今まで創った「おひなさま」たち
約6年勤めていた化粧品会社(某S堂)を退職し、念願の「根付師」になってかれこれ今年で23年目になりました。
その間いろいろな根付を作ってまいりましたが、その中には根付ではない彫刻品も依頼されて数多く創っております。
今で言うストラップの「ぶらり(提げ飾り)」はもちろん、根付の素材として使う牙角類や木材を彫刻して創る「帯留め」や「かんざし」等の和小物から、「指輪」・「ブローチ」や「ペンダント トップ」「イヤリング」などのアクセサリー類、そしてなんとこだわりのオリジナル『お位牌』まで創っておりますが、その中でやはりご依頼が多いのが「おひなさま」です。
●おひなさまをモチーフとした「根付」
©️2008 陽佳 YOKA Mukaida 根付「立雛」象牙 陽佳 作 〜 個人所蔵 〜
子供の頃からいわゆる“立ち雛”が好きだったせいもあり、振り返ってみると立ち姿の対雛をモチーフにした作品が多いようです。
ただ、古い絵などに描かれる素朴な立ち雛の男雛は手を真一文字に横に広げている姿が多いので、根付として楽しめるよう動きと情感を表現する構図(デザイン)にアレンジし、表情や人間味を加味しながら作り上げていきます。
2008年に創ったこちらの作品「立雛」は、根付として使えるように紐通し穴があり、根付ならではの“ひねり”も隠されているのですが、もちろん「お雛さま」として飾っても楽しんでいただけるよう華やかな衣裳を染めと彫りで表現しております。
↑下の穴は、紐の結び目がゴロゴロと出っ張って邪魔にならないよう上衣との段差を上手く利用
紐通しの穴は、紐が通して腰帯に装着した時、根付が逆さまになったりしないよう重心を考えながら作品の正面が前を向くよう開けなくてはなりません。また穴がデザインを邪魔してしまったり構図を崩してしまっては元も子もないので、穴自体がデザインの一部として“景色”になるよう配慮しなけばいけない重要ポイントであり、根付の見どころの一でもあります。
↑男雛女雛の足元にはキュッと結ばれた「結び文」が配されていて、おそらく二人が交わした恋文かと… こんな想像をさせる隠しアイテムも根付の“ひねり”の一つかと
↑既にブログでも紹介しておりますが、ツンとすました女雛様を守るように優しく包み込むような仕草の男雛さまが良い味を出してます
●お守りのような 「小さな小さな おひなさま 」
©️2015 陽佳 YOKA Mukaida 雛飾り「おひなさま」象牙 陽佳作 〜個人所蔵〜
身の丈は5センチ。( 男雛さまは5.2cm、女雛さまは5.1 cm )
こちらはいわゆる「芥子雛」サイズのおひなさまです。根付ではないのでもちろん紐穴はありません。
可愛らしく華やかな小さな立ち姿の対雛で、御衣装と髪型は平安朝にしております。意匠の色柄は有職故実から離れてデザイン優先にしておりますが、女雛は天然染料の“茜”で茜色に染めあげ、蝶を彫刻し、所々に伊勢の「芥子パール」を象嵌し気品ある華やかさを。男雛は見た目重視でカジュアルな狩衣(かりぎぬ)姿、青海波文様の上に千鳥型に切り出した白蝶貝を象嵌して雅な趣を出してみました。女雛の裾裏に男雛とお揃いの青海波文を入れて隠れペアルックにしているのがポイントです。
そしてなかなか見ることができない真下の画像を!
↑男雛の指貫は立涌と唐草を合わせた柄にし、これから蹴鞠に興じるかのごとく浅沓を履かせて
↑女雛は緋色の長袴に
二十四節気の雨水から三月三日の上巳まではお二人を飾っておけますが、その後は桐箱に。桐箱に収める時の保護袋として正絹の小袋を作品に合わせて仕立てるのですが、今回は柔らかいお布団のようでもあり、お守り袋のようにもみえる可愛らしい袋にしております。
↑お二人の間はポケットのように縫い仕切られているので、袋の中でぶつかる心配もなく、かぶせフタをおろして紐で結んでいただければ、そのままお守りのようにカバンに忍ばせて持ち歩いていただくことも可能な大きさです
毎年三月三日が近づいてくると、ふと今まで創らせていただいた「おひなさま」達がご依頼主様の元で愛でられている姿が目に浮かび、何やらとても幸せな気分になるのです。
↑いつも横並びで飾られるお雛様。たまにはお互いのお顔を見ながらお話もしたいのではと思い、向き合う姿で撮影
他にもそれぞれのアップや素敵な後ろ姿の記録写真もありますが、長くなるのでまた改めてご紹介します。
◇今回紹介した根付「立雛」のブログはこちらから
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