吃音だと気が付かなかったのです。しかし、小学3年生の授業参観のとき、音読でどもってしまい、当時1番仲が良かった友達から「ありさちゃんと話すと吃音が感染るかもしれないから、遊んじゃいけませんってお母さんから言われた。」と後日言われて、初めて自分の話し方が人と異なることに気づきました。中学の自己紹介のとき、名前を言うのに2分ぐらいかかり「え?」といった目で見られました。丸めた紙みたいなものを背中に投げられたりしたこともあります。
れん 緊張したら話せなくなることは私にもあるのですが、それとはまた違った感覚なのですね。
奥村さん そうですね。私も緊張して話せなくなることもあるのですが、それとは違った感覚です。個人差がありますが、私は喉がぎゅっと絞められた感覚になります。ただ、本当に個人差があるし、自分が吃音だと気が付かないケースも多いのです。私は10歳の頃からカフェで働く事が夢でした。ただ、自分の名前も上手に話せない状況だったので、あきらめて大人になりました。
れん カフェを開こうと思った理由を教えてください。
奥村さん 24歳のときにカフェが有名なオーストラリアのメルボルンに引っ越したのです。そこで、吃音の私にも理解があるカフェで働けました。本当に色々な人がいました。その時、日本でもカフェができるかもしれないと思ったのです。吃音で悩んでいるけど、接客業をしたい人たちと一緒にカフェをしよう! そう思いました。
れん それがきっかけになったのですね!
接客業に挑戦したい夢をもっている若者が
一日だけカフェ店員になれる
奥村さん 私はTwitterをしていて、Twitterには吃音の人のコミュニティがあります。そのコミュニティの人たちに、カフェの話をしたら、やりたいっていう人が沢山いたのです。
すー カフェの名前はどうやって決めたのですか?
奥村さん お風呂に入っているときに、ふとひらめきました。カフェって注文するときはスピーディーにすることが条件だと思われていますよね。そう思っている人が多い。
でも、私たちはゆっくりしか話せないし、つまってしまう。つまり、求められてもご希望に添えないんです。それならあえて、それを店名にしちゃおう! それなら急いでいる人は来ない!
それがひらめいた後は、もう他の名前は考えられませんでした。
さとぽん お店のロゴのデザインはどのようにつくりましたか?
奥村さん 砂時計の中の砂に注文に時間がかかるカフェという文字を入れました。時という漢字が少し大きくなっていて、砂時計のくびれた部分に引っかかっています。これは、私が吃音で声が出なくなったときのイメージです。
さとぽん とてもおしゃれで、そのような意味も込められていると知って驚きました。本当に奥村さんの発想力が素晴らしいと思いました。
奥村さん 募金でお金を集めて、レンタルスペースを使い、期間限定でカフェをはじめました。世田谷区内では駒沢で期間限定で開催しました。スタッフの中には「他県でもしたい」と言ってくれている人もいまして、他県で期間限定でしたこともあります。
れん カフェを始めるまでの原動力を教えてください。
奥村さん なんだろう? 楽しいから? 文化祭の準備や学校のイベントや準備が楽しかった、そんな感覚です。高校生や大学生の人たちと働くのが楽しいし、沢山パワーをもらっています。私は、カフェの仲間にこうしたほうがいいよ、はあまり言わない。みんなの「こうしたい」「ああしたい」が大切だと思っています。
決まり文句って必要?
れん 楽しくても続けることは大変なことは沢山あると思いますが、それぐらい強い思いがあることがわかりました!やりたいと思っていた接客業をやってみてどうでしたか?
奥村さん 自分の中に固定概念があったことに気が付きました。注文カウンターにお客様が来たら、すぐに「いらっしゃいませ」を言わなきゃいけない。注文を言われたら、それを復唱しなきゃいけない。など、それが当たり前だと思っていたことがたくさんあった。でも、どうしても言えない言葉がある子がいます。ある日、メンバーがマニュアルをやめませんかと言いました。その時のタイミングで言える言葉が言えれば、それでいいんじゃないですか?と。その言葉は良い意味で、私の固定概念を崩してくれました。あえてマニュアルがない接客、それが好評になりました。ロボットみたいな接客じゃなくて、人の心が通った温かい接客が良かったとお客様が言ってくれたのです。本当に目からウロコでした。
れん 店員さんがそのような温かい接客をしてくれると、来てよかったと思います。
奥村さん 注文に時間がかかる。つまり、出すのがゆっくりで、つまってしまう。ただ、そのぶん温かい接客ができます。お店に入るときに、スタッフが吃音について説明してくれます。
吃音はこういうものです。私たちはこうしてもらうとうれしいです。私たちはこうしてもらうとかなしいです。
この説明をしたいと言ったスタッフがいて、自分が担当してくれています。
ただ、吃音は人によって様々で、「最後まで話を聞いてほしい」「困ったら助けてほしい」など人によって全く違うので、スタッフは、マスクに自分がやってほしいことを書いています。笑顔で話してください、時間がかかります、などなど。
自分の事を伝えるのって本当に大切だと思います。
吃音者は学年に一人はいる
奥村さん 吃音者は全国に120万人います。これって田中さんっていう苗字の人と同じ数。学年に1人はいるということです。隠していたり、ばれたくないって思っている人もいるし、気が付いていない人もいます。
れん 自分が吃音者であるということを知らないで、人と違うと思っている人がいると思います。私も言葉に詰まっちゃったりします。気が付いていない人もいるかもしれない。そういう人にどういう言葉をかけてあげたほうがいいのかもわかりません。
気付いた方がいいのか、知らない方が重荷にならずに済むのか、ということもありますよね。
奥村さん それは、吃音当事者の話し合いでも結構出る話です。
気が付いていない吃音者に出会ったら私は普通に話します。辛そうに話しているときは、話すのしんどい?どうしたらいい?と聞きます。
自分が吃音者かどうかということを知ったほうがいいのか。それは人それぞれですね…。
さとぽん 私も話すのが苦手です。友達と話すのは大丈夫なのですが、初めてあった人と話すのが苦手で…特に、就活の時期は話すことが多いし、緊張することもたくさんあります。話すことにコンプレックスを持っている学生に対して、お言葉を頂きたいです。
奥村さん 私も就活生の時、自分の名前を言うのに2分かかり、何で私は普通の人みたいに話せないんだろうってすごく情けなくなっていました。でも、人事をやっていて新卒の子を面接する立場になったときに、つまっていてもゆっくりでも、自分の言いたいことを誠実に話せている人は、他の人事の人にもいい評価をもらっていました。
その立場になってから気づいた事として、新卒生も会社のことを評価していると思いました。私が就活生だったときは、自分は100%評価される立場の人間だと思って、ちゃんとしなきゃとか、自分は良く思われているかすごく心配でした。でも、いざ、人事になって面接するときに、新卒生がこの会社はちゃんと私のことを見ている会社なのかなとか人事の人はどんな人だろうなど、向こうが私を評価していることに気づきました。ずっと自分が評価される立場だと思ってたけど、逆に評価しても良かったのじゃないかと思っています。例えば、失礼な人事の人がいたときに、自分の話し方がだめだから失礼な態度を取られるのかと思っていましたが、逆に自分のつたない話し方でも受け入れて下さるような会社って、いい会社だと思うし、そこに入ったら自分も活躍できると思います。今、就活生の子たちに伝えたいことは自分も評価する立場でいてほしい、この会社で私はいいのかどうか、自分を理解してくれる会社なのかどうか、自分が評価する側だと思うくらいがいいと思います。
さとぽん ありがとうございます。就活に対して、勇気が出ました。自分自身、就活をしている今、奥村さんの貴重なお話を聞けて良かったです。
奥村さん これからもカフェはやっていきます。8月28日(日)に駒沢でイベントも考えています。
お客様で小学生の吃音の方が来てくれて、「僕もやってみたい!」と言いました。名乗り出てくれた小学生たちは皆工作や絵が得意で、オリジナルグッズを作って1日限定ショップを作ろうということになりました。それぞれ室内にテントの店を構え、非営利の活動なので商品のやりとりはお金ではなくコイン型のチョコレートが報酬になるというシステムです。
店員さんに話しかけられるのが嫌なお客様と話すハードルが低いお店ってなんだろうって考えたら、答えがカフェやフリマだったんです。
吃音や障害がある方たちが生きやすい世界になるように、自分ができることをしたい。
奥村さん 今後の目標もあります! 今、注文に時間がかかるカフェのメンバー総出で自分たちの挑戦の様子を記録したドキュメンタリー映画を作っているのですが、それを学校などで上映して、同じ境遇の子どもたちに勇気を与えたいと考えています。高校生メンバーが映画のナレーションを担当したり、音楽が好きなメンバーが主題歌を作っています。若者たちが主体的に活動しているねつせた!さんの活動にもインスピレーションをもらっています。吃音や障害がある方たちが生きやすい世界になるように自分ができることをしていきたいです。カフェが終わって解散ではなく、OBクラブをメンバーの子たちが主体で作ってくれているので、その子たちとねつせた!メンバーの皆さんが交流会などしてくれたらうれしいです。
すー 自分は早口だと最近気が付きました。周りの同級生を見ていても話すのが苦手な人もいたり私より更に早口な人もいたり、皆それぞれ周りと違う何かを抱えているんだと思います。なので、私も気負わずに話してもいいのかなと思いました。
さとぽん 周りの友達が発表とかうまい友達が多くて、自分だけがなんでこんなに話すのが下手なんだろうと思ったこともあります。話すことで悩んでいる人も沢山いたので勇気が出ました。
れん 今日はお時間を取って頂き、素敵なお話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました!
メンバーの感想
さとぽん 私は人前で話す事がすごく苦手で、話す事がゆっくりになってしまうことが悩みでした。そのせいで、自分が話すのを待っている雰囲気を感じてしまい、話すのが怖くなってしまうことが多々ありました。そこで、奥村さんのお話を聞いて、考えすぎず、自信を持って話せるようになりたいと思いました。また、私自身、就職活動中で、面接に不安を抱えていましたが、奥村さんの就活当時のことや人事からの目線を伺い、とても救われました。
注文に時間がかかるカフェの参加人数が徐々に増えていったと伺い、多くの人が同じ悩みを共有できるコミュニティを求めているのだと思いました。さらに、ねつせた!でもこちらの活動を発信することで、奥村さんの取組みに協力していきたいです。また、奥村さん自身が真剣にお話を聞いて下さる方だったので、私としてもいつもよりスムーズに話すことが出来ました。貴重なお話を本当にありがとうございました!
すー 今回の取材の中で特に印象に残ったのは、奥村さんが会社の人事部にいらしたときのお話です。どれだけ話が詰まってもゆっくりでも、言いたいことを誠実に話している人の話は伝わってきたというエピソードを聞いて、“話し方”というものは表面的なものという側面もあるということに気が付きました。私たちは普段、プレゼンなど各種発表や面接などにおいて“話し方”というものに重きを置いているところがあるのではないでしょうか。実際私はそうした傾向にあり、以前は上手くいっていましたが最近は話し方だけでは補いきれないことが多くあることを痛感しています。いくら上手く話したつもりでも、内容が薄いと聴衆の心に響いていないのがこちらにもわかるのです。反対に、自分の言いたいことがまとまっていないけれどそれを懸命に説明したとき、聞き手に納得してもらえた経験もあります。まずは何を伝えるかが最も重要なのでしょう。自分の話し方に自信を無くしかけていましたが、これからは少し視点を変えようと思うことができました。
また、取材の中で自分は評価される側である以前に“評価する側”だと思ってほしいというお話もありました。この言葉を聞いて肩の荷が下りる人は多いと感じました。誰もが何かしらの悩みを抱えている昨今、目の前にいる人も自分と同じようにプレッシャーを感じていると考えるだけで、なんだか安心するのは私だけではないと思います。今回のお話は吃音の当事者の方はもちろん、悩みを抱える全ての人に読んでいただきたい、そんな内容でした。