決闘だけがデュエマじゃなかった話。
2020年7月25日、快晴。
名前を言ってはならない例のアレ(コ○ナ)のせいでオリンピックが中止になった。
しかして、そのために用意されていた祝日はそのまま国民に与えられた。
かくして、私はプチ長期休暇を満喫しており、なんなら前日まで熱海へドライブ旅行へと繰り出していた休みも半ばの朝である。
私は、久々の実家のベットでの起床を満喫していた。
カーテンの隙間から差し込む朝日、夏にしては冷たい空気に頬を撫でられながらに、大きく伸びをして私は思う。
(めっちゃカードしてぇ…)
そうと決まれば友達に電話をして、チャリンコのカゴにカードを詰めたバックを投げ込みレッツゴーである——とは易くいかぬのが現実であった。
そう、時は2020年、もはや私は高校生のあの日にはいない。今の私は24歳、周りにそうやすやすとカードゲームを嗜む友などおらぬのである。仮にいたとしても良い歳をした大人は当日の朝にアポをとってもなかなか呼び出されてくれなかったりもするのである。
現実は無常である。
無常であるので、私は現実——リアル——ではなく、ネットに頼ってみることにした。枕元においてある縦長の箱は、決して仕事の電話を受けるだけの機械ではないのだった。
指先一つで青い鳥を召喚。
カードゲーム出戻りおじさん改め、出会い厨おじさん爆誕の瞬間であった。
誤字まで嗜んで恥ずかしさの倍プッシュであろうが、それでも私はデュエマがしたかったのだ。仕方ないのだ。
とはいえ自分でも軽く引いているくらいだ、釣れる人などそうそう——
——めっちゃ釣れた。
かくして、カードゲームに出戻り出会い厨おじさんは約10年ぶりに他人とのフリープレイの機会を獲得したのだった。
「楽しみだなぁ、俺の不死樹王国が生贄を求めて慟哭してやがるぜ……!」
—
——
———
vsバーンメア
「うぎゃあ!これが噂のGR召喚!!攻撃をはじめてから無限に打点が増えてく!シャドバか!?」
vsデットダムド
「ぎょえぇ、なんか裏側で乗せたカード取れたら強そうなの出てきた…あれ?今ターンエンドしましたよね?え、またそっちのターンなの?…」
vsクラッシュ覇道
「え、おかしくない?勝手に自分で吹っ飛んだのに追加ターン取ってくるのずるくない?八つ当たりじゃん……」
—
——
———
「——いいデッキですね、それ」
カードショップのプレイスペースの隅で、ひとしきり対戦を終えた後に、対面に座る彼——【のまろか】は私のデッキを指さしてそう言った。
その日の対戦の内容は終始のまろか側が優勢で、初心者であったが故にプレイングもデッキ構築も未熟であった私は、圧倒され続けた。
しかし、その様相は字面から想像されるほど凄惨ということでもなかった。
というのも、強力なデッキの数々を操る彼であったが、初心者の私がゲームの展開についていけなくなることのないように、カードの一枚一枚、作用している効果の一つ一つを丁寧に解説しながらゲームを進行してくれていたのだ。
おかげで、私は【現代のデュエルマスターズ】というものに触れながら、ゲームそのものも余すところなく楽しむことができた。
当然のことだが、そんな風に対戦相手を務めてくれた彼のことを私は既にかなり気に入っていたし、そんな彼に自分のデッキを褒められたことはかなり大きな喜びだった。
「えー、そうですかぁ?へへ、実はまぁ、へへへ、よくわからないなりに考えて組んだんですよね、へへへ」
私はそう言いながら頼まれてもいないのに自分のデッキをずらりとテーブルに並べていった。
そう、カードゲームオタク特有のアレである。
たいていの場合には鬱陶しがられてしまう行為だが、彼はそれを笑って眺めながら私の話を聞いていた。
「ギガンディダノスを立てるのが目的なんですね」
カードを吟味した風にうなずいて彼は言った。
「そうですそうです、2→4って動いて、6でライマーチャントかアンダケイン(からドルイドをリアニメイトする)を出すと、次のターンに墓地からギガンディダノスが出せるってのがメインルートなんですよ」
「じゃあヴェルデとデッドゾーンは?」
「ダノスが召喚されるまでは時間がいるので、その間相手の動きを放置してたら負けちゃうかなと…」
「なるほどなるど、マナと墓地に置くカードを選べるドルイドとも相性いいですもんね」
ひとしきりデッキに内蔵されているギミックとコンセプトを語り尽くして、私ははたと気が付いた。
引退前、遊戯王を遊んでいたころの私は、自慢ではないがそれなりにデッキ作りというものを上手に行えたように記憶している。デッキ構築に必要なのはカードプールに対する理解と、カードの知識量であるように思っていた。
その観点から言って、現在の私には圧倒的に情報が足らなかった。カードプールについての理解に乏しく、カードの種類もさほど多くは知らない。その点で言えば今日の対戦はカードプールに触れることのできる素晴らしい機会だったし、だからこそとても楽しかった。
では、今度も目の前の彼に頼ることができれば——?
「——もしよかったら不死樹王国デッキ作るの手伝ってくれませんか?」
初対面の相手に対するにしては、厚かましいお願いだったか。私がそう思いなおすよりも早く、彼は快諾の意志を示し、もう一度デッキを眺めてから口を開いた。
「なんとなくわかってきたんですけど、ぽけさんってコントロールと墓地利用が好きって感じですよね?」
ドンピシャだった。
それはまさしく私の性癖である。
「そうですねぇ!大好きなんですよ、特にハンデスとかも好きで……」
「なら良いカードがありますよ、最近出たパックに入ってるカードですけど、これとか…あとこれとか…」
彼から差し出される携帯端末には次々と私の求めていた能力を持ったカードが映し出された。
「へぇ、こんなカードがあるんですね!」
「他にもこんなのもあって——」
私に決定的に不足していた知識が目の前の彼からドバドバとあふれ出してきていた。私は楽しくて仕方がなかった。
だってそうだ。私のデッキは私の持ちうる知識では最高の出来であったが、それらが次から次にアップデートされていく感覚が楽しくなくて何なのだ。
こんな風に戦いたい、こんな役割のカードはない?そんな私の質問にも彼は親身に答えてくれた。
思えば、彼は会話の導入からして私の趣味趣向やデッキのやりたいことの聞き取りをしていてくれていたように思えた。その事実に気が付いた瞬間から、私の心の中での彼の呼称は【のまろか先生】になっていた。
※これが後の私のカードゲームライフに大きく関わることになるのまろか先生爆誕の瞬間であった。
「墓地を利用するならこんなカードもおすすめですよ」
「受けるということならこれなんてどうでしょう?」
溢れる情報とわくわくに身を委ねながら、ああでもない、こうでもない、それはどうだ、あれが良いです、そんなやり取りを楽しんだ。
ー
——
———
プレイスペースでの議論の後、彼はデッキリストの考案に留まらず、さも当然のように秋葉原のカードショップへ私を連れて繰り出し、デッキパーツの収集を手伝ってくれた。
「と、とんでもないもんができあがっちまった……」
目の前に完成したデッキを前に、新たな自分のデッキに期待と感動を抱きながら私は呟いた。
新しいデッキを作るときというのは、まるで兵器でもこさえているような感覚に陥ることがある。昔からその感覚がたまらなく好きだった。だが、今は更に一段階上の感覚に浸っていた——
「もとの原型だいぶ留められてないですね……なんかごめんなさい」
「いやいやいや、カードも何枚か貰っちゃったし、カード探すのも手伝ってもらっちゃったしで感謝しかないっすよ」
——まるで、秘密結社で世界に内緒で決戦兵器でも作り上げているような感覚だった。わくわく感が比ではない。
ストレージを一緒に漁って掘り出し物にはしゃぎ倒し、時にはデッキとは関係ない懐かしいカードなんかを取り上げて思い出話などに花を咲かせ、ショーケースを一緒にのぞき込んではカードの値段に一喜一憂する。たまらなく楽しく、尊い時間であった。
人と遊ぶカードゲームは対戦だけではないのだということを思い出した。そんな日だった。
やはり、カードゲームは良いものだなと、改めてそう思った。
「じゃあ、さっそく新しいデッキを試しますか?」
「んー、いや、もう良い時間ですし、ラーメンとか食いに行きません?」
それはそれとして、ラーメンも良いものであった。
※秋葉原 肉汁面ススム、罪の味である。
ー
——
———
「そういえば、こんなにガッツリカードの値段吟味したの久々でしたけど、結構高いカードは高いですよね。オブザとか、本当は4投でもいいかなとも思いましたけど、値段に日和っちゃいました。高校生の頃とかと違ってお金がないわけでもないんですけどね」
脂っこいラーメンをずるずるとすすりながら私はそんなことを言った。
「ああ、まぁそうですよね——」
そういうと、彼は少しだけ遠くを見るようにして私から視線を外して言った。
「ちなみに僕は、あの日にはできなかった高いカードをじゃぶじゃぶ使った、それでいておもちゃみたいなデッキを使ってる時が一番楽しいんですよね」
ぞっ。
「でもまぁ……そのうちそんなこと気にもならなくなりますよ」
ぞぞっ
「マジで、気が付いたらこっち側ですよ、ほんと」
今日、一貫して優しい人格者であったはずの彼が、なぜだか、たまらなく恐ろしかった……。
それではまた、別の備忘録とかで。
PS.あの日ののまろか先生、僕も立派なそっち側になれました……
自分が怖いです。
PSのPS 不死樹王国最新バージョン(2021/03/08時点)
紹介記事を書きました。
とても楽しいデッキですので、是非見ていたたければと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?